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亀裂
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穏やかな日常は突如壊された
あいつの一言によって
「俺、彼女できた!」
その刹那、俺は呼吸を忘れた
上手く息が吸えない
目眩がする
頭がまわらない…
「っ…おめでとう」
そう言った俺は綺麗に笑えていただろうか
「この間言ってた好きな子?」
そう聞くと少し照れくさそうに頬を染めながら俯いて小さく頷いた。
「よかったじゃん。」
あ、駄目だ…。目の奥が熱い
涙が出そうだ。けどこんなところで…こいつの目の前でなんか泣けない
「ちょっとトイレいってくる」
そういって俺はなんとかその場から離れた
「…ひどい顔だ。」
鏡に映る俺は目が赤く瞳は潤み眉は八の字に垂れ下がっていた
「まるで捨てられた子犬みたいだな」
なんて自虐的な笑いが込み上げてくる
…喜ぶべきことだ。あいつが好きな子と結ばれたんだから
俺だってそれを望んでいたはずだろ?
元々、俺に望みはない。分かっていたことじゃないか
そう自分に言い聞かせる。そうでもしないと今にも泣き崩れてしまいそうだから
これからは俺とじゃなくて彼女と帰るんだろうかとか今までは俺に向けられていた笑顔が彼女に向けられるのかとか自分が知らない顔を彼女の前ではするんだろうかなんて思うともうどうしようもなかった。
落ち着こうと思うにも様々なことが頭に浮かんでは消え正直、教室に戻れそうもない
もうすぐ授業が始まると言うのに…。
けど、今戻ってもあいつの顔をまともに見れる気がしない。
「ひどい顔だな?」
突如声をかけられた驚き振りかえるとそこには白衣を羽織る男が気だるげに立っていた。
「…ほっておいてください。」
「おいおい、冷たいなぁ。せっかくのべっぴんさんが台無しだぞ?」
変なことを言う男を無視して教室へ戻ろうとするとぐいっと腕を引っ張られた
「…なんですか?俺、教室へ戻りたいんですけど。」
「嘘つくなよ。本当は戻りたくないくせに」
心情を言い当てられて思わず息がつまった。
「…っ、授業が始まるんで手…離してくださいっ」
「噂通り真面目ってのは本当みたいだな?まぁまぁ、落ち着けって。戻りたくないんだろ?俺が良い場所見繕ってやるからさ」
そう言いながら男は俺の手を引きながらぐいぐいと引っ張っていく。
「あのっ、俺本当に授業でなきゃなんで!」
「無断欠席が嫌だってんなら俺が先生に伝えといてやるから安心してサボれ。」
なんてぐだぐだと言い合ってるうちに保健室へと連れていかれた。
「まぁ、座れって」
そう言われてしぶしぶ腰かける。
もうとっくに授業は始まってしまっていて今更戻るなんてしたら注目されてしまう。それにあいつと顔合わせて平静でいられる気がしない
ので、俺はこの男に拉致られたんだと言い訳して人生初のサボりとやらを体験している。
「ていうか、あなた誰なんですか?」
と、素朴な疑問を伝えると男はキョトンとしてふいに笑いだした
「ははっwそうか、俺そこそこ女子に人気あるから知られてるかなとか思ってたんだけど知らなかったかぁ。そっかそっかww」
なんて言いながら俺にマグカップをさしだしてきた
「俺は保険教諭兼カウンセラーの滝口 奈緒(たきぐち なお)だ。以後お見知りおきを。」
男をよくみると二重のタレ目は甘い雰囲気を演出し、色素の薄い髪は癖っ毛なのかパーマがかかっている。
なんというか無駄に顔が整っている。
黙っていれば童話の中の王子のように見えるかもしれないが口からでてくるうさんくさい喋り方のせいで台無しだ。
「で、さっきはなんで泣きそうな顔をしてたの?俺に話してごらんよ優等生の閑谷 黎弥くん?」
「優等生じゃないですし、なんで俺の名前を…」
「君、有名だよ?見た目は不良だけどその見た目に反して中身はすごく真面目だって。今こそ、見た目も不良じゃなくなったみたいだけど」
そう言われて思い出す。
髪は以前、金髪だった。だけど俺と一緒にいることであいつの株まで下がるのが嫌でおとなしい色に染め直したんだ。
「もしかして、髪のことさっきの泣きそうだったことと関係あるの?」
「…その質問はカウンセラーとしてですか?」
「うーん…正直、それもあるけど俺の興味半分ってとこかな?」
あまりにも正直すぎて毒気を抜かれる
「…失恋したんですよ。」
自分でいいながら再確認してしまって目の奥におさまっていた涙が溢れそうになる。
男は先程とはうってかわり静かに話を聞いている
「隣にいれればいいって思ってたんですよ。元々、望みもなかったし。だけどいざ、あいつに彼女ができたってわかったら全然いつも通りにできなくて…。」
「…お前は男に恋してたのか。」
そう言われてハッとする。俺は心が緩んで思わずありのまま話してしまっていたようだ
「慰めになるかわからねぇけど、俺はゲイだ。それも根っからのな。気づいたときには絶望したよ。なんせ、俺の恋が上手くいくなんてことはないしそれどころか気持ちを伝えることも満足にできないんだからな。」
そういいながら自嘲ぎみに笑う。
先生も昔、辛い恋をしたのだろうか…
「最初はそう高望みしないんだ。だけど、どんどん欲深くなっていく…。正直、しんどいよなwどんなに想ってもその想いを口に出すことさえできないんだから。」
先生は優しく微笑んだ
「無理しなくて良い。泣きたいなら泣け。他のとこでは強がっても良いから少なくとも俺の前では弱ったところみせろ。俺はその気持ちバカにしたりしないし他のやつよりは理解できるだろうから。1人で抱え込むな」
そう言いながら俺の頭を強くかき混ぜた。
その言葉に今までは押し止めていたのが嘘のように涙が溢れでてきた
「落ち着いたか?」
「…はい。」
今まで我慢していた分、全てをだしきったからかすごくスッキリしている。
「せっかくのべっぴんさんが目元腫れて台無しだなwwww」
「…うるさいですよ。」
「失恋ふっきるために俺と付き合っちゃうか!?wwww」
「冗談は顔だけにしてくださいよ…」
なんてしょうもないやり取りが心地よい
やはり同じ境遇にいるからだろうか
「辛くなったらまたきていいぞ。むしろこい、俺の相手しろw」
意地の悪い笑顔を浮かべながらそんなことを言ってくる
「自分が暇なだけですよね??…たまに耐えられなくなったら来ても良いですか?」
そう聞くと俺からそんな言葉が出たのが以外だったのか目を見開き驚いている。
だがすぐにいつもの笑顔で
「いつでもこいよ。」
そう綺麗に笑った。
まだ、気持ちの整理はつかないから。すぐにこの気持ちは消せそうにないから…
ただ、いつかはきちんと心からあいつのことを祝福できるように…
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