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「お前、大学はどうしたんだよ。」
腕を引かれながらも、取り敢えず状況を確かめるために、ようやっと声をかけることができた。俺の問いかけに、歩みが弱められ、答えを発するのかと思いきや、いきなり早歩きになり、腕にも力が込められた。
「っおい!何なんだよ!何か話せよ!」
「五月蝿い。黙れ。」
話せとは言ったが罵倒しろとは言ってない!…と反論しようにも目の前から漂う黒いものに口を噤む。どこに向かいるのかは、何となく予想出来る、というよりも、先程俺が通ってきた道を逆戻りしているため、彼の家へとむかっているのだろう。先程まで照り続けていた太陽は、いつの間にか薄暗い雲に覆われて、一雨来そうだと頭の隅で呟いた。
雨が降る頃には彼の部屋の中へと連れてこられ、雨に濡れることはなかった。…連れてこられ、というよりは、投げ込まれた、の方がしっくりくる。ガチャン!と勢い良く閉じられた扉にビクリ、と肩を揺らす。何を言われるのかと体を強ばらせていると、「中で、座ってろ。」と低い声で言われ、ビクビクしながら言われた通り、昔2人で選んだソファへと腰を下ろした。
隣に座ると思い、スペースを空けて座ったが、一向に座る気配がない。膝の上に乗せた紙袋がガサリと音を鳴らした。
「…その紙袋、あいつに貰ったのか。」
「…へ?」
突拍子もない言葉に、思わず間抜けな声を上げてしまった。違う、と戸惑いながら答えると、じゃあそれは何だ、と問われる。
「…これは、あれだ。着れなくなった服を実家に持って帰ろうと思って。」
「中身、1ヶ月前に買ったやつが入ってるけど。」
「………。…間違えて入れたんだよ。」
「へー…。」
「………。」
「………。」
………な、なんか、空気が重い気がする。目を逸らし、苦しい言い訳に、訝しむ声。ゆらり、と影が動いたかと思った瞬間、力強く肩を押し付けられ、体制を保てずソファに倒れ込む。拍子に紙袋の中身が飛び出した。それにちらりと視線を向けた彼は、口元を歪めながらも、冷たい目を俺に向けた。
「何だ、出ていくつもりだったのか?気付くと物が減ってきてるし、大学でも避けられてる気がしたし。あぁ、あの公園にいたやつと浮気でもしてたか?」
「…は?」
何を言ってんだこいつ、という目で見てしまうのは勘弁して欲しい。というか気が付かれていたのか。呆然としていると、掴まれている肩に力が込められた。
「お前、取り敢えず落ち着け。」
「俺は十分落ち着いてるよ。何、言い訳でもする気?」
「言い訳も何も、第一、俺は浮気なんかしてないし…それに、公園で話してたあの男の子は初めて会って、」
「俺と別れてそいつと一緒になろうって?」
「だから!そこから離れろよ!そもそも俺達って付き合ってたのか!?」
俺が浮気したと言い募る目の前のやつに、ついカッとなって怒鳴ってしまった。それに目を見開き、固まっている隙に肩を押し戻す。数秒程の間をあけ、は、とか細い声か息を吐き出したこいつと目線を合わせる。
「…どういう意味だよ。」
「…どういう意味も、そのまんまだよ。俺達は本当に付き合ってたのかってこと。」
「は、」
「…夕飯、一緒に飯食いに行く約束してた日、お前が来なくて、忘れっぽいお前のことだから、そのことも忘れてたんだろうって思って…もしかしたらこの家にいるんじゃねぇかって…。」
「……。」
合わせていた目線を横に向け、顔を見ないようにