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会話
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ぼんやり授業を受けぼんやり息をしていた僕の目の前を過る小さな影。
ひゅんひゅん寝癖を揺らして否応なしに気になってしまう。
「風邪大丈夫なの!!??」
そしてこの大声。
昼休みで騒がしい教室であるにも関わらずよく通り過ぎて数人の視線を集めた。
「大丈夫だよ…でも大声出さないで」
「ごめんなさい」
注意すると動いていた身体をピタリと止めて、咲は素直に謝り僕の隣に腰を下ろした。
「昨日のノートいる?」
「え、いいの?」
「うん!人に見せると思ってすごくきれいに書いたし、授業も寝なかったよ!」
快挙だぁ~と、得意げな笑顔でノートを差し出す咲。
「ありがと」
授業は常に寝るなよ、とは言わず受け取った。
「あのね…」
ノートをカバンにしまい終えた僕を待っていた咲はグッと近ずいて、不自然に周りをキョロキョロする。
この子は急にどーした?
「昨日ね…なんか…変だったの」
「変?」
「うん。隣のクラスなんだけど空気がっていうか、変だった」
割と真剣に言ってるけど...変って?具体的に言ってくれないと全然伝わらない。
僕からしたら変な奴なんていっぱいいるし、変な空気だって頻繁に漂っている気がする。
イマイチな反応を示す僕に咲は眉尻を下げる。
そして、モゴモゴと言いずらそうに何かを言おうとした。
「…その……隣のクラスが」
「泪!おはよ。昨日は大丈夫だったか?」
「っ!?」
その咲の声を遮りぽん、と後ろから肩に手が乗せられ以前は望んで止まなかった声がかかった。
驚きすぎて息を飲んだ僕はパッと振り返りパチパチ瞬きを繰り返した。
短い髪に程よく焼けた肌、爽やかな笑顔。
久しぶりにちゃんと見た彼はまるで現代の王子様のようだ。
かっこいいなぁ、勇くん。
「大丈夫か?もしかしてまだ体調悪い?」
「へっ?ううん!元気だよ!」
見惚れていた僕を心配気に見つめる勇くん。
その優しさが益々彼の魅力を引き立てる。
「最近ずっと調子悪かったんだろ?他の奴が、泪の様子が変だって言ってたから。体調悪い時ぐらいちゃんと休まないと」
「あ…うん。そうするね。ありがとう、勇くん」
僕の態度が冷たかったのは、ありがたい事に体調が悪かったからだと勘違いしてくれているみたいだからそういうことにしてしまおう。
素直な勇くんはニカっと笑い「おう」と返事を返してくれた。
あぁー素敵な王子様だなぁ。どっかの大魔王とは大違い。
僕がまたまた見惚れていると、咲が上目遣いに勇くんを見つめていた。
「勇ー…」
「ん?何?」
「勇は…あの……」
やはり言いずらそうに、もじもじして咲は僕のことをチラリ見て、溜息をこぼした。
「やっぱなんでもなーい」
「そっか」
咲らしからぬ言動、さらにまるで恋する子が好きな人と話したいけど近くに邪魔者(僕)がいるから話せません的な雰囲気を感じて眉間にシワを寄せる。
まさか…咲が………ううん、ありえないな。
恋愛と関わりなさそうだし。中学生だし。
「なぁ泪、本当に体調大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。元気元気!」
いつの間にか勇くんは僕の目の前の席に座って、机に肘をつき手に顎を乗せて王子様のキラキラする眼差しを受けていた。
眩しい…とか思いつつ、あははと笑えば彼は王子様スマイルで僕に詰め寄る。
「ならさ、遊びに行こうぜ!今日部活休みなんだ」
「………へ?」
数秒間僕の時が止まり、間抜けな顔のまま固まった。
目の前には変わらずの王子様。
その王子様が僕に、遊ぼうって……へ?
うまく状況を飲み込めなくて、信じられなくて、僕は首を傾げる。
「カラオケとかどお?夜飯も食いに行こう!」
「ぇ……あー……」
やっと動き出した僕の思考回路。
曖昧に答え視線は宙に飛んでいた。
今まで一度もなかったお誘いが、このタイミングで襲いかかるとは思ってもみなかったし、考えもしなかった。
前の僕なら確実に二つ返事で飛び付いていた。
理由は簡単。好きだったから。
ずっと待っていたから。
夢にまで見た勇くんからのデートのお誘い。
でもそれは、今じゃない。
僕の頭に真っ先に思い浮かんなのは勇くんと遊びに行くビジョンではなかった。
遥海を差し置いて元好きだった相手と遊びに行っても良いのかどうか、遥海は怒らないだろうか、嫉妬するだろうか。
これが原因で喧嘩しないだろうか。
勇くんじゃなくて、遥海のことを考えた。
彼と遊びに行くことよりも、遥海のことを優先させた。
絶対本人には言いたくないけど、きっと遥海が思っているより僕は遥海が…好きだと思う。
じゃないととっくの昔に別れている。
今の僕には勇くんではないんだ。
遥海と付き合い初めて抱かれた日から、僕は1度も勇くんのことを考えなかったし目で追わなかった。
全然気にならなかったんだ。
「ええっと...」
「行こうぜ!!すっげぇ楽しみ!」
キラキラ輝く王子様の期待の眼差しにより、断るに断れなくなってしまった。
だけど、二人で出かけるつもりはない。
そして、困った僕の視界に入り込んだ寝癖頭。
パチッと目が合い僕はその手を咄嗟に掴んだ。
「咲も一緒に行こう!」
「ふぁっ!?」
まさか話を振られると思っていなかった咲はビクッと小さく飛び上がり、素っ頓狂な声をあげた。
「俺!?」
「うん!行こうよ!人数は多い方が楽しいでしょ?ね、勇くん?」
「ぁ、あぁ...そうだな!」
「だから咲も参加しよ?」
『お願いだから来てください』というメッセージを眼光に乗せて、咲に笑顔で問いかける。
咲は僕の迫力に半ば脅されるようにうなずいた。
「う、うん!行くね!」
「わぁい!あるがと」
これでなんとか二人っきりというシチュエーションを回避できた。
でも、勇くん込みで遊びに行くことを奴になんて言い訳すればいいんだ...?
いっそのこと嘘で乗り切るか...?
放課後までに連絡をしなければいけないというミッションを課せられ、僕はその後の授業中ずっと頭を悩ませた。
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