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電話
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——prrrrrr......
まるで今から受験の結果発表を確認するような緊張した面持ちで、咲は携帯を握りしめている。
その隣の幸太先輩は興味津々で会話を聞こうと耳を澄ませ、達也先輩は何もしていないのに咲と同じぐらい緊張していた。
僕だってちょっと胃が痛いぐらいなのに、隣の遥海は興味なさげに大きな欠伸を隠そうともしない。
全く...薄情者!
僕たちがこういう状況なのは、話合い?の結果咲が奴(勇)に電話をしてみるということになった。
僕から柚瑠や奴に連絡は取れないし、先輩たちは面識が一切ない。
となると、咲が顔見知っている奴に連絡を取るのが一番だった。
とにかく、二人が部屋で何をしているのか、とか、邪魔をする目的だ。
『もしもし?』
出た!!!
「あ、も、もしもし!」
『ん?急にどうした?』
咲は緊張から声が裏返り、焦ったように口を押えた。
「大丈夫だから、普通に話してみな」
そんな咲を幸太先輩は小声で宥め、咲も大きく頷いて口を開く。
「あのねっ、さっきのことが心配で...あの...大丈夫かなって思って」
『あー別に泪とはなんでもないから、全然大丈夫』
どこがなんにもないだ!?ありありだろ!!
突っ込みたい気持ちを抑えて、成り行きを見守る。
「そーだったんだね...えーと、本当に電話なんかしてごめん、柚瑠くんとデート中だったよね?」
『それだけどさ——』
奴が何かを言おうとしたとき
『勇~~早く戻ってきてよ!!』
女の人の声が近くで言葉を遮った。
もぉなんていうか驚きすぎて咲と視線を交えて首を傾げてしまった。
いやだって、部屋に行くって言ってたじゃん?
寮に女連れ込んでるとか?は?意味わからん!
「え、勇...女の子?」
『そ。柚瑠とデートは止めた。なーんか気乗りしないみたいだったからさ~』
「それってどういう...」
『悪い、あいつらうるさいから行くな?』
電話越しでもわかる外野の奴を呼ぶ声に、奴はそう言って電話を切った。
えーーーーと...つまり柚瑠とは一緒にいなくて、部屋にも行ってないってことだよね?
んでクソ野郎は女の子達と遊んでると...。
柚瑠はこのこと知ってんのかな...?
知ってたら、あんな奴愛想つかして別れないかな?
そしたら一件落着なんだけど。
「話に違わずの最低っぷりだったね~。柚瑠くん大丈夫なの?様子見てきたら?」
「行きたいのは山々ですけど僕が言ったら話が拗れそうだし...気まずいし...」
幸太先輩は僕の次に咲に問いかけたが、咲も首を左右に振って渋い顔を浮かべた。
「どうしよう...こうなったら誰か別の人に行かせようか...」
「なぁ。」
今までほとんど黙っていた遥海が唐突に呟く。
「そんなことしなくていいだろ」
「はっ!?」
「他人がぐちゃぐちゃ関与する必要なんかねぇだろ」
呆れを含んだ物言いに僕は遥海を睨みつけた。
ここまで薄情だったのか!?
遥海だってアイツの最低さは知っているはずだし、柚瑠のことだって顔見知りのはずなのに...。
「何でだよ!?柚瑠は騙されてるから教えてあげないとっ」
「だから、騙されてて幸せなら放って置いてやれば?つーか、いくら天然でも勘付くだろ?」
「かっ、勘付かないかもしれないじゃん!!」
「なら別にいいだろ。結局俺らが何言ったって、聞く耳なんか持たねぇんだから自分で気が付くまで放っておくのが一番だと、俺は思うけどな」
「でもっ!!」
「じゃあ聞くけど、菊池勇のことが好きだった時俺言ったよな?アイツは碌でもない、やめておけって。お前その時信じたか?騙されていたんだ、好きなのやめようってなったか?」
「———!!」
思い起こされる記憶。
確かにまだアイツの正体を知らなくて、遥海のことが大嫌いだった時...言われた。
僕は...一ミリだって信じなった。遥海が勝手に言っている嘘だと思ったし、僕は自分の中の菊池勇という人格を疑わなかった。
遥海が、僕がアイツを好きでいることが気に入らなくて、嫌いにしようとしてついた嘘だって——。
「......。」
今思えば騙されていた僕は大バカ者で、遥海の言ったことが本当だった。でも、あの時は騙されているなんて思えなかったし、考えもしなかった。
つまり、そういうことだ...。
今、僕ら外野がいくら柚瑠に言ったところで信じてはもらえないし、むしろ僕たちを悪者だと思ってしまうんだろう。
現に僕は嫌われている。嫌がらせをされているんだって認識されてもしょうがない立場なんだ。
「ほら見ろ。言い返せない」
「...でも、放って置けない」
結局遥海に言い返すことも出来ず、その日はお開きになった。
帰り際咲が「僕は泪に賛成だからね」そうこっそり耳打ちしてくれた。
部屋に二人っきりで残されて、どことなく気まずい雰囲気。
お互いに何も言わず、自室の扉を開けていた。
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