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待てども
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「…遅い。」
待ち合わせの時間は二時間前。夜とはいえ、夏真っ盛りの中薄暗い場所にボーッと立っているのも暑いし、何より目立つ。忘れっぽい恋人のことだ。今日の夕食デートのことはすっかり忘れているのかもしれない。ここで事故だろうか?と思えない辺り、恋人との付き合いの長さか、それとも俺が薄情なのか、はてさて両方か。メールも気付いていないようだし、アパートに向かってみた方がいいのかも知れない。
「…面倒くさい。」
ポツリと呟いたそれは雑踏の中へと消えて行った。
「………。」
恋人のアパートに着き、合鍵で扉を開ける。インターホンを押さないのはいつもの事なので、恋人も気にしない。明かりがついていたので、やはり今日の約束は忘れていたのだろう。…と、中に入るまでは考えていたのだが。
「っや…!も、はげっし、…っ!」
「はっ…はっ…ホントはもっと、されたいんでしょ、っ?」
「あぁっ!」
「………。」
聞こえてくるのは、少し高いが、男の声だと分かった。これは…俗に言う浮気か。いや、もしかしたら俺の勘違いで、最初から付き合っていたと思っていたのは俺だけだったのかもしれない。セフレみたいな。…や、でも体の関係があったとは言えないからセフレではないのか。抜き合いぐらいしかしたことないし。もしかして、良くて友達、悪くて愛人、だったとか?
それよりもまず、俺はこの場合どうすることが正解なのだろうか。泣いて喚いて、俺との関係は何だったのかと問い詰めるべきか。…恋人のことは好きだ。高校時代から同じ大学に入って、半同棲するぐらいには好きだ。だからと言って、涙が出るほど辛い、というわけじゃない。寂しい、とは思うが申し訳ない気持ちの方が大きい。
それは、俺がゲイだということだ。自覚したのは、小学生の頃だった。それから色々あって、家族にも打ち明け、今でも家族との縁は切られるずにいる。妹の尽力あってのことだが、今は割愛。
高校に上がって、恋人ーー今、見知らぬ男との情事の最中のーーに出会った。最初、お互いに接点があったわけではない。何がきっかけだったのかは忘れたが、いつの間にか隣にいることが自然となっていた。お互い、気心知れた中になり、思い切って俺は、俺がゲイであることを伝えた。引かれるか、軽蔑されるか。しかしこのことを悪ふざけして周りに言いふらすような奴でもないことをわかっていたので、狡いと言われやうとも、俺は、こんな俺でも良いなら、友情を育みたいのだと思って、口にした。
結果は、『へ〜。』の一言。俺は拍子抜けした。けれども彼らしいなとも思った。見た目の良い彼は、友人が多かったが、誰に対しても興味なさげな性格だったからだ。…だから伝えられたのかもしれない。周りの人間に対して無関心な彼なら、俺のこの告白も気にはしないのだろう、と。俺の告白の後、それまでと変わらず接する彼に安心した。彼の隣は居心地が良かった。
その後、彼と一緒にいるうちに、どちらからともなく流れで、その場の雰囲気でキスをし、今に至るわけだ。申し訳ない気持ちになったのは、俺の側にいた所為で、彼も同性愛者になってしまっのではないかと思ったからだ。ガタイが良いという程でもないが、軽く鍛えられていて、身長もそれなりにある俺なんかよりも、寝室から聞こえてくる俺なんかよりも高い声、何となく華奢な男を想像するが、そういうのの方が良いのかも知れない。無関心な彼のことだ。もしかしたら俺に飽きたのだろう。
長い間廊下に突っ立っていた気もするが、そこまで時間が経っていないことは扉から聞こえてくる声でわかる。まぁ、ヤリ続けているだけなのかもしれないが。取り敢えず、このままここにいるのも気まずいので、自宅に戻ろう。
荷物は多くはないが、半同棲していたようなものだ。着替えとかもあるので、それは彼等が居ない時間帯に持ち帰ろう。
俺は静かに玄関を開け、聞こえてくる声に背を向けた。
カチャン、と閉まった鍵の音が、酷く虚しかった。
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