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喰われる!
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「消えろ」
静かな室内に響く低く透った声。声の主は綺麗な形の口を固く結び、涼しげな相貌には冷たい視線を含ませている。
そんな隊長の視線を浴びた人物は、手に持つ紙束を俺に押し付けて一礼し、逃げるようにして部屋を出て行った。
「ちょっと隊長。機嫌悪いからって、イチイチ書類を運んでくる人を凄んで返さないでください」
「うるさい、新人」
ジロリと俺まで睨みやがった。
眉間に皺を寄せたまま書類にサインし始める隊長。カリカリという音がしばらく続いて、パキンとペン先が折れた音がした。
相当イラついてんなぁ。今日これで5本目だよ。
『雷帝』と呼ばれるに相応しい風格、けれど見た目優男な第二近衛分隊長コンラート・シュトライト様は最近ご機嫌ななめだ。イケメン故に睨む相貌は果てしなく恐ろしい。でもまあ、もう見慣れた姿になったけど。
「機嫌の悪い隊長の傍になんていられるか」
他の隊員が隊長に関わる雑務を新人の俺に押し付けて一週間。イライラしている隊長にむやみに触れると、電撃が走ってぶっ倒れるらしい。みんなそれを恐れていた。確かに、静電気みたいなビリビリ攻撃は時折俺も体験しているけど、今のところみんなが言うほどの電撃に遭遇したことはない。
入隊して一ヶ月という新人だから、先輩から指示されたら従うしかないんだけど、いい加減誰か代わってほしいと言うのが本音。でも剣術の修錬や基礎体力作りをしなくて済むのはありがたい。
うーん、複雑。
「おい、新人」
「何ですか、隊長」
「お前、よく俺の傍にいられるな。恐くないのか」
入隊してから隊長には『新人』と呼ばれ続けているので、俺の名前がノア・アールって隊長知ってんのかな? なんてふと思ってみたり。
それよりも、まさか本人から『恐くないのか』なんて聞かれるとは思いもしなかった。少しは自分の評判気にしてんのかなぁ。
『雷帝』様は『真実の瞳』なるものを持っている。だから瞳を通して嘘は見抜かれてしまう。そもそも俺、考えてることはすぐに顔に出る質だから、嘘ついてもすぐバれるので、隊長からの質問には素直に答えていた。
「恐いかと聞かれたら恐いですけど、仕事ですしね。でもまあ、あと2ヶ月と思えば」
「2ヶ月?」
ポロッと漏らした俺の人生計画に、隊長の綺麗な眦が吊り上がった。
おお。更に怖さパワーアップ! 背筋が凍るってこういうことだね。柳の木の下に機嫌の悪い隊長置けば、夏の風物詩に最適。
「はあ。研修期間の3ヶ月が過ぎたら、辞職して推薦状を貰おうかと」
新人採用の研修期間が3ヶ月だ。少なくてもそれを終えて退職を申し出れば、王宮から転職用の推薦状をもらえる。それを持って実家に帰ろうと思っているのだ。
田舎にある実家が貧乏だった俺は、給金が高い王宮の仕事を幼い頃から目指していた。そして今年、文官志望で試験を受けたのだ。合格までは良かったが、何故か武官に放り込まれてしまった。
人望熱く高名で見目麗しい「魔術師 雷帝」が隊長を務める第二近衛分隊の所属になり、はや1ヶ月。
周囲は俺を羨ましがるけど、文官の枠にも引っかからなかった俺はショックで鬱々していた。だって近衛隊は日々鍛錬。運動が苦手でもやしな俺にそんな体力があるわけがない。実際、不機嫌な隊長付きになった時には既に体力の限界に近く、倒れる一歩手前だった。
しかも第二近衛分隊は精鋭魔術師軍団。そして俺には魔力は全くない。
『何故に第二近衛分隊に配属されたんだ!?』
と人事に何度も掛け合ったが、返答は毎回
『頑張れ』
のひと言と空笑い。
粘っても明確な返答を得られることはなく、仕方ないと俺は今後の計画を練った。給金は諦めて田舎に帰ろうと決めた。だから、とにかく3ヶ月は頑張るつもりでいる。目指すは田舎ライフだ。
「…推薦状もらって、その後どうするんだ?」
「実家に戻って、自分に合う仕事を考えます」
「退職して、実家ねぇ」
ふむ、と書類とペンを放り投げて考え込む隊長。
ええーっ仕事放棄ーーーっ!
