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小物が触れるな─遥海side
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──遥海side
『……うん』だって。あの泪が素直に。涙目で、しかも俺の手を握りながら。
可愛過ぎか。
完全にギャップ萌えってやつだ。
「遥海くん…?」
先ほどまで腕の中にいた泪を思い出して、撮影中にも関わらずニヤけた口元。隣の女に名前を呼ばれ、急いで手で隠した。
こんな緩んだ顔晒すわけにいかない。
「あぁごめんね。早く撮っちゃおうか」
「うん!」
女が可愛らしく頷く仕草も、全然違う。同じ言葉なのに。
こんなのと写ってる場合じゃないんだ。早く泪の所に戻って揶揄いたい。俺に見とれて惚けていただろって指摘したら、どう反応が返ってくるかな。まぁ絶対否定するんだろうけど、猫かぶってない時の泪は分かりやすいから。ギャーギャー噛みついて、顔紅くしそうだな。
パシャ、パシャ、とカメラが切られる中わざと視線を外した風を装って、泪を探す。
奥の端っこ、目立たないところで椅子に座っていた。その目線は何処か遠くに飛ばされており、ただボケーっとしているようだ。
アイツは今何を考えているのか。 さっきの撮影のことだったら上出来なんだけどな。
1度視線をカメラに戻し、撮影に集中した。
そして次に泪を見た時
「チッ…」
「え…?」
思わずした舌打ちを女に拾われ、笑って誤魔化す。
女は気のせいなのか、現実なのか混乱している様子だったがそんなことどうでもいい。
アイツら…。
泪が2人の男に囲まれていた。柴田と…確か林だった気がする。印象が薄すぎて覚えてない。たまーにちょっと雑誌に乗るぐらいのその他大勢の小物共だ。
泪は面倒くさそうに相手をしている。早く離れろとか思ってるんだろうけど、あの2人は無駄にある自信のせいで全く気がついていないようだ。
他の女に相手にされないからって、今日来たばかりの新人に狙いを付けるなんてクズの極みかよ。ふざけんな。
なんとかフォローしに行きたいのだが、なかなか撮影が終わらない。俺のせいじゃない、隣の女のせいで。下手なんだよ、本当に。
そうこうしているうちに、泪が椅子から落とされた。流石にイラつきを隠さず睨み上げているが、まだ『女の子』を演じている。
何やってんだよ…。平手打ちの一つや二つ喰らわせてやればいいのに。
そう思っていたら、泪に何かのスイッチが入ったようだ。頭突きを喰らわせて、奴らに向かって言い返している。
あの様子は相当キレてるな…。
完全に泪のことで頭がいっぱいだった俺は、突然引かれた腕にハッとした。
「ねぇ遥海くぅん、聞いてたぁ?」
「っ…ごめん、もう一回言ってもらっていいかな?」
甘ったるい不自然な猫撫声。はっきり言って気持ち悪い。無駄に腕に絡みついてくるし。胸当てればいいってもんじゃねぇんだよブス。
「もぉ~ひどいよぉ!泣いちゃうぞ」
勝手に泣いてろ……とは言わず
「あー……何?」
「あのね、ミキ上手く出来ないの。遥海くん助けて?」
は?
この状況でそのセリフは流石の俺でも我慢ならない。お前のせいで泪の所にいけないのに、助けて?は?意味わかんないし。
ウザ過ぎて堪らない。殺意が湧きそうだ。
上手くできないのはお前の技量がないのと大して可愛くもないからだ。俺に何とかしろとか無理に決まってんだろ。
んな、かわいこぶっても可愛くないからやめろ。目障りだ。
「じゃあここのカット別の人にやってもらおうか」
「ぇ…待って…」
「だって出来ないんでしょ?なら仕方ないね」
腕を振り払ってそう告げると、明らかに動揺している。
俺が助けるのはお前じゃない。
そして、その女から泪に視線を移した──はずが、そこには椅子しか無かった。泪の姿もあの2人の姿もない。
慌ててスタジオ内を見回したが、どこにも見当たらない。
クソッ!この女のせいで見失った。
のこのこ泪があんなのに付いていくなんて考えられない。
「すみません!ちょっとお手洗いいいですか?」
カメラマンに声をかけ、許可を貰って早足でスタジオを抜け出した。
何も無かったらいい。けど、何かあったらじゃ遅い。
泪に触れていいのは俺だけだ!変なことして泪の警戒心が強まったらどうしてくれるんだ。
焦る気持ちに伴って、早足だった足はいつの間にか駆け足になっていた。
あんな碌でもない奴が考える事は多分一つ。人気のないところに連れ込んでヤリたい放題するんだぜ。馬っ鹿じゃねぇの。絶対ヤらせない。
