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浮気されたorこっちが遊びだった、という場合、やはり俺の私物があの部屋にある、というのはいけないだろう。だからといっていきなり俺の私物が無くなってしまえば、あいつに気付かれてしまう。なんだかんだで敏い奴だ。俺との関係が切れることを渋るかもしれない。……まぁ、少しでも俺に対しての情があればだが。
だから、あいつの居ない時間帯、あいつが大学に行ってる間に、少しずつ俺の私物を取りに行く。……とは言っても、服とか、歯ブラシとか、元々持ち物は少なかったから、2、3回くらい取りに向かえば直ぐにあいつの部屋から俺の私物は無くなった。因みに、俺は講義があったがサボった。あまり休んだことはないから、単位は大丈夫だろう。多分。
ふと、こんな行動に出ているのにも関わらず、寂しいとか、悲しいとか、離れたくないだとかの感情は湧いてこないことに気がついた。多少の虚しさはあれど、胸が苦しい、ということもない。……あいつが、いずれ俺以外の人の所へいくだろうと、無意識のうちにでも考えていたのだろうか。
服の入った紙袋を下げながら、ゆっくりと散歩がてらに歩き回る。蝉の鳴き声が、アスファルトに反響して、蝉に囲まれているみたいだ。…暑い。昼の間は、やはり日差しが強く、汗が止まらない。
「…どっかで涼むか。」
顎に伝う汗を拭い、涼める場所がないか辺りを見回す。少し先に、小さな公園が見えた。自販機もある。…喉も乾いたし、炭酸でも飲もう。近づいて行くと、元気に走り回る子供達がいた。虫探しでもしているのだろう、網を掲げ、ゆっくりと一つの木に近付き網を振り下ろす。が、逃げられたようでまた走り出した。
「子供は元気だな…。」
「見てて微笑ましいですよね。」
自販機に近付き、小銭を入れながら零れた俺の言葉に思わぬ返事がきた。驚いて振り返ると、こんな暑さにも関わらずマイナスイオンでも出ているのではないかと思うほどの涼しげな青年が背後に立っていた。…見ず知らずの他人に声を掛けるとは、中々のコミュ力だな。俺は余り人と話すことが得意ではないため、ついどもってしまい、持っていた小銭を落としてしまった。
「す、すいません!急に話しかけてしまって…。」
「あ、あぁ、いえ、そんな、大丈夫、です。」
慌てて小銭を拾い、炭酸を購入する。青年も何か買うのだろうと、横にずれた。そばに木陰になっているベンチを見つけたため、そこに腰掛け炭酸の蓋を開ける。プシュッ、と爽やかな炭酸が抜ける音をたて、泡が弾ける。プハッと息を吐いて口元を拭う。火照った体に冷たい炭酸が行き渡る。
ふと、隣に温もりを感じた。チラリ、と横に視線を向けると、先程の涼しげな青年が隣に腰掛けていた。…何故隣に。ベンチは、少し離れてはいるが他にもあるのに。俺の視線に気付いたのか、青年はニコリと俺に笑顔を向けた。…爽やかな風が吹いたのは気のせいだろうか。
「…?」
「あっ!すいません、いきなり隣に座って…。」
「あ、の…いえ、だ、いじょうぶ…です…。」
…こんな無愛想なやつの隣によく座ろうと思ったな。なんて言えるわけもなく、どもりながら返事をする。…犬っぽいな、と思うのは、流石に失礼か。
「あの、実は、暫く俺と時間を潰してくれないかな、と思って声を掛けたんです。」
「……俺と?」
「はい!」
青年は、ニコニコと爽やかな笑顔を俺に向けながら、良くわからないことを口にした。…何故俺なんだ。
「えっと…俺、友達と遊ぶ約束してたんですけど、さっきドタキャンされちゃって…折角暑い中外に出たのに、このまま家に帰るのもなんか嫌で…そしたら、お兄さんがこっちに向かってるのが見えて…つい…。」
「はぁ…。」
…つい、で見知らぬ他人、それも、目つきの悪い俺なんかに声をかけたのか。最近の若いやつは、みんなこんな感じなのだろうか。というか、時間潰しのために声をかけるとか、ナンパか。まぁ、俺みたいなのなんて、早々いないから、この考えはないな。
「…時間潰すったって、俺、口下手なんで…」
「俺が勝手に喋るんで、大丈夫です!」
それ、俺じゃなくても良いんじゃないの、と思うが、胸を張ってそう言う青年が少し面白くて、久しぶりに頬が緩んだ。
「っあ、あの!」
「はい?」
「まず、お名前を聞いても良いでしょうか!」
…暑さにやられたのだろうか。何故だか顔を赤くしながらそういった青年に首を傾げながら口を開く。
「…俺は、さがみ、っ!?」
ふわり、と暑い、熱い、体温に、口元を抑えられ、抱き込まれた。夏の匂いと、久しぶりに香るそれに、目を見開かせる。
………何で、ここに居るんだ。
「…こいつに近付くな。」
腕の中、広がる甘い香りに、くらりと眩暈がした。頭の中はぐるぐると掻き乱されて、上手く思考がまとまらない。視界の先で、締めていなかったペットボトルの中身が、ベンチの下に零れ、紙袋を濡らしている。
「…帰るぞ。」
目を見開かせ固まってしまっているままの青年を後目に、ボソリと呟いたかと思うと、口元を抑えていた手を除け、俺の腕を掴み引っ張る。慌てて濡れている紙袋を掴み、引かれるがままに足を動かす。…青年には悪いが、珍しく不機嫌なこいつに口を開くことができず、足早に公園から離れて行った。
先程まで響いていた蝉の声が、いつの間にか止んでいた。
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