隊長をどう仕事に戻そうかと考える俺の耳に突然届いた、ドンッという雷の音。
「え? 雷? 雨、降るのかな?」
窓を見れば外は晴れ渡る青空。
雷はどこから聞こえたのだろうと首を傾げたが、まずは隊長をどうにかしないと!
「隊長! 今日のノルマが達成しない場合、風帝様に密告しますからね!」
風帝様は第二近衛本隊の隊長だ。厳つい風貌の俺様なオトコ前な方で、魔術も剣術もコンラート隊長の上をいく。そして、俺の隊長に関する愚痴を聞いてもらえる唯一の人。
何故そんな仲になったかというと、風帝様専用の馬が俺の入隊初日に替わったのだけど、田舎暮らしで身に付けた『お馬さんと仲良くなる技』を持つ俺にしか懐かなかったという新馬(ニューフェイス)だった。で、厩担当から頼まれて世話をしていた。世話しながら馬(リュドー)相手にいろいろと隊長の愚痴を言ってたんだけど、どうやら風帝様は馬(リュドー)と話ができるみたいで、俺の愚痴がダダ漏れだった。
「困ったことがあったら何でもリュドーに言っとけ」
豪快に笑われながら風帝様の許可も貰っているので、遠慮なく愚痴らせてもらっている。隊長には苦い顔で『止めろ』と言われているけど、誰が止めるか。愚痴られるようなことをしなければいいんだ。
「風帝(ルーベルト)か。それは面倒だな」
深い溜め息を溢し、渋々ながらも隊長は仕事を再開くれた。
そして遠雷のBGMは、ずっと続いていた。
それは昨日の出来事だったなと思いつつ、俺は空を見上げた。
天には雲一つない綺麗な青空と、陽の光。遠くから聞こえてくるのは雷ではなく蝉の声。
今日はなんて素敵な洗濯日和なんだろう。
じゃなくて。
「隊長。なんで俺、手錠掛けられて拉致られてんでしょ?」
「気にするな、新人。よくあることだ」
「いや、ないでしょ」
近衛隊の隊長が新人を正面から拉致、って聞いたことないですが。
しかも通り過ぎる同じ隊の人たちは口揃えて
『隊長、頑張って下さい』
と拉致を笑顔で応援していたし。
俺は隊長に不審な目を向けた。そんな俺に
「細かいことは気にするな」
と言い切る隊長。
どこも細かくないでしょうに。
そうこう言っているうちにも、俺は隊長の肩に乗せられて運ばれている。気分は誘拐された子供だ。こんなに体格差あったけ? 隊長、魔術師なのに。でも、隊長だけあってあったんだねぇ。
…自分で何言ってんのかわかんなくなってきた…
「抵抗はするなと言っておく。どうせ抵抗しても同じ結果になるからな」
どこか楽し気に宣告する隊長。
俺は楽しくないんですけど。
逃げようにも手錠がきっちりかかっていて、抵抗の一つもろくにできない。まして、文官志望だった俺が、第二近衛分隊長『雷帝』様に敵うはずもなく。
隊長の言う通り、どうせ抵抗しても暖簾に腕押し糠に釘。無駄なことだとわかってるから、俺も無駄な体力を使う気はない。大人しく運ばれる。
運ばれついでに、なんでこんなことになったのかを思い返してみた。
今日は非番。
俺は掃除に洗濯に馬(リュドー)に愚痴りに行って(世話ではない)、と今日の計画を立てて朝から準備していた。
そしていざリュドーの元に行かん! と勢いよく玄関の扉を開いた時に、部隊の緊急連絡が入ったのだ。
「西のイーリッジ村に自然災害発生。村人の多数に生命の危険あり。手の空いている隊員は集合」
とのお達しが。
この緊急連絡は非番でも適応されるから、俺は集合場所に向かうことにした。もし、これを無視して後日
「何故招集命令に従わなかった?」
と聞かれたら、『真実の瞳』でばれて一巻の終わり。『人の命よりリュドーを取った』と言われて、推薦状が貰えなくなってしまう。
というわけで、集合場所の部隊屯所へ行くしかない俺だった。
イーリッジ村は連日の猛暑に悩まされていたが、本日ようやく天の恩恵に与ったようだ。ところが、恩恵を超えた容赦ない雨粒と風と雷の攻撃で川は決壊、家も風で飛ばされているとの情報だった。昨日の雷はイーリッジ村の方から聞こえていたのかもしれない。
俺、救助の前に風で吹き飛ばされるんじゃないかなー?