今回の撮影が、何度も来たことのあるこの建物だったのが幸を制した。
人目につかず、連れ込むのに時間のかからない場所は1箇所だけだ。
左右の分かれ道を右に曲がった所で飛び込んだ光景に、言い知れぬ怒りが沸騰しそうになった──否、沸騰した。
「俺の連れに何してんの?」
「っ遥海…!」
泪の後ろに立っている林を押し退け、泪の腕を掴んでいる柴田の肩に爪を立て掴み上げた。
予想打にしていなかった俺の登場に、小物共は焦った様に視線をそらし、捕まっていた泪は安堵したように眉尻を下げた。咄嗟に名前を呼ぶほどに、窮地に立たされていたのだろう。
その事実に俺の掴む力は上がった。
「チッ…コイツが俺らと釣り合わないとか言うから、ちょっと話し合いをしようかと…」
激情に任せて殴り飛ばしてやろうかと、既の所まで思っていたがなんとか思い止まる。
そして切り替える。暴力ではダメだ。泪は実際に襲われていない。襲われてないのに殴り飛ばしてみろ。不利になるのはこっちだ。多分泪はそれを考慮して、盛大に暴れなかったんだ。
落ち着け…冷静になれ。こんなヤツらまともに相手をするだけ無駄なんだ。
泪は、動揺する柴田の腕を振り払い俺の後ろに隠れた。そっとシャツの裾を掴み、少し近すぎる距離に。
そして、俺は掴んでいた手を離し1度泪の頭を優しく撫でてから、冷徹な笑を浮かべ柴田を見据えた。
「くく…ははは…」
突然笑い出した俺に泪までもが驚いた顔をする。そりゃそうだ。さっきまで殴り飛ばす顔をしていたのだから。
「何笑ってんだよ?」
喧嘩腰の柴田の多分1番迫力があると思っている声で、俺に問いかける。
どうやらようやくお前らを馬鹿にして笑っていたことに気がついてくれたみたいだ。全く、相手の頭が弱くて困るな。
「フッ…ごめんごめん。全くその通りなのに、何でそんなに怒ってるのかと思って。いや、まさかとは思うけど本気で釣り合うと思ってたの?ルミと?君達二人が?ははは、傑作だね」
正義の味方?いいや、気分はさながら悪役だ。
あぁ気持ちいい。簡単に煽られて怒りに震える2人のあの顔。ぜひ写真に取らせてほしい。
「君達、今日撮影された?」
これは知っててわざと聞いた。コイツら小物くんらの撮影はまだ先だ。しかも、俺と違って載るスペースも量も違う。今日来た泪よりも少ない。
2人は悔しそうに口を一文字に閉じている。
あーあ。自分で白状すればいいのに。
「あーまだだよね?だって1ページしか載るところないもんね。しかもその他大勢と一緒の小さな1枠」
他人に事実を言葉にされると腹立つよね?分かるよ、その気持ち。だからやってるんだけど。
何も言えないお二人さんに向けて、笑顔を贈る。綺麗過ぎて憎たらしい笑顔を。
そして1歩歩み寄り
「ルミと釣合いたかったら、俺より人気が出てから言えよ。まぁ無理だろうけど」
仕上げを施す。
柴田の肩が震え、右の拳をきつく握ったのが見えた。
──勝った。
その拳が振り上がり俺の頬にめがけて飛んで来る。避けることの出来たそれを、俺は甘んじてる受け取る。
「っ!!遥海!!」
ガツッ!と頬に衝撃が走り、二、三歩よろけた身体を泪が抱きつくように支えてくれた。
あ、これはラッキー。
少し目眩がするのも事実で、泪に寄りかかった。酷く心配している泪は、今にも泣きそうな情けない顔をしている。それがそれで可愛い…とか呑気に思ってる場合じゃないな。
殴られた頬が焼けるように熱い。ジンジンと響くように痛む。口の中に鉄の味が広がり、切れた唇から零れた血を手の甲で拭った。
「泪、ありがとう。大丈夫だ」
そっと抱きついている泪を離した。
もう少し泪を堪能したかったが、まぁそれは後でまた癒してもらうとして。
俺は殴られたのにも関わらず、ニコッと笑った。
「殴ってくれてありがとう。これで言い逃れは出来なくなったな」
俺が殴ればこっちが悪者になる。それなら相手に殴らせればいい。
これが、俺が導き出した答えだ。
まんまと引っ掛かってくれて良かったよ。俺の頬を見れば殴られたことは一目瞭然。人気者の俺と、小物のお前の言い分だったら周りは確実に俺を信じる。
「小物共がこの雑誌の人気モデルの顔を殴って傷物にした…なーんて、最高だね」
お前ら、終わったな。
今更青ざめてもどうにもならない事実。お前らみたいのは替えがいくらでも利くからな。もう二度とここへは来られない。
これが俺のモノに手を出そうとした代償だ。
──遥海side end
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