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柚瑠
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武田先生に無理を言って、ホームルームが終わった後もしばらく保健室にいさせてもらった。
荷物は教室に置いたままにしてある。保健室に届けてもらうと誰かしらクラスメイトが来るから、断った。
ホームルームが終わってすぐに咲が保健室に来たが、顔を合わせていない。これも先生の計らいだ。
「先生…そろそろ行きます」
「うん、分かった。お大事にね」
「えと…色々ありがとうございました」
「いやいや、僕は何もしてませんよ」
ペコリと頭を下げた僕に、先生は変わらず朗らかに笑ってくれた。
女神のような先生だ。また何かあったらお世話になろう。
一階の廊下は部活動の生徒が走ってたりしているから、ザワザワと騒がしい。けれど、階段を登るにつれてシーンとした静けさに包まれていく。
3階も人影はなく、各教室には誰も居ない…そう思っていた。
──ガラガラ
2年2組の教室の扉を開け、中に入るとそこには1人窓際に佇んでいた。
2組の生徒じゃない。少し開いている窓から流れる風に、その綺麗な地毛がふんわりと煽られる。太陽の光を浴びて白い肌がオレンジ色に染まっている。
「…柚瑠」
「泪!大丈夫!?」
自分の席に近づくと柚瑠もパタパタと寄ってきた。
…鬱陶しい。何でお前がここにいる。お前のクラスは3組だろ。
ホームルームが終わって、かれこれ1時間は経っている。その間、コイツはここにいたのか?何のために?
「何してたの?」
いつものように猫を被らないといけないのに、演じないといけないのに、どうしてだろう、上手くいかない。出来ない。
声のトーンが違う僕に少し不思議そうに目を丸くした柚瑠。
「…あ!泪を待ってたんだよ!保健室で寝込んでるって聞いて心配で」
「…へぇ」
机の中から教科書などを取り出し鞄に詰め込む。
「あ。」
無言で作業しながら思い出す。
二人っきりのこの機会にどうせなら聞いてしまおう。
「…ねぇそう言えば今日の昼休み何してたの?」
「ふがっ!ひ、昼休みね…うーんとね」
明らかに、むしろわざとらしいぐらい裏返った声。手を止めて、柚瑠の方に視線を投げた。
「えーと…そのー」
何その反応。聞かれたら困ることでもしてたわけ?
視線をキョロキョロと彷徨わせて、口篭っている。
……イライラする。早く言えよ。
アイツと一体何を話していた?
「これはまだ秘密にしてて欲しいって言われてたんだけど…」
「言って」
強く迫れば、柚瑠は観念したように口を開いた。
「今度4人で出かけしようっていう…話。泪のことビックリさせたくて、ギリギリまで秘密にしてたかったんだけど…うう~言っちゃったぁ」
柚瑠はわたわたと慌てて両手で頬を包んだ。
………。なんだ。そんなことか。
そんな柚瑠を横目に何故か分からないけど、ホッとした。
アイツがやりそうな事じゃん。先に根回ししといて、僕の所に話が来た時には断れない状況になっている…とかな。
…ばっかみたい。気にしていた僕が恥ずかしい。
「はぁ…そんなことね」
「僕から聞いたって秘密だからね!!怒られる~うわー」
「分かった分かった」
ガックリと肩を落として頭を抱える柚瑠を無視して、止めていた手を動かす。
全部鞄に詰め終わり、帰宅しようと鞄を掴みふっと顔を上げた。
柚瑠に一言掛けてから帰ろう…そう思っていたが
「───っ!!」
一層強い風が僕らの間を駆け抜けた。柚瑠の頬にかかった髪が浮き上がる。
柚瑠は窓から外を眺めていた。
真っ直ぐに、一点の曇もないキラキラとする瞳で。
その横顔を僕は知っている。
その切なげな瞳を…知っている。
その顔は──恋をしている顔。
窓の外。グラウンド。笛の音。ボールを蹴る音。
サッカー部。
やめろ
「柚瑠っ!!!」
突然の叫び声に、柚瑠は飛び上がり僕の方に顔を向けた。
そのキョトンとした顔を、睨み、拳を強く握りしめた。爪が手のひらに食い込むほどに。
聞かなければいいものを。口が勝手に言葉を紡ぐ。
「土曜日、何があった?」
「っ!!ぃ…ぇ…」
そう問いかけた瞬間、柚瑠は顔を真っ赤に染めて、恥しそうに視線を足元に落とした。
今まで誰にも見せたことがない、その顔。今、お前の頭の中にいるのは誰だ?誰を思い浮かべている?
ドクン、ドクン、と心臓が嫌な鼓動を続ける。痛い。張り裂けそうだ。
「今!誰を…見てた?」
「ぅ…違…その…」
聞きたくない…嫌だ…なんで今更?違う?何が?
願わくばその口で呼ぶ名前が違えばいい。
他の誰か。沢山いるじゃん。この学校にお前のことを好きな人なんか沢山いるのに。
「俺…泪に言ってないことがあるんだ」
改まって僕に向けるソレは幸せそのもの。
僕がこの1年喉から手が出るほど欲しかった幸せ。
やめろ!そんな顔で僕を見るな!
聞きたくない聞きたくない聞きたくない。いらないいらないいらない。
「親友にまで秘密って…やっぱダメだよね!」
無邪気に、まるで花が咲いたように、笑う。
綺麗に、綺麗に。僕じゃ真似出来ない仕草で。
そして、深く僕を傷つける。
「俺ね、勇と──」
「黙れ!!!!」
現実を拒絶した僕は、考えるより先に手が出ていた。
柚瑠の胸ぐらを掴み絞めて、力任せに後ろに突き飛ばした。
ガシャン!と盛大な音をたて、机や椅子ごと柚瑠が倒れこんだ。
一瞬の静寂。
外からはサッカー部の笛の音が響いている。
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