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小さなきっかけ
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「…はぁぁぁぁ」
静けさを取り戻した公園に僕の脱力した声が響いた。
緊張感から解放されてずるずる遥海の腕を伝って地面にペタリと座り込む。
そのまま上半身を支えるのも億劫で遥海の脚に額を付けてもたれ掛かった。
「そんな所座ったら汚れるぞ」
「んーー…立てません……」
上目遣いで遥海の袖口を引っ張ってアピールすれば、不機嫌だった表情が僅かに柔らかくなる。
屈んだ遥海が「ん。」と言って僕の背中と膝の裏に腕を回し、僕は首に両腕を絡ませた。
「座るか?」
「…このまま」
ベンチに下ろされそうになったが、フルフルと首を降り遥海の肩口に顔を埋めた。
遥海は僕を持ったままベンチに腰をかけ、その膝の上に僕が横抱きにされている。
「……遥海…ごめん」
顔を埋めたまま聞こえるか聞こえないか、別に聞こえなくてもいいと思いながら呟いた声は当然のように拾われてクスッと小さく笑われた。
「何を謝ってんの?」
「……アレがいるの言わなかったこととか、遊びに行ったこととか」
「言わなかった理由は?…気持ちが揺らいだから?」
「違う!!!それは絶対無い!!無い無い!」
気持ちが揺らぐわけない!!揺らいだわけじゃない!!
全力で言い返して、顔を上げた先にあった遥海の顔は想像していたよりずっと落ち着いていた。
「よかった」
「怒ってないの?」
「そうだな…怒ってるかもな」
言いつつ穏やかで静かな遥海は全然怒っているように見えない。
「遥海…?」
「どうかしたか?」
言いようもない不安が急に僕の心を覆い尽くして、1度思ってしまえば次から次へと溢れかえってくる。
さっきあれだけゴミに怒ってくれたのに、僕のことを助けてくれたのに、こうして抱かれているのに…。
それすら喰い尽くしてしまい、今までのことが全部なかった事のように感じる不安。
自分が自分でおかしいのは分かってる。おかしいと思う。
でも…でもでも…
アイツの変貌ぶりの後だったから…
全部…全部全部”嘘”なんじゃないかって思えてきたんだもん。
遥海もアイツみたいに僕のことを騙していたりしないだろうかって…。
本気で付き合っているって言ってくれたけど、言葉ならいくらでも言えるし、演技だって出来る。
自分の獲物を横取りされたくなかったから怒っただけかもしれない。
ただの気まぐれで遊びかもしれない。
こんなこと思いたくないのにっ…遥海のこと信じたいのに、信じられない自分が嫌で嫌で仕方がないけど、不安は消えてくれはしない。
胸の中がもやもやして気持ち悪い。このままこの不安を抱えているのは不可能だ。
「あのさ…あの…」
「何?」
「遥海は…本当に僕のこと……好き?」
「急にどうした?」
「こ、答えて…本当に好き?」
こんなウザい、かまちょなことを聞く日が来るとは思わなかった。
でも、不安を解消しないと息をするのも苦しい。
僕の問いかけに遥海は目を丸くした。そりゃあ突然聞かれたらビックリするだろう。
でもすぐに、優しげに瞳を細め薄い艶のある唇が動く──
「………。」
はずだった。
好きだと言ってくれるはずだった。
なのに遥海の視線は鋭く尖り、僕のことを攻めるみたいに見てくる。
な…で……
わなわなと肩が震え出す。
「………。」
「何でなんも言ってくれないんだよッ!遥海はっ…はる、かは……僕のこと………」
「お前……いい加減にしろ」
「ヒッ……」
冷たく低い相手を威圧する声が僕の心を抉った。
怖い…。
静かに怒っている…声を荒らげ無い方が何倍も怖い…何倍も怒っているんだ……。
どうして怒るのか…僕がウザかったからか。
怖い、やだっ嫌われたくないッ!
「ご、ごめ…なさ……忘れてッ…今の忘れて!!」
震えてうまく話せない口を無理やり動かして、次に遥海から言われる言葉を聞きたくなくて逃げ出そうとしたけれど、遥海の腕は僕を押さえ込んだ。
暴れても痛いぐらいに腕が絡まり、僕は膝の上から降りられない。
「ヒック…やだっやだやだッ…ごめ…離してっ離せ!」
いつの間にか涙が地面に落ちていたが、遥海は拭ってくれない。
「泪!」
「っやだやだ!やだぁぁ!!」
「俺の話を聞け!!馬鹿!!」
無理矢理顎を掴まれて遥海の方を向かされてしまう。
見たくなかった冷たい目を真正面から受けてしまえば、ボタボタ大粒の涙が溢れて僕の心がグサクザ痛んで止まらない。
嗚咽を零す僕に呆れたように遥海は溜息を付いた。
「…お前が言いたいことはつまり、俺のことが信用出来ないってことだろ?アイツみたいに騙してるんじゃないか不安だって?」
「お、怒んなッ、いで……ごめ、なさい…」
「お前は俺がアイツと同じに見えるってことだろ?」
「エグッ…ふぇ……ちが…ぅもん…」
遥海とアレが同じになんか見えない。
見えないけど不安。
今遥海が怒っている状況がさらに僕の不安を倍増させた。
「おねが…い…嫌いにっ…ヒ…ならないで」
「お前はなんにも分かってない」
僕の願いも虚しく遥海が僕を突き放す。
嫌だ…嫌だって……。
もう苦しくて顔を見ることさえ耐えられなず、ギュッと強く目を閉じた。
最後の言葉を言われる…。
でも
「泪…ちゃんと見ろ」
そう予感して怯えていた僕の頬に包み込むように手が宛てがわれた。
一瞬ビクッと体が跳ねたがその手の温もりに力が抜けた。
誘われる、冷たさから打って変わった暖かなオレンジ色の声。
ゆっくり瞼を持ち上げて、ゆらゆら揺れる水面の向こうで遥海の真剣な強い瞳と交わった。
「お前が俺のこと信じてくれるってんなら、喜んで地面を舐めて土下座でも何でもしてやるよ」
「ぅ…遥海…?」
遥海は僕のことをベンチに下ろすと本気で地面に両膝を付けた。
いつも僕より上にある身体が地面で小さくなっている。
「ッ…!」
そして頭を下げ額を地面に付けようとしたのを慌てて抱きつき止めさせた。
「ヒック…遥海…ごめんなさぃぃ!ごめっごめん…」
遥海の姿に僕の馬鹿げた勝手な思い込みがじわじわと影を消してゆく。
土下座なんか…このプライドの高い男が軽い気持ちで出来るわけがない、するわけがない。
僕のためだけに、頭を下げてくれた。
「謝んな。…余計腹立つから」
遥海の頭を胸に抱いて泣き喚く僕に、やはり少しだけ厳しい声がかかる。
それでも先程までの恐怖は感じない。
遥海…遥海遥海……!
「いつまでも泣くなよ。部屋、帰るだろ?」
「帰るぅ…うぅ……ゆ、許してぇ」
「またそうやって不安そうな顔するし…全然分かってないだろ」
遥海の気持ちはもう疑ってないよ。
でも今の僕は心底ウザいだろ?
泣いて騒いで疑って…最低だ。
だからこんな僕を許して欲しい。
嫌いにならないで。
以前流れる涙を遥海が優しく唇で拾い上げてくれた。
目にかかっている前髪を掻き上げられ見つめられる。
「俺がどれだけお前の事想ってるか、たっぷり教えてやる」
そして息すら食べられる程のキスを貰った。
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