なんて思いながら屯所廊下を歩いていると、廊下の先に隊長の姿が見えた。遠目でもわかる、近衛隊長専用の服と凛々しい姿。
「隊長。きっと俺、現地では風で動くことができないと思うんですけど。指示を…」
言いながら駆け寄れば、手錠掛けられて。唖然としているうちに隊長が俺を肩に担いで…今に至る。
あー、うん。全然情報整理できなかった。
そんなこんなで運ばれた先は王都にある、門構えがしっかりした庭付きの白い壁の清楚な館。
館の中に人気はなく、とても静かだ。その中の一室に迷うことなく隊長は足を運び、そこにあったでっかいベッドに俺を降ろした。
おお、ふかふかだ。俺が普段使っているベッドとは大違いだ。
ここでようやく隊長と目を合わすことができた。
「隊長。確認しますがイーリッジ村の救助は…」
「今日もイーリッジ村は晴天、心地よい初夏の天候だそうだ」
「じゃあ今日の緊急連絡って…」
「お前を呼び出すため」
「…っ、来いのひと言で良いでしょうが!」
なんちゅー手の込んだことをしてるんだ!
「来い、だけだとお前来なかったろ」
見抜かれてるーっ!
そりゃ確かに緊急連絡だったから、嫌々でも集合場所に行った訳だけど。
「なら隊長。いい加減これ、外してもらえませんかね?」
これ見よがしに両手首にあるものを強調しつつ、言ってみる。
少しばかり食い込み気味で痛いんです。
「俺の言うことを聞いたらな」
口端で笑う隊長。
その笑い方がなんかを含んでいるようで、できれば聞きたくないな、と思うけど、聞くしかないよなぁ。
「じゃあ俺、何をすればいいんですか」
隊長はベッドの端に置いてあった本を手に持ち、俺の手首を指した。
「まずはこれをお前に読んでもらいたい。それ、外して貰いたかったら、ちゃんと感情込めて読めよ?」
「え、朗読ですか?」
「そうだ。この絵本を読め」
凄く真面目な顔の隊長。そんなにその絵本を読むことが重要なことなのか?
でも絵本…いい年した大人の『雷帝様』に似合わない。
しかも拉致してまでなんで俺? 朗読?
「読むのか、読まないのかどっちなんだ? 読まないなら手錠はそのまま…」
「読みます!」
痺れを切らしたのだろう荒々しい隊長の声に、俺は慌てて返事する。
すると隊長は『喰われる!』というタイトルの『絵本』を差し出した。
それを受け取り、座り込んでいた足の間に絵本を置く。
『絵本』っていうには凄いタイトルだし、見たことも聞いたこともない本だなと思いつつ、その表紙をぺらりとめくった。
+
+
+
+
その日、僕は体を無理矢理床に叩き落とされ、服を剥かれた。
彼の目の前に晒された、誰にも見せたことの無い僕の体。
「や、やだ…っ、恥ずかし…」
「待ってろ。直ぐ準備してやる」
彼はニヤリと笑った。鋭い瞳は捕食者の、それ。
それに加えて、苛立ちと焦り、飢えが伺える。
怖い。
でも。このままでは…。
「…ッ」
僕は逃げ出したかったけど、用意周到な彼の手によって囲まれていたのでどうすることもできなかった。
「さて。続けようか」
明るい光の下で彼は舌なめずりし、僕の体(すべて)を凝視している。
恥ずかしいと思うけれど、僕は恐怖に怯え隠す手段も思いつかない。
彼の手が、僕に延びた。
「や…あ…っ」
嫌がる僕の声など彼には届いていない。彼は硬くなっている僕の体をいかに解そうと夢中になっているからだ。
「誰か、助けてっ」
彼が僕の中に、直立した棒を差し込んだ。
「や、やだ…やあぁああああっ!?」
嫌なのに。嫌なはずなのに、なんで、どうして?
