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交渉─敦side
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──敦side
それはあまりにも唐突な出来事だった。
学校が終わったあと、自室のベットの上で携帯を弄っていた俺。
──ピンポーン
そんな時鳴り響いたチャイムの音。
時刻は4時15分。泪が帰ってくるには早すぎる。今日は晴れてるから、サッカー部を眺めているだろうし、そもそも部屋の鍵持ってるし。
てことは…まさか…まさかまさか!!
柚瑠か!?
バックンと大きく心臓が脈打つと同時に、ベットから跳ね起き半ば転げるように玄関に走った。
扉を開ける前に髪をさっと直し、メガネをクイッと上げて、息を整えて……
「はーい………え?」
「こんにちは。泪の同室者の敦くんだよね」
俺は自分の目を疑った。
そこに立っていたのは俺より小さくて可愛い柚瑠ではなく、でかくて…やばい遥海先輩だったのだから。
いや…いやいやいや…この人泪に会いに来たのか?どんだけ執着してんだよ。こえーよ。ストーカーか?まじかよ…。
こんな人と関わりなんか持ちたくねぇよ。
「あの、泪、いません」
俺はそれだけ言って扉を閉めようとしたが、遥海先輩に扉の淵を掴まれそれは叶わない。
「それは知ってる。俺は君に用があって来たんだ。入っていいかな?」
爽やかな笑顔で顔を近づけてきた先輩に、俺は恐怖を覚え一歩後ずさった。
俺!?え、俺!?なになになに!?は?
「ちょ、待っ!」
「お邪魔します」
焦りと恐怖で頭がこんがらがっていた俺の隙をついて、遥海先輩は無理矢理部屋に入り後ろ手で扉を閉めた。
………密室。
「泪が言ってた通りやばい奴だ…キツイわ。密室に二人っきりとかさらにやべぇって。なんで泪いないんだよ…俺は生贄か…」
「はぁ…なんか勘違いしてるみたいだけど、俺はお前なんかに興味ないからな」
「ひぃっ!?」
心の声が漏れていたことよりも、一瞬にして笑顔が消え俺を上からめんどくさそうに見下ろし、声のトーンがガクッと下がるという遥海先輩の豹変ぶりに驚いた。
驚きすぎて変な声出しちまった。
泪の話していた通り、仮面が外れて素が出てきたって感じだ。
優男モデルはどこへやら。今ここにいるのは俺様系鬼畜男子だった。
「泪から色々聞いてんだろ?なら、普通に話して大丈夫だな」
「怖……」
ドン引きしている俺をよそに、遥海先輩は鋭い眼光で俺を射抜いた。
「まぁとりあえず、泪を俺の部屋に移す。それを手伝え、今すぐ」
その強烈な眼光に頷きそうになって……ふぇ?
今このお方はなんと申された?
泪を遥海先輩の部屋に移す?2人を同室にする手伝いを今すぐしろ?
落ち着け、俺。俺はまともだ。大丈夫大丈夫。
つまり…
「頭大丈夫ですか?」
ってことだ。
結構本気で心配したのに関わらず、遥海先輩は俺を睨みつけて
「俺は正常だ」
そう言い切った。
これはいよいよ末期ですね。はい。
ここは1つ現実とやつを教えてやりましょうか。イケメンモデルが誰にでも好かれるわけではないということをね。
「いやいや…言わせてもらいますけど、泪はあなたの事嫌ってますし、好きな人もいるし…それなのに同室っておかしいじゃないですか」
俺が言った現実に何かしらのリアクションを取ることを期待していたのに、まぁ一般人じゃない奴は斜め上を通過して行った。
「あぁどうやらそうみたいだな。だから泪が倒れている間に事を全部終わらせておこうと思って」
腕組みをして、何でもない風に……!?
「は!?倒れてるってどうして!?何かしたのか!」
「バスケの試合で1年と衝突して気絶したんだ。今保健室のベットで寝てる」
倒れてると聞いて、遥海先輩が泪に何かとんでもないことをやらかしたのかと思ったぜ。
流石にそこまではしないか…。だけど、本人の許可なしに、しかも倒れている間に部屋を変える手伝いなんて出来るわけない。
「でも、俺はあなたには協力できません。あんたみたいな、二重人格の遊びで近づいてくるような男に泪は売れない」
しっかりと目を見て、俺の強い意志を告げた。
その瞬間、遥海先輩の目がすっと細められた。
「遊び…ねぇ。俺は結構本気なんだけど」
「…信用出来ない。突然無理矢理キスするような人の話」
茶化した風でもなく、口先だけのような感じもしない。
ここまで、言うのは…まさか…本当に?
「気になる相手に触れたいと思うのは当たり前だろ。お前もいるだろ…そういう相手」
触れたい…相手。
真っ先に頭に浮かんだのなんて、一人しかいない。
柚瑠…。
友達以上になれなくて、触れたいのに触れられない。触れたら汚してしまいそうで、近づいたら傷つけてしまいそうで、そんな儚い柚瑠のこと。
「………でも、相手の気持ちを考えないで自分勝手に…」
「気持ちはこれから手に入れる」
またそうやって、自分勝手なことを冗談でもなく本気で言ってしまう。
マジであの泪を落としそうな気さえする。
でもそう言うのが許されるのは、イケメン限定なんだよ…クソ。
俺だって…自分に自信があったら…
「お前みたいに悠長に構えていたら、目の前で他の奴に奪われる」
俺の心情が見えてるかのように揺さぶってくる遥海先輩。
柚瑠が…取られる。目の前で…他の誰か…
………勇に。
遥海先輩が一歩俺との距離を縮めてきた。
そして思ってもない爆弾を投下する。
「天野柚瑠なんか、すぐ攫われそうだけどなぁ」
「なっ!なんで柚瑠のことっ…」
遥海先輩は焦る俺を見てニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
その性格の黒さが滲み出た笑顔が憎たらしいのなんの。
って、それよりも何で柚瑠の名前をここで出した?まさか、遥海先輩は俺が柚瑠のこと好きなの知ってるのか?いや、このタイミングで言うなら知ってるとしか考えられない。
どこからそれが漏れたんだ?もしかして、みんなに知れ渡ってたり…でもそれはないと思うし…。
もーー何なんだよ!?
動揺で頭が爆発しそうになっている俺を遥海先輩は惑わそうとしてくる。
「今回俺に協力してくれたら、俺も1つ手伝ってやる」
「手伝うって…んなの……」
「俺はお前らより顔も広いし、出来ることも多い。…どうする?」
遥海先輩は何かを確信したように、俺の目を覗いてくる。
俺の額を1滴の汗が流れ落ちた。
俺の善意と欲望が葛藤を繰り広げることわずか数秒。
「………絶対だからな!」
こうして俺は自分の恋愛を優先してしまった。
今考えたら、完全に遥海先輩のペースに絡め取られていたと感じる。
いや、だって…後半は完全に泪のことより柚瑠のこと考えてたし…。
後で泪に殺されるのは目に見えている。だけど、柚瑠をどうしても手に入れたいって言うのが本音だ。
それに…遥海先輩は案外泪が思っているほど軽いやつでもないと思った。
本気…なのかもしれない。
それなら1回ぐらい協力しても罰は当たらないだろう。
泪には申し訳ないけどな。…ごめん!
その後俺と遥海先輩の間でした会話は絶対に泪に言わないという約束もして、部屋の移動を手伝った。
─敦side 終
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