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バッタリと
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先生の長ったらしい話が終わり、ようやく帰宅できる。
HRが終わった瞬間群がる生徒を笑顔で受け流し、急いで教室を抜け出した。
そんな僕の後をちゃっかり咲は付いてくる。
「疲労感が半端ない…」
「お疲れ〜!よく頑張りました!」
「なんか、イラッとくるわ」
「ひゃー!怒らないで?」
「はぁ……」
咲はケタケタ笑いながら僕の後ろからひょこひょこ顔をのぞき込んでくる。
思わず肘打ちを喰らわせそうになったが、ため息を吐き出しなんとか思い止まる。
まったく…最悪だっつの。
教室を出ても僕の元に集まる多くの視線。
すれ違う生徒の二度見にヒソヒソ騒ぐ声。
これはしばらく続きそうだ。
ほとぼりが冷めるまで我慢しかないのがまた辛い。
全部が全部興味の視線ってわけでもないし。
時々ぐっさぐさ突き刺さる視線とか、僕に聞こえるようにわざわざ言ってくる奴とかが混ざっていて、その都度イライラゲージが大幅に跳ね上がるのだ。
「チッ…急ぐよ」
「はーい」
僕の舌打ちにビクッと目を丸くした咲だったが、素直に頷き僕の後に続いた。
玄関を抜け歩くスピードを上げようとしたタイミングで柱の影から姿を表した2人組。
「ッ………」
その瞬間息を飲みビタっと足を止めなければよかったものの、反射的に反応してしまった。
僕の後ろにいた咲は僕とその2人を見比べる。
やがて、二人で話していた片割れが─気がついて欲しくない方─僕らの存在に気が付き、嫌な笑みを浮かべた。
「泪。昨日ぶりだな」
僕の名前だけを呼び近寄ってくるそいつの神経を本気で疑う。
残された片割れの柚瑠は、僕を瞳に捉えると唇を噛み締め視線を逸らした。
僕に対する明らかな嫌悪。
それは仕方のないことだ。僕が自分で招いた結果なのだから。
そして多分今この瞬間も嫌われていくのだろう。
クソ野郎(勇)と関りを持ち、柚瑠の目の前で会話を繰り広げることで...。
柚瑠はこいつの正体を知らないから。
こいつのことを信じて、好いているから。
例え今日広まった僕と遥海の関係を知っていたとしても、心穏やかじゃないだろう。
でもっ...僕だって、こいつと会って、しかも柚瑠と一緒にいるところを見て大人しくしてもいられなった。
こいつは昨日、確かに言ったんだ。
柚瑠と本気で付き合ってなどいないと。お遊びだと。興覚めだと。
人を馬鹿にするような笑みを浮かべながら、言ったんだ。
それなのに、どうしてこいつは柚瑠と一緒にいるんだ。
まだ付き合っているのか?別れていないのか?
そう思った瞬間、僕はそもそも間違っていると気が付いた。
こいつにとって付き合っている、いないの話じゃないんだ。
お遊びなんだ。
今一緒にいることさえも全部。
「何...してんの?」
「何って言われても、柚瑠と一緒にいるだけなんだけど」
「だからっ...何で?」
僕が意図していることに気が付いているくせに、こいつはけろっととぼけてクスっと笑う。
「だって俺ら付き合ってるから。一緒にいてもおかしくないだろ?なぁ柚瑠?」
後ろで僕らのやり取りを見ていた柚瑠は、コクンと一つ頷くとこいつの隣に並び控えめに袖を掴み、僕を鋭く見据えた。
まるで勇は俺のものだとでも言いたげな仕草に、やるせない気持ちに襲われた。
今の柚瑠には僕が勇に迫っているようにしか見えていないんだ。
こいつの気持ちの悪い笑みでさえ見えていない。
「ふざけんのもいい加減にしろ!」
「怒るなって。可愛い顔が台無しだぜ?」
僕が本気で怒っているのに、こいつはそれを楽しんでいるかのような態度にセリフ。
「ん~もしかして泪も構って欲しいのか?そうならそうと言えよな~」
「っんの野郎!!!」
堪忍袋の緒が切れ、玄関前で生徒の目があるということも忘れ掴みかかろうとした―—僕の手は強く弾かれ、乾いた音が響いた。
何が起こったのか。
それは言うまでもない。
「勇!!」
柚瑠だ。柚瑠が僕の手を弾いたんだ。
「早く行こう...時間がもったいない」
ぐっと自分の方にこいつを引き寄せると柚瑠はそのまま歩き始める。
こいつは柚瑠はの行動を素直に受け入れ、僕にもう一度にっこりと笑って見せた。
「どこ行くんだよ!?」
「俺の部屋~」
「やめろ!!行くな!!」
柚瑠の馬鹿っ!!
こいつの部屋になんか行ったらダメだ!!ダメに決まっている!!
今度こそ絶対に無理矢理にでもヤられるっ!!
純粋な柚瑠を守らないといけない。
そう思い叫んだ言葉は
「うるさいっ!!!!」
柚瑠には伝わらなかった。
振り返った柚瑠はキッと僕のことを睨みつけ、わなわな震える唇で叫ぶ。
「泪に口出しされることじゃないだろ!関係ないんだから!!」
「————!!」
あまりの衝撃に何も言えなかった。
柚瑠の口から言われるとは夢にも思わなったから。
その言葉通り。僕らは友達でも何でもないのだ。
関係ない、他人だ。
柚瑠の言う通り。
「勇、行こう」
「もちろん。じゃーな、るーい」
とても愉快そうに奴は手を振り、柚瑠に引かれるまま歩いていってしまった。
その場に放心した僕を置いて。
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