初めてなのに、気持ちいい!
「ああぁああぅ…っ!やぁああっ!もっと、…もっと、かき回してぇ!」
はしたなく強請る僕。彼によって棒を何度も挿入され、息絶え絶えになる。
「よし、いくぞ」
彼は僕の中に白濁の液をドクドクと注いだ。それも、半端ない量を!
「うあぁん!」
彼は僕と白液を混ぜる。持っている技術(テク)を駆使して、繰り返し、でもどこか優しく。
僕は全身が熱くなるのを感じた。
「体が、アツい…」
「俺の腕もなかなかなもんだな」
意地悪そうな彼の声が耳に入るけど、熱に浮かされた僕はうわ言のように『アツイ』を繰り返しながら、意識を飛ばした。
目覚めたとき、彼は僕を見て満足そうに笑っていた。
とても素敵な、笑顔だ。
そして彼は言った。
「オムライス、上手にできた」
+
+
+
+
「これのどこが絵本っすかぁーーーっ!!??」
「棒読みするな。感情込めて読めと言ったろうっ!」
理不尽だ! 何でこんなことで、俺が真面目な顔した隊長に怒られるんだ。
そもそも、こんな怪しげな悲鳴だか喘ぎだかわからんモノをどう感情込めろと!?
第一、こんなんじゃオムライスはできねぇ!
リュドーに今すぐ愚痴りたい! リュドー、会いたいよぅ!
「っつか、マジで何がしたいんですか、隊長! 災害救助から何から、さっぱりですよ!」
俺が叫べば、隊長は
「救助活動」
しれっと返しやがったです!
俺はどこの誰を救助すればいいんですかい!
「…隊長、どこ触ってんすか?」
「救助活動って言っただろ? お前の乳首と尻を弄っている」
…そうですね。確かに俺の乳首撫で回してますね。
……尻、撫で回しながら揉んでますね。
………乳首抓んないでほしいですね。
「何してんすかーーーっ!?」
「だから救助活動しろと言っている」
高名な雷帝様の言っていることが、さっぱりわかりません。
誰か通訳してください! 風帝様ならわかる? リュドー助けて!
思わず涙目になる俺は悪くないよね?
「お前見てると欲情してなぁ。仕事にならんのだ。さっき、ちゃんと感情混めて読めって言ったろ? 俺の作った本の朗読で一回自己処理しようと思ったけど、棒読み過ぎて無理だったわ。いい加減仕事に影響きてるから、その体で俺を助けろ」
「え、なにその不合理な救助活動要請! そもそも、そんなくだらない本作ってる暇があったなら、ちゃんと仕事してくださいよ! …っ、やめ、て下さっ、いっ!」
乳首舐めんなー!
「無理。あの試験日にお前と会ってから、どうも止まらん」
「無理じゃないです! 大丈夫、隊長なら止められます! だって隊長ですから!」
「無理なんだって。お前、魔術師の番(つがい)の話、知ってるだろ」
魔術師の番(つがい)。
第二部隊分隊にいれば、嫌でも番の話は耳に入る。
魔術師は精霊との契約で魔術が使える。その精霊が高貴であればあるほど高度魔術が使える。
その代り、高貴な精霊は魔術師の伴侶にも煩くなる。精霊に嫌われた伴侶を選んだ魔術師は、契約を解除されるか伴侶と別れるしかない。ここは魔術師の選択に任されている。
逆もまたしかりで魔術師が何とも思っていなくても、伴侶として精霊に気に入られた人間がいると、その人間を魔術師は手にしておかなければならない。精霊の機嫌を損ねるからだ。ちなみに精霊が機嫌を損ねた場合、魔術師は精霊から強制的に契約を解除される。
そして、魔術師と精霊両方に気に入られた状態の伴侶のことを『 番(つがい) 』と呼んでいるのだ。
「俺はお前を気に入った。精霊もお前を気に入った。だからお前を番にする。人事に手配して近場に置いたはいいが、ずっとどうやってお前を手に入れるか決めかねていた。でも、身体から落とすことにした」
精霊、出て来い! 男の隊長の相手に男の俺を気に入ってどうする!
