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本当は─遥海side
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「.........。」
俺の指摘にひくりと頬が反応したが、泪は何も言わない。
「言い方が違ったな。途中から意識はハッキリしてただろ?」
「………。」
「強情だなぁ。起きないとまたキスするぞ?」
冗談めかした俺の問いかけに、それでも目を開けない。むしろ、瞼を閉じる力を強めたようだった。
...目を合わせるのも嫌ってことか?
それとも。
「それはつまり、キスして欲しいってことで…いいの?」
淡い淡い期待を、口にしてみる。
泪はうんともすんとも言わない。だけど、起きていることは確かなんだ。俺の声が聞こえているはずなんだ。
それでいて何も言わないってのは...。
自分でもおかしいと思うぐらい心臓が脈打っている。
淡い期待が大きく膨れ上がり、もう自分じゃ持ちきれない。
ソファーに片膝を乗せ、右手を滑らかな頬に伸ばし、左手を泪の顔の横についた。
こうまでしても逃げずにいる泪を、まるで俺からのキスを待っているかのように錯覚してしまう。
「泪...」
唇が触れる寸前、一瞬躊躇した俺の迷いは泪が唇の力を緩めうっすらと隙間を作ったことにより、すべて取り払われた。
最初は泪のふっくらとした柔らかい唇を堪能するように、角度を変えて何度も合せた。
「ン……ァ…」
泪の甘い吐息を合図に、そっと唇の隙間を押し広げ、舌を差し入れる。
熱い…。
ねっとりとした熱を纏った舌を絡め合わせ、上顎を擽るようになぞる。
俺のキスに翻弄されピクッピクッと反応する泪の身体が愛おしい。
「ふ…んぁ……やっ、ンん……」
我慢しきれず隙間から漏れる喘ぎが更に俺を煽っていく。
止まらねぇ。
泪は、甘い甘い媚薬のようだ。一度味わったら止められない。
「アッ…やぁっ……んむ、ンッ…ふぅ…」
ジュッっと音を立て唾液ごと舌を吸い、俺の口内に招き入れる。そして、優しく歯を立て刺激すると、我慢しきれず高い善がり声を上がった。そして泪の目の端から涙が伝い落ち、重たい瞼が持ち上がった。
真っ赤に熟れた頬、涙と快感に濡れている瞳、鼻を抜ける甘ったるい息遣い...そのすべてが俺を興奮させる。
強烈な色香をまとった泪にくらくらして、さらに口付けを深いものにした。
「んッ...アッ、...はる...かァ...」
苦しさと欲情に細められた瞳を覗きながら、息継ぎもままならないぐらいの激しいキス。俺の唾液を送り込むかのようにクチュクチュと卑猥な音を奏でながら泪の口内を蹂躙し、飲みきれなかったそれが唇の端から垂れ落ち、ソファーを汚していく。
そして、不意に動いた泪の右手は小さく俺のシャツを握りしめた。
その行動に動きを止めた俺に衝撃が走る。されるがままだった泪が俺の目を見ながら、甘く噛んで遠慮がちに舌を擦り合わせてきたのだ。
つたない小さな動きなのに、ゾクゾクと快感が駆け上がり心臓を鷲掴みにした。
このままじゃ...やばいっ
なけなしの理性を総動員して、バッと唇を放し俺は起き上がった。
惚けてはくはくと息を吸い込む泪。俺は、てらてらと光る泪の唇から目を逸らし自身の唇を袖口で拭う。
「なぁ。勘違いしそうなんだけど」
口付けの余韻を引きずって、自分で思うほど情けない声だ。でも仕方ないだろ。
「泪が俺のことを好きになったって…」
あんな...応えるみたいなことされたら...。
しかし逸らした視線を戻すと、泪は両手で顔を覆っていた。
肩が小刻みに震え、鼻をすんとすする音。
舞い上がっていた心は突如奈落の底につき下とされた。
泣いている。俺が泣かせた。
「っ.....ごめん」
急に夢が覚めて、現実を突きつけられた気分だった。
調子に乗った。俺の勘違いだった。思い上がっていた。
流されやすいところのある泪が俺に無理矢理流されただけなのだと、思い知る。
キツいな…。
こんな空間、耐えられない。
手を伸ばせば伸ばすだけ離れていく泪から、そっと手を引く。
これ以上、もうどうしようもない…だろ?
