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07 温かな日常
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いつもと変わらぬ楽しい夏休みを過ごした俺たちは、海こそ行かなかったものの川遊びや花火に祭りと一通り満喫した。
写真も沢山撮って、沢山キスをして、この夏は擦り合いもした。
特に思い出深いのは夏祭り。
例年と変わり映えしない地元の祭りだけど、忍の浴衣姿を見るのが楽しみで。
毎年白地に大きな花柄をあしらった浴衣にウィッグをつけてくるのだが、今年は新調したらしく、濃紺に水色の花と川の流れのような模様が大胆に入った浴衣で、髪はそのままのショートでサイドに編み込みをして大きな花を付けてきた。
それが可愛くて可愛くて、驚いた。
『…たっくん、青いの似合うって言ってくれてた、でしょ?あと、黒髪が好きって、聞いたから…』
俺の好みにわざわざ合わせてくれたらしい。
すっげー嬉しくて、余計に可愛く見えて、照れて真っ赤になった顔を隠すように俯いた忍の頬に手を添えると熱でもあるんじゃないかってくらい熱かった。
触れたことで漸く此方を見上げたのですかさずキスをすると、真っ赤な顔が更に赤くなってそれが面白くて笑ったらすごく怒られた。
それにしても、俺自分の好みの話はしてなかったような?忘れてるだけで話したのかな。
そんな疑問を胸にぼんやりと抱きつつも、いつも控えめな忍が珍しく手を引いてはしゃぐからそんなことどうでもよくなって。
恋人繋ぎにしなおして立ち並ぶ出店を回った。
その中でアクセサリー類を扱う店で忍が好きそうなチャームがふと目に付いた。
「おじさん、それ2つちょうだい」
「あいよ、お似合いだね。1000円にまけてやるよ」
「ありがとう」
迷うことなく即決で購入した俺に何が起こっているのか状況を把握出来ていない忍が店主と俺を交互に見比べて困惑している。
「あげる」
『え?え?』
「いらないの?お揃い。欲しくない?」
『欲しい。…ありがとう、嬉しい、けど、びっくりしたー…』
戸惑ったままだったのに、お揃いの言葉を聞いただけですぐに真剣に頷くところは本当に可愛いと思う。俺の自分勝手さと強引なところをしっかり受け止めてくれるのはきっと忍しかいないんじゃないかな。
『変わったストラップだね、お花が散ってるみたい』
「俺のと合わせるとキレイじゃね?」
すぐにお互いの携帯に付けたチャーム。忍のはマーガレットのような花から花びらが散っているようなモチーフで、俺のは同じ型で星が散っているようなもの。
頭上に掲げて嬉しそうに覗き込むそれに、俺のも合わせると、金色が綺麗に揺らめいた。
星の中を花が舞うように、ゆらゆら、揺らめく。
肩を寄せ合って前から忍が欲しがっていたお揃いを満足気に見つめていると自然と目が合った。
きっとお互いにそれを見つめる姿が見たかったのだろう。
なんとなくそれが分かって、やんわりと微笑むと幸せそうな笑顔が返ってきた。
そんな幸せが日常になっていた。
そんな夏が終わりを迎えて秋がやってくる。
俺たちはこの夏で今まで以上にお互いを知って、更に互いの好きを深めて行った。
時間の許す限り共に時間を費やした夏休み明け、まだ暑さも残る季節なのに忍はマスクを付けて登校してきた。
「どうした?風邪?」
『…ん…わがらないげど…喉が痛ぐで…』
「うわ、スゴイな。無理して喋るな、いいから。辛いだろ」
その日の忍の声はいつもの高く透き通った声色を忘れてしまいそうな程に枯れていて。
背中をさすって労ってあげたい気持ちを示すと、目が細まったので笑っているのだと気付けて少しだけ安心感を抱いた。
しかし、一週間経っても忍の声は治るどころか酷くなる一方で、風邪ではなくて喉の調子が悪いらしいと忍は早退して病院に行くことに。
結果が分かればすぐに戻ってくると思ってた。
たっくん、お薬沢山貰っちゃったー、と笑うはずだったのに。
その日を境に、忍は学校へ来なくなった。
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