ってか、隊長も?
いやいや、身体からって…落とすって、え? 試験日に会ってから?
あれ? 最近機嫌悪かったりとか仕事がはかどらなかったのって…
「隊ちょ…」
「うるさい。しばらく黙ってろ」
何言ってるかわからんけど小さく呪文が唱えられた。俺、魔術師じゃないから何の魔法かわからんよ!
でも声が出なくなったので、発語を止められたんだろうと見当はついた。
「文章は無理だけど、喘ぐことはできるぞ。そうしないと、お前もキツイだろうからな。俺も萌えないし」
隊長はさらりとすっげぇこと言いやがりましたーーーっ!
もっと違う優しさを俺に寄越せ!
「お前、試験日に俺と出会う前に子供と一緒にいたろ? あれ、俺と契約している『精霊』だ」
「あ、あぁ?」
「普通、精霊の姿は見えないもんなんだがな。一緒に話して歌って楽しかったとお前のこと相当気に入ってたぞ」
田舎を出て初めて目指した王都。一人旅が寂しくて、道端でポツンと立ってる木の下でこれまたポツンと座っていた子供に声を掛けた。
そしたらその子供の行先も王都だというから、ならばと一緒に来たんだっけ。
その子供のこと? あれが雷の精霊? 隊長の契約している精霊だから、かなり高位の精霊のはず…え、あの子供がっ!?
「それから、その手錠は一回俺と交わるまで我慢してくれ。元々想い人には電撃が弱まるが、さすがにセックスの最中にお前に思いがけない電撃が伝わる可能性がある。手錠には非伝導の魔術がかけてあるからな、安心しろ」
俺が静電気に思ってた電撃は、俺が隊長の想い人だからその程度だった?
というか、セックス最中っ?
安心しろって言われても…え? セックス?
「一回交われば、俺の番とみなされるから手錠は必要なくなる」
交わるってなにーーっ?
やっぱり、セックス?
「ちなみに俺は今まで相当我慢してきたから、抑えがきかない。だから、あの本で一回抜いておきたかったんだが。ま、これはお前も悪いってことで、今日一晩覚悟しろ」
俺どこも悪くないよ?
覚悟もしたくないよ?
反論したいのに出るのは『あーあーあー』だけ。
情けないっ!
俺がうーあーしているうちに押し倒されて服を剥かれた。
もちろん手錠してるから、上は手首のところで服が固まっているけれど、下は剥き出し。
隠したくても手錠が邪魔してどうにもこうにも…うわーーっどうしよーーっ!
「ああ、あぁ…」
『彼はニヤリと笑った。鋭い瞳は捕食者の、それ。
それに加えて、苛立ちと焦り、飢えが伺える。』
絵本の文章が思い出される。今、目の前にいる隊長がまさしくソレ。
捕食者ですよっ!
そして絵本通り俺は逃げることができない。
隊長に言いたいことあるのに、言うこともできない。
できるのは…喘ぐこと。
「うぁ…あ、…んっ」
隊長が俺の首筋を舐めあげ、そのまま口に舌を差し込んできた。
「あん…っむ…」
絡む舌と唾液。舌で俺の口内を嬲られ、息が上がってくる。
酸欠で、空気が欲しくてはふはふと息をしていると、隊長の唇が下に降りてきて乳首を軽く舐めた。
「あぅん…」
今度は舐めるだけではなく吸い上げ、舌で押し潰す。強弱をつけて何度も繰り返されるその行為に、刺激に、脳が痺れる。
乳首がちりちりする。
「は、ぅん…ああぁああ…」
「お前の乳首、起(た)ってるぞ」
だらしなく口から零れる俺の唾液。でもそんなこと気にしていられない。今、体中を駆け巡っている快感を、追いかけたい。
芯ができかけてる俺の男根を、隊長の大きな手が摩り、弄り、擦りあげた。
「あぁああああっ!?」
手の動きに合わせてぬちゃぬちゃと音がし、先端から液体が零れているのだと俺の耳に理解させる。
恥ずかしい、けど、気持ち、いい。
「ああぁああぅ…っ!ぁああっ!」
「…もっと…欲しがれ」
隊長が耳元で囁き、そのまま耳朶を嬲られ、食むられた。
「ふぅ…っんっ」
思わず身震いする。
それから隊長はいとも簡単に俺をうつ伏せにし、尻を少しだけ高くさせた。
「あぁあ…?」
尻を鷲掴みされて、孔を剥き出しにされた。戸惑うことなく隊長は俺の孔を舐め始める。
耳に感じた熱さと同じ熱さをそんなところで感じるなんて、思ってもいなかった!