泪にアイツを諦めろって言ったんだ…。それなら俺も…お前を…。
急激に下がった体温。寒さに凍える自分を奮い立たせ、この部屋から逃げようと立ち上がり、ソファーに背を向けてふらふらと進む。
「待ってっ!」
泪の声に考えるより先に、足が止まっていた。
だが、振り返りはしない。
一体何を言われるんだろう。
トドメを刺されるのだろうか…?
背を向けたままその瞬間を覚悟していた俺に、泪は徐にソファーから起き上がり恐る恐る近づいて──
「わ、分かんない…」
キュッと冷たい俺の手を取った。
「どう…したらいいの?」
涙を含んだ声。泪の熱い手。熱がじんわりと指先に伝わる。
なぜ俺の手を取った?
それはどういう意味だ?
混乱する心を隠し、驚かさないように手を握り返し振り返ると、眉尻を下げ助けを乞うように泪は俺を見上げていた。
綺麗な綺麗なガラス玉のような瞳をただ見つめ返すしか出来ない。
俺は...どうすればいいんだ?何が正解だ?
「ずっと、遥海と…どうやって…話してたっけ?」
脈絡のない話。
ゆらゆらとおぼろげで、消え入りそうな囁き。
だけどそれは俺に向けて発せられている。
「どう…接してたっけ?」
意味が分からず絡まっていた糸が少しずつ解けていく。
不確かな不安と期待が浮遊しはじめる。
泪が何を言っているのか、何を言いたいのか。
自分のいいように解釈していいのだろうか?
「うまく…言えない」
泪は一度緩めた手の力を再び強くした。
「でも…苦しい」
ぽつぽつと話される泪の心の中。
囁かれる度にたまらない気持ちになる。
苦しんでいる泪が愛おしくて愛おしくて仕方がなくなる。
「遥海と話すのも、話さないのも…苦しい」
絞り出された詰まった声は今の泪を明確に表していた。
乱雑な心を泪自身持て余している。
答えを探そうとして迷子になってしまった小さな子供のようだ。
多分すぐそこまで答えは出ている。それを何処かで受け入れるか迷って迷って…俺に委ねてきた。
「咲に…馬鹿になればいいって言われた」
ゆっくり、ゆっくり迷いを口にする泪の話を焦らせないように黙って見守る。
「馬鹿になって流されて…」
泪なりに勇気を振り絞って俺に伝えてくれているんだ。
他の誰でもない俺だけに。
「もしそれが間違いだったとしても、途中で気がついて引き返せばいいって…言われて…」
収まっていた涙が零れそうになり、泪は口を噤んだ。思っていることがうまく伝えられず、もどかしそうに下唇を噛みしめながら、不安そうに立ち尽くす。
「泪...大丈夫だ」
そこで途切れてしまった精一杯を俺は受け取らせてもらうよ。
「大丈夫」
掴まれていた手を恋人繋ぎに、繋ぎ直した。
何を根拠に大丈夫なんて言ったのか。多分それは…俺だから大丈夫だっていう根拠かも…しれないな。
「引き返したくなったら言って」
今しかない。この機会を逃したら永遠と手に入らない。
可愛いらしくて弱い彼を俺が、守っていきたい。絶対傷つけさせない。
お前が俺の手を取ったことを、絶対に後悔させない。
「だから……そのまま俺に流されて」
泪の全てを飲み込むように、その手を引き寄せもう一度唇を覆った。
俺はお前の全てを受け入れる。
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