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腹黒とクズ
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「バッカみたい」
頬にあった手を振り払い、繋がれていた手を解いて彼の胸をドンっと強く殴り押し退けた。
僕のこの行動を予想だにしていなかった彼は、簡単に体制を崩し後ろに手をつき、目をぱちぱち瞬かせて驚き呆然としている。
そんな無様な様を立ち上がり上から冷めた目で見下ろした。
「本当…バカみたいだ」
吐き捨てた言葉は目の前の奴と、自分自身に向けて。
僕はこんな奴のことを1年間も想っていたんだ。
白馬の王子様、運命の人。そうやって崇めていたんだ。
大馬鹿者だ。なんて膨大な時間の無駄をしてしまったんだろう。
なんにも見えていなかった。
彼が僕のことを知ろうとしなかったのと同じように、僕も彼のことを知ろうとしていなかったんだって今やっと気がついた。
表面上の綺麗な部分だけを見て、好きだってほざいていたのかと思うと自分が自分で恥ずかしい。
僕はこんなののために……努力して、犠牲を払ってきたのか。
嫌になる。これだから、僕はダメなんだ。
嫌いだ。嫌い。
「勇くんがそん人だとは思わなかった。今まで騙してたんだ」
彼は鳩が豆鉄砲をくらったような間抜けな顔をしていたが、急にプッと吹き出した。
そしてカラカラ声を出して大笑いしはじめた。
何がそんなに面白いのか、全然理解できない。
「あははは!はぁーあ〜、騙してたのは確かにそうだけど、それは泪も同じだろ?泪だって猫被ってた」
僕の態度の変わりようも、彼の態度の変わりようとあまり変わらない。
ある意味似たもの同士だったのかもしれない。
けど……
「…そうだね。…でも、お前と同じにすんな。僕は性格が悪くてもクズじゃないから。二股とか信じらんねぇ、最低」
強く睨みつけ拒絶を口にしたところで、彼に効果はない。
「プッ!面白いこと言うなぁ。二股?違う違う!」
「意味不明なんだけど?」
カラカラ耳障りな笑い声が止むと、彼は笑い過ぎで滲んだ涙を拭ってふぅっと息を吐いた。
そして、
「男と付き合うって正気?てか、泪は本気で付き合ってんの?男同士で?そっちの方が意味不明〜。ここの学校マジでキモい」
「は?何言って……だって、柚瑠と…」
「あーあれね。別にマジで付き合ってるわけないじゃん。しいて言うならお遊びかな~」
馬鹿にするかのように、鼻でふんと笑い彼は長い足を組んだ。
フツフツと僕の中で腸が煮えくり返っているのを感じる。
血が沸騰して爆発してしまいそうな...この場に包丁があったなら刺しているだろうほどの怒り。
そんな僕に拍車をかけるように奴は続ける。
「見た目も男にしたら悪くないし、あれなら抱けそうだなって思って。女と比べてどんな感じなのか体験してみたかったし?それに他の馬鹿どもが血眼になって落とそうとしていた物を奪うのが堪らなく楽しいだろ?」
「……クソ野郎」
「だって男なんて気色悪いだろ。無理無理~。でもさ、柚瑠をいざ押し倒したら心の準備が出来てないとか言って拒否られたんだぜ?笑えるよな!興醒めだっつの、全く」
「........。」
「それで泪に乗り換えようと思ったら、先輩と付き合ってるっていうじゃん?軽ーく落とせるかと思ったらまさかまさかの展開だよ。辛いわー」
”ちょっとした事”を話すような口振りに態度。
頭の上で手を組み、ベンチの背もたれによしかかり伸びをするコイツ。
プツンと僕の中で何かが切れた音がした。
「ふざけんなっ!!!」
カッと頭に血が上り、力の限り叫んだ僕は目の前のクズ男の胸ぐらを掴み上げた。
けれど、ソイツは顔色一つ変えない。いや、逆に僕の事を嘲笑うかのように笑みが深まった。
「んな怒んなよ」
「黙れ!!柚瑠に全部話すから!!周りのヤツらにも!!」
「無理だろ?お前ら喧嘩してんだろ?お前の言うこと信じるわけねぇじゃん」
ぎゅっと力を強めるけど...コイツの言うことに言い返す言葉が思い浮かばない。事実としてその通りで...柚瑠も周りもこの男の本性を知らないんだ。
僕がいくら騒いだところで大した問題にはならない。
ぐっと下唇を噛んだ僕を余裕綽々に奴は眺め、胸ぐらを掴んでいた手を逆に掴まれ外される。
けれど手は解放してくれない。
ハッとして振りほどこうと暴れるけど痛いほどに掴まれびくともしなくて、力の差に愕然とする。
「は、離せっ!」
「暴れんなよ」
悠々と立ち上がった奴は僕のもう片方の腕をも捕らえてしまう。
「嫌だ!触んな!」
「先に手ぇ出してきたのはそっちじゃん?」
「うるさっ…なっ!!」
一瞬で足を払われ僕の身体がグラりと傾き、後ろの芝生の上に倒れてしまった。
痛いと思った時には奴が僕の上に馬乗りになり、いやらしい笑みで見下ろしていた。
こうなったら手も足も出ない。
「退けよ!!何のつもりだ!!」
「まぁアレだ。男の利点って妊娠しないことだよな」
「最っっっ低!!!キモい!死ね!」
「そう言うなよ。泪だって慣れてるだろ?こーゆーこと」
言いながら奴は制服のネクタイをスルリと外して、あろうことか僕の腕を一つに縛り上げた。
慣れてるだぁ?アホかっ!!
最近ヤられたばっかだっつの!!
好きでもないやつに掘られる趣味なんかない!!
「嫌だァァァ!!誰かたす、っんぐ……ぅぅー!!」
「うるさい」
奴に無理矢理外されたネクタイが騒ごうとした僕の口の中に詰め込まれ、声がくぐもる。
「大丈夫だって。すぐ終わるから、な?」
「ふぅぅぅ!!!ぅぐぐーー!!!」
伸びてくる手に成すすべもなく、シャツのボタンがプチプチと外されていく。
嫌だ嫌だ嫌だ!!気持ち悪い!!
違うっ全然違う!!!
この手じゃないってば!!お前じゃない!!
僕に触れていいのは一人だけなんだ!!
死ね!くたばれ!!
どんなにじたばたしても、そんなの些細な抵抗にしかならず奴はもろともしない。
むしろこの状況を楽しんでいる変態だった。
「あれ?泣いちゃうの?」
「んぐ...ふ...ぁぶ!!」
滲んでくる涙が零れないように、口の中のネクタイを噛み締めた。
泣いて堪るか...絶対泣かないっ!!!
せめてもの抵抗だ。
クズ男に屈して堪るか!!
早く終われと、あわよくば逃がしてくれと願いながらも無慈悲にベルトに手が掛かる。
「多少なりとも優しくしてやるよ」
ギュッと強く…きつく目を閉じて、この現実から逃げてしまおうか、そう考えた時──
「──ぅぐっ!!」
苦しい気な呻き声と共に僕の身体が軽くなる。
ふわりと鼻をかすめた僕の大好きな香りが、ひどく懐かしく感じた。
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