「うぁあああっ」
自分でも孔が蠢いてるのがわかる。きっと隊長にもわかって…
そう思った瞬間、指が一本入ってきた。
「うぅう…っん」
思わぬ刺激に身体が大きく震える。そこ、指入れないで!
そう言いたくても、言葉にならない。
涙目で隊長を見ようと後ろに顔を向ければ、隊長がゴクリと唾を飲み込んだ。
「お前、これ以上煽るなよ」
熱気で上気した顔、声。
初めて見る隊長の姿に、今度は俺の心が震えた。
「ああぁぅ…」
指が増やされ、解される。この行為が永遠に続くんじゃとぼんやりと思い始めた時、指は一気に抜かれて熱いナニかがそこに当てられた。
「あぃ…?」
隊長の猛り切ったペニスだ、と理解した時には差し込まれ、捻じりこまれた。
「あううぅうぅう…っ」
湧き出た涙が止まらない。息もできなくて、はぐはぐと口を動かすが全然楽にならない。
「おい。大丈夫か?」
「うぅぅんっ」
気遣いの言葉に思い切り首を横に振る。
大丈夫なわけ、ない!
「…悪いな。声、出しとけ」
全然悪いと思ってないでしょう!?
でも、髪を、背中を優しく撫でられると、少し落ち着いて呼吸ができるようになった。
はふ、と息を吐いた途端、隊長が腰を動かして挿抜を始める。
「は…っはぁ…ああぁあぁぁっ!」
喘ぐ声が止まらない。隊長の熱い楔が奥を抉るたびに、快感を得ようと俺の身体も自然と動いてしまう。
隊長の息遣いも荒くなり、
「く、っうっ」
色気艶あるくぐもった声がして俺の中で何かが弾けた、と思ったと同時に、俺も大きく胴震いし、白濁を吐き出した。
「これでお前は俺の番(つがい)だ」
「あぅう…ん」
俺の中から隊長のモノが抜き出された。
せわしなく大きく息を吐く俺の手首から、ようやく手錠が外される。
「まだ終わらないぞ。明日の朝まで付き合え」
隊長はそう言って俺のまだ閉じきらない後孔に再度猛り切ったモノを突き入れ…
俺はされるがままに、喘ぎ。
意識を飛ばした。
『目覚めたとき、彼は僕を見て満足そうに笑っていた。
とても素敵な、笑顔だ。』
絵本では目覚めた時の一文がそれだったな、と思いつつ目を開けた。
隊長は俺を見て、笑ってた。満足そうに、とても素敵な笑顔で。
続きは何だっけ?
『そして彼は言った。』だっけ?
「ノア。結婚してくれ」
その言葉に、俺は隊長の頭を容赦なく殴った。
いや、セリフが違ったことに腹が立った訳じゃないよ?
でも、腹が立ったんだ。
「それなら。権力使って人事弄ったり仕事サボってくだらない絵本作ったり、本読ませて自己処理だとか俺を襲う前に、俺に言うことあったんじゃないんですか」
あ、声出た!
安心した。まだ喘ぎだけだったら、ヤられたことに対して言いたいこと、言えないもんな。
さほどダメージはなかっただろうけど、それなりに痛かったようで、叩かれた部分をさすりながら隊長が俺を見て瞬いた。
「俺がなんで3ヶ月、ここで我慢しようと思ってたと思うんですか」
「3ヶ月したら推薦状を貰って、田舎に帰って…」
「そうです。田舎に帰りたいと思ってます。でも推薦状のため『だけ』だったら、とうに辞めてます。俺そこまで我慢強くないんで。それに推薦状なくても、再就職は何とかなります。3ヶ月我慢しようとしたのは、俺が隊長の姿を満喫して、一生分見納めようと思ったからです」
田舎から王都に向かう途中で出会った子供。話して、歌って、手を繋いで一緒に王都まで来たのに、気付いたら姿が消えていた子供。
王都に入ってすぐ道に迷った田舎者の俺を、試験会場まで案内してくれた親切な優男。
あの子供が『雷の精霊』で道案内してくれた優男が『隊長』だったんだ。
子供のこと…精霊だった事実は知ったばかりだけれど、道案内してくれた隊長のことはさすがに覚えてる。綺麗で、優しくて、強くて魅力に溢れていた男。惹かれるな、って方が無理だ。
だからあの時の笑顔、優しさ、楽しさを忘れたことなど一度もない。
俺は隊長から目を逸らさずに見つめる。
ほら。真実の瞳、使ってみやがれ!
ここまで呆ける雷帝様って誰も見たことないんだろうな。
そう思うと、少しばかり嬉しくなってしまった。で、少しばかり強気になってしまう。
「で、俺に言うことは?」
「―――愛している。ずっと、ノアを愛していた」
「最初からそう言えば良かったんです。俺だって愛してるんですから」
俺は隊長の口を自分の口で塞いだ。
「これで俺を襲ったことは許します。でも昨日一日分時間外でちゃんと請求しますからね? それから」
「俺と結婚、してください」
3ヶ月後。
今日、王都の風の神殿で俺と隊長は結婚式を挙げる。スピード婚だ。皆に驚かれた。
でもまあ、隊長が再三『待てない』っていうし、俺も待ちたくなかったし。
そして俺の仕事は今、リュドー専属の世話係と隊長の専属秘書(ただし不機嫌の時だけ)。
時々隊長が俺をこっそり厩の物陰から見ているのを知っている。ってかもろバレ。
愛は感じるよ、うん。皆も隊長のそんな姿を微笑ましく見ているし、風帝様は肩を震わせて笑ってるし。でも少しばかり恥ずかしい。
俺と隊長は今、あの拉致先の白い壁の館に住んでいる。すでに新婚用として隊長が購入していたのだ。
道理であそこには人気がなかったし、隊長も迷うことなくあの部屋に向かったわけだ。
「外堀から埋めていこうと思ってて」
なんてボソボソ言ったので、『だから行動前にちゃんと俺に言うことあったでしょう?』と説教しておいた。
それから誰もあんなの買わんだろと思うけど、隊長はあの訳のわからん絵本を売り出そうと試みている。
なんでも『朗読、夜の絵本』とかで大人相手に売る気らしい。
っつか、この間も『朗読しろ』と言われて朗読して『感情込めろ』と怒られたよ。あれ俺じゃなくても無理だって。平常でどう喘げばいいんだぃ?
まぁ、兎にも角にも俺と隊長の相性は体以外も良く、精霊との相性も良く無事この日を迎えた。
精霊様もご機嫌なようで、昨日から遠雷で俺らを祝福してくれている。
あまりにもピカゴロしてるので雷の影響は?と恐々聞いてみたら、祝福の雷は上空だけで鳴らしてるから被害はないと隊長が教えてくれた。
祝福ありがとう、精霊さん。
ということで、風の神官長の前に立つ俺と隊長。どちらも近衛隊の正装だ。
うん。今日も隊長は凛々しくて格好いい。惚れ直した!
上司である本隊隊長風帝様の姿もある。その足に抱き着くように、俺と王都に一緒に来た子供の姿も。
わざわざ来てくれたんだ。
俺が小さく手を振ったら、子供…雷の精霊はにこりと笑って手を振り返してくれた。
そんな雷の精霊は、ちらりと視線を向けた神官長と隊長と風帝様以外の誰にも見えてないんだろう。第二部隊分隊や他の皆は俺の行為を気にすることなく『よかったよかった』と笑顔で拍手してくれている。隊員たちは異様なほど喜んでいた。どうやら隊長の不機嫌がなくなって、実害が減ったので涙が出るほど喜んでいるそうだ。
そんなに隊長の不機嫌時の電撃って凄いんだ。俺、隊長の愛があってよかったよ。
「ノア」
「はい、隊ちょ…コンラート」
いまだに隊長呼びが抜けない俺にしかめ面をしつつも、耳許で宣誓の前に囁いてくれた。
「愛してる」
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