アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10 変化を恐れるな
-
目の前に現れたのは手ぶらな雛瀬。
如何にも面倒です、と言わんばかりの態度に苛立ちが更に増して、勢いのままに胸倉を掴んで顔を寄せていた。
「あーのさー校門で待ち伏せってヤンキーまだ卒業できてないの?それともまたヤンキーになった?」
全く動じない。睨みをきかせても真っ直ぐ見つめ返してくる。相変わらず化粧しやがって、しなくてもイケメンだろうお前は。
何がしたいんだよ、お前も、忍も。
「友達にメール貰ったから出て来てみたけど、本当に来るってバカ?」
「その友達に余計なことすんなって言っておけ」
「その親切なメールがなかったらずっと此処で待ってたんでしょ?め、い、わ、く」
ギリっ、雛瀬のブレザーを掴む手に力が入る。どこまでも挑発的な言葉しか言わない奴、綺麗な顔して忍の近いところに必ずいる奴、何がしたい、何をした、今、忍はどうしている!
「あのさー皺になるから睨むだけなら離してくれる?忍のことで来たんでしょ、まー遅すぎるけど。その件なら話聞くけど?」
何でもお見通しですって視線は呆れたようにも馬鹿にしたようにも見えるのに、何故か憔悴したような色を帯びていた。
舌打ちをして乱雑に手を離すと身支度を整えながら校門を出て、ついて来いと視線を向けてきた、まあ、そうだよな、くそっ。
高校近くの公園に入るなり自販機で缶コーヒーを2本買うと1本をこちらへ投げてきた。熱っ…何だよ、気が利く奴だな。
「それでー?何でそんなに怒ってるの?僕にはいつも怒ってるけど、久しぶりに会ったのに今日はまた特に酷いよね」
「心当たりあるだろ」
「んー君に睨まれる覚えは、ないかな」
「忍は元気?」
「なーんにも言ってくれなくて、不安?」
「何でお前なわけ」
「逆に聞きたいね、どうして君はそんなことを僕に聞くために此処にいるの?」
ピリピリとした空気、冷えた外気。俺たちの口からは白い息が煙のように空へと昇っていた。
「忍は、何も言わない。顔も見せない」
「だから?」
「でも、お前とは一緒に居るって言うじゃねーか」
「そうだね」
「忍は、お前を選んだのか?」
「ばっかじゃないの。よく考えた?」
「何を」
「僕にそれを聞いてる時点で駄目だって言ってるの!」
雛瀬が声を荒げたところを初めて見た。何でこいつがキレているんだろう。
そして、何でこいつはその大きな瞳に涙を溜めてこちらを睨んでいるんだろう。
鼻が赤いのは寒いから?それとも泣きそうなのを我慢しているから?
「君は!いつも強引なくせに!どうして今回だけはそんななの!?忍に選ばせる機会なんて今まで一度も与えずに自分の欲望のままに押し切ってきたくせに!それなのに、どうして今回に限ってバカみたいに待ってるの!?」
強引? 選ばせる?
「どうして変わることに怯えているの?君は変わったから忍の傍に居られたんじゃないの?今変わらなくちゃいけないのは誰なのかよく考えてから僕に突っかかってきてよ。……いつまでもそんなことしてるなら…もうやめなよ」
「やめるってなんだよ、俺は…俺は!忍は俺の恋人だ!」
「だからばっかじゃないのっていってるじゃん…」
俺が感情的に声を荒げると逆に声のトーンが落ちていく。
「それを初めからしなよ。早く救ってあげて」
「え?」
「僕が忍を外に引っ張り出せたのは去年までの話。年明けてからはさっぱりだよ、早くどうにかしなよ」
ずずっと鼻をすすり、風邪引いたら慰謝料請求するからね、バカ。と言い残して雛瀬はそのまま自分の学校へと戻ってしまった。何処までも自由なやつだな…。
でも。
妙にスッキリした気持ちになっていた。何でうじうじとして、忍の様子を伺っていたのだろう。
もういらないと言われるのが怖かった。
自分のことは好きじゃないって言われるのが嫌だった。
きっと雛瀬だから怖かった。あいつは忍にちゃんと寄り添っているのを知ってたから。
俺は?
俺は、忍が好きで、忍を笑わせたくて、忍を幸せにしてあげたい。
いつもそうやって、気持ちを押し付けてきた。雛瀬の言うとおり、忍の希望を尊重させたり異見を求める機会なんて与えたことはなかったかもしれない。
それでも。
そんな俺を忍は選んでくれたじゃないか。
俺がいいって思ってくれたじゃないか。
ごめん忍。
今すぐ行くから、お前のこと全部丸ごと貰いに行くから。
だからもう一度、笑ってくれ。
何があったのか、ちゃんと教えてくれ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 17