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待ち伏せ
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「荷物持って」
1日でほぼ風邪から復活した僕はリュックを遥海へ押し付け一足先に部屋を出た。
まだ少し喉が痛むけどこれくらいなら問題ない。
「先行くなよ」
後を追ってきたあのモデルの遥海先輩は無残にも後輩の荷物持ちをさせられているのに、不気味に笑って御機嫌なんだから遥海ファンは悲しむだろうな。
「遅いから悪いー」
朝からそんな優越感に浸りながら、足取り軽く階段を駆け下りる。
遥海を待たずに外に出ると、門の前に1人突っ立っているのが見えた。
僕よりは大分身長の高い、割かしがっしりとした体型の人物は僕が近づくとパァっと顔を綻ばせ頬を赤らめた。
あー…待ち伏せね。
たまにある行事に僕は慣れたように対応する。
「お、おはようございます!」
「おはよう」
緊張気味に上擦った声とその初な反応が可笑しくて、クスッと笑いながら挨拶をしてあげた。
どことなく見覚えのあるような、ないような1年生は僕のことをじっと見詰めてますます赤みが増している。
「あの!か、風邪は治ったんですか?」
「うん。もう平気だよ」
「よかったです…昨日寝込んでて会えなかったから心配しました」
「昨日?」
僕が寝込んでいる時に来たってこと?
純粋な疑問に首を傾げると、彼は少し困ったように苦笑いを浮かべた。
「はい…。ゼリーを渡したんですけど…聞いてませんか??」
「ゼリー……」
思い当たる節がただ一つだけある。有り余るぐらいある。
あのゼリーにあの番号…遥海宛じゃなくて僕宛てだったのかよ!!
アイツっ!嘘つきはどっちだバカ野郎!!
思い出せば怒りと羞恥に苛まれ、僕の完璧な笑顔が引き攣る。
「…聞いてないなぁ。ごめんね、昨日はありがとう」
「いえっ!全然です!」
彼との距離を詰めて上目遣いで手を握りしめたら、彼はメロメロと目がハートに早変わり。
「泪先輩はやっぱり可愛いですね」
「ふふ、ありがと」
「また…あの、バスケしましょ!」
バスケという言葉に見覚えのある彼をはっきりと思い出した。
縦割り体育の時にバスケを教えてもらった1年生だ。
なるほど…あの日からずっと僕のファンだったんだ。
あーっと納得している僕とだらしない顔の彼。
そして、その後からものすごいスピードで迫ってくる大魔王。
彼の顔の変化で僕も遥海がやっと来たのだと知る。
「おい!」
鋭く呼ばれた次の瞬間には腕を引かれていた。
彼の手を握っていた手は外れて、よたよたよろけた僕の腰に回る逞しい腕。
ムスッとしている顔を仰ぎ見ながら満面の笑顔で煽ってやる。昨日の仕返しだ。
「遥海先輩?どうしたんですかぁ??」
「お前…ホントいい性格してるよな……」
「そりゃどうも」
ふふん、と笑いながら遥海の腕を外してさっと離れた。
「お触り禁止は継続中ですよ?せーんぱい」
僕の中で1週間は禁止にしようと企んでいる。
というか、今決めた。
バチバチと僕と遥海の間に火花が散っている中を割くように、彼が声を張り上げた。
「あっの!!」
どことなく深刻そうな顔の彼に2人で注目すると、彼は意を決して口にする。
「お2人は…ど、どういう関係なんですか!?」
確かにそうだよね、気になるよね。
ただの先輩と後輩には見えないよね…荷物持たせているし。
なんて答えようか?普通に付き合ってますって言うのじゃつまらない。
僕の中で昨日のことはまだ引きずっているんだから。
遥海も少しぐらい嫉妬というものを知ればいい。
そう思って、曖昧な笑顔で遥海のことを横目で気にしながら
「ん〜どういう関係なんだろうね?」
そう言葉を濁した。
彼は、ん?と不審気に僕と遥海を見比べる。
「え…?それって一体…」
「なんていうか─」
「付き合ってる」
僕の言葉を遮って遥海は強く言い張った。
彼のことだけを見据えて、まるで喧嘩でもしているかのような迫力に僕も彼も押し黙るしかない。
「………。」
「俺と泪は付き合ってる。だから泪のことは諦めろ。お前の入り込める隙間なんかない」
「そ…そんなことは……」
「行くぞ」
反論しようとした彼を無視して遥海は雑に僕の腕を掴むと大股で歩き出した。
半ば引きずられるように連れて行かれ、コンパスの違いから僕は小走り状態だ。
「遥海っ…早いってば!」
寮から離れたところでようやく立ち止まった遥海は僕の腕を離して、チラッと僕と目が合うとバツが悪そうに逸らした。
「…悪い」
「……ねぇねぇ」
その反応に気を良くした僕は遥海の正面に回り込み、ニッコリと笑いかけた。
「嫉妬した??」
「……。」
核心を突いた問に、遥海は眉間にシワを寄せるだけで何も答えない。
まぁつまりそういう事なんだ。
余裕そうな遥海でさえ、実は余裕じゃなかったりして。
僕と一緒なのかもね。
「嫉妬したでしょ?ねぇねぇー!」
「…くっそ、ムカつく」
「ププー!嫉妬したんだ!へーほー」
怒っているというより恥ずかしがっている遥海は顔を逸らして、また早足で歩き出してしまう。
その後を僕は揶揄いながら、頬が緩むのを感じていた。
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