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05 変わってみせる
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こうして、この日を境に俺は猛勉強を始めた。
つるんでた奴等は僻みもあってか始めはしつこく絡んできたが、やがてしっかりと成績で成果を出す俺に自然と近寄って来なくなった。
だらしない制服もカッコ良く着崩すように変え、髪型も不良気取りな金髪メッシュをやめて全て黒髪に変えた。
元々、そこまで悪い顔立ちじゃなかったらしいことと、周りの騒いでいた取り巻きがいなくなったことで要らぬ女子人気が急上昇したのは冬も終えた春先のこと。
そこまで俺が変わる間、遅れていた勉強で分からない事は忍に教わり、日曜日は女装をした忍と二人で公園デートを重ねた。
中学生なんて大して金も持っていないし、忍とは話がしたいから丁度良かった。
そうして自分に自信がついた二年の始業式、クラス替えはありがたいことに忍と同じクラス。席はさすがに少し離れてしまったが二年で同じクラスということは修学旅行も一緒に回れる。色々と運が巡ってきた。
「へーえ?阿久津君もそんな必死になるんだね」
「…まあね」
職員室へ行っている忍を待って勉強をしていたのを妨げたのはまたしても同じクラスになってしまった雛瀬。
机に片手をついて此方を覗き込む顔にはやはり化粧が施してあるが、なんで俺の服装が注意されてお前のその顔はスルーなわけ?
「可愛いでしょ、忍の女装姿」
「…。」
「そんな睨まないでよ、こわーい。可愛いものは最大限まで魅力を引き出さないと、でしょ?睨まれるような事した覚えはないけど…ヤキモチやっきー」
にこにこと笑っているがその笑みが最高に苛立たせるってことをきっとコイツは理解してやっているのだろう。
特に相手にせずにひと睨みしてから参考書に視線を戻すと楽しげな声が耳に響く。
感謝して欲しいくらい、と耳打ちして羽根のように軽く去っていくのを目線だけで追うが奴が此方を振り返ることはなかった。
「くそ…わかってるよ、うるせえな…」
担任との話が長引いていたのかそれから随分と時間が経ってから戻ってきた忍を家まで送る細やかなデートをする帰宅途中。
近所の公園に視線を向けて、ちょっと寄り道しようと忍の手を取ってそのままブランコに座らせた。
目の前にしゃがんで忍の両手を握ると恥ずかしそうに視線を泳がせているが、その顔が可愛いって未だにわかってないのだろうか。
「忍、聞いて。」
『…うん。』
「俺、勉強も忍より成績取れるようになった。忍が怖がる奴等とも関わってない…俺、変われた?」
『うん、羨ましい位にカッコ良くなったね』
「羨ましい…か。俺、忍が好きだよ。俺と付き合って欲しい、ダメ?」
『え……』
「忍は俺のこと好きじゃない?俺の自惚れ?」
『好き…だよ、好き…だけど…男、だよ、僕』
「確かに俺は女が好きで、男に恋愛感情はない。忍だってそれは同じだろ?…俺は、俺が好きなのはお前なの、忍が好きなんだよ」
『…女装、してないよ?女装…してるとき、に、言って欲しかっ、た…』
真っ直ぐに見つめて気持ちを伝える俺の言葉に、大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちた。その表情は嬉しそうにも悲しそうにも辛そうにも見えた。
不謹慎かもしれないが、俺はそんな忍も綺麗だと思った。
だから
強く強く抱きしめた。
「なぁ、忍。確かに初めて会った時はお前を女だと思ったよ。初めてのデートの時も女だと思った。忍の顔が好きなのは否定しない、でも、俺が変わりたいと思う程に好きになったのは忍だからで女だからとか男だからとかじゃない。女装してるお前も可愛くて好きだけどね、一番好きなのはお前の笑った顔だよ。」
『あ、阿久津く、ん、僕…僕…ずっと、阿久津君のこと、好き、だったの…女装、可愛いって言って、くれたとき、嬉しかった、けど、ちょっと悲しくて…でも、女装した、僕でもいいから、好きになって…もらいたくて、僕…』
「うんうん、俺のこと好きならちゃんと返事しようか?」
抱きしめた腕を緩めて向かい合い、ボロボロと零れる涙を親指で拭いつつ頬を撫でると、忍は何度も何度も頷いた。
『あ、くつ、くん、好き、僕も、阿久津君が好き、です』
「ダーメ、失格」
『え…』
「俺は忍の笑顔が一番好きって言っただろ。泣いた顔も可愛いけど、返事としては失格、はいやり直し」
言葉とは裏腹に優しく頬を撫でると、泣くのを必死に我慢して破顔した。
『……大好き』
最高に可愛い忍に心臓どころか命を全部持っていかれた俺は、絶対にこいつに余所見をさせないと心に誓いぷっくりと膨らんだ柔らかい唇に己の薄い唇を寄せた。
俺たちのファーストキスは、忍の涙でしょっぱかった。
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