アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
勇くん
-
暗い公園の隅にあるベンチに2人で腰掛けた。
あまりに静かで人影も何も無いココは、僕の心をざわつかせる。
落ち着かない空間。
1分ぐらいしか経ってないけどもともと体調は大丈夫だし、行こうって言おうかな…。
よし、あと5秒経ったら言うぞ…
5……4……3……2──
「あのさ、泪に聞きたいこと…まだあるんだ」
──あと1秒だったのにぃ!!
僕が息を吸いこんだタイミングで勇くんはそう言うと、ぐっと顔を寄せてきた。
ひぃぃぃ!
そして僕より頭一つ分ぐらい上にある勇くんの瞳がじぃっと僕を見つめ、捕らえる。
深い黒が僕の心の奥まで見えていそうでちょっぴり怖い。
何を聞かれるのかとドキマギする僕に、少し間を開けて勇くんはゆっくり口を開いた。
「…柚瑠と喧嘩した?」
ズキっ…と一瞬だけ痛んだ胸、強ばる顔。
フラッシュバックするあの日、柚瑠の泣き崩れる姿。
柚瑠が勇くんに告げ口した…?
僕だったら言う。僕が柚瑠の立場だったらね。
騙されて傷つけられたんだって言って…仕返しする。
けれど、勇くんの口調は決して責めているものでは無かった。
だから、柚瑠と僕は違うんだ。
アイツは他の人に言ったりしない。
そういうバカだから。
じゃあ勇くんは、なんとなく雰囲気で感じ取ったのだろうか?
付き合っている子が元気なかったら気がつくものか。
それとも、周りが気がつくほどに柚瑠は傷ついていたのか。
意図して避けている訳じゃないけど、クラスが違う僕はあの日から柚瑠と1度も顔を合わせていない。
彼がどんな様子で毎日を過ごしているのかは知らない。
…知ろうともしなかった。
「喧嘩した理由って…何?」
「……ちょっと、色々あって…」
喧嘩の理由になった本人に向かって言えるはずもなく、僕は逃げるように俯いた。
僕じゃなくて、柚瑠に聞いて欲しかったよ。
もしかして、今日誘った理由って柚瑠との喧嘩のことを聞きたかったから?
仲直りしろよってこと?
……仲直りなんて…今更無理だよ。
「違ったらアレだけど…」
俯いたままの僕に、そう前置きをして勇くんは告げる。
「もしかして……俺のことで喧嘩した?」
「ッ……。」
息が詰まるように苦しい。
焦りで顔が熱くなって頭が回らない。
うまい言い訳も思い浮かばない。
ギュッと拳を握りしめた。
ただ、答えられない。答えたくない。
でも否定出来ないから、勇くんに伝わってしまう。
喧嘩の理由が勇くんだっていう事実。
でも…喧嘩の理由を何故知っているの?
『勇くんのこと』っていう喧嘩の内容は知ってるの?
僕が…勇くんのことを好きだったから喧嘩になったって…知ってるの?
「じゃあ別の質問」
これ以上何を聞くんだ…。
じわじわ外から責められている感じがする。
逃げられないように囲まれている気がする。
怖い。漠然とした恐怖に追い詰められそうだ。
勇気を振り絞り彼の顔をそっと窺った。
でも彼の表情には怒りの文字は見えない。
むしろ……。
「泪は今…付き合ってる人いるよな?」
急なそれは質問というより確認だった。
話が飛んで、しかも僕の事に飛び火して、驚きにキョトンと一瞬固まる。
勇くんが僕と遥海の関係を知っていたっていうことよりも、柚瑠との話の流れからどうしてここに行き着いたのかっていう方に驚きを隠せなかった。
「……うん…いるよ」
でも、勇くんが知っているなら隠さなくても誤魔化さなくてもいい。
いずれバレることで、やましいことじゃないから。
たとえそれが勇くんであっても、僕にとって勇くんは既に”同じクラスの友達”だから。
「それって斉之内遥海先輩?」
「うん。そうだよ」
今度ははっきり肯定した。
だけど、勇くんはぼくの肯定に対して怪訝そうな顔をする。
え…おかしなことは言ってないよ?嘘でもないよ?
勇くん…?
また一つ近くなった距離。
訳が分からず首を傾げる僕を見て、その時勇くんはフッと表情を緩め目尻を下げた。
違和感のある笑顔のまま
「なんで付き合ってるの?」
彼は当然の疑問のように呟いた。
「ぇ…?ぁ…え…?あの、逆になんでそんなこと聞くの?」
あまりにも衝撃的な事で、ポカンとしてた僕はハッと我に返った。
勇くんは相変わらず笑っている。
……なんで付き合っているのか…って、そんなの好きだからの一択しかないだろ?
誰に聞いても同じ答えが返ってくるよ。
でも…、それを聞いてくる勇くんの問は何か別のものを射ようとしているかのように聞こえた。
「好きなの?」
「ぅ…まぁ……それなりに…」
こんな直球で聞かれたことなんてないし、惚気とも無縁だった僕は変なタイミングで恥ずかしさが出てしまい、もごもごとどもってしまった。
だから、勇くんはくすりと笑い
そしてふーんと楽しげに呟いた。
どうにもこうにも彼らしくない言動。
意味がある質問とは思えない内容。
勇くん…どうしたんだろう。
柚瑠との喧嘩の話をしていたのに、急に遥海のことを聞かれて笑われた。
それもとても愉しそうに。
僕の中で今まで彼に対して浮かんでこなかった不信感がハラハラと募る。
あぁ…帰りたい。
無駄に緊張して握りしめた手は汗ばみ、気持ち悪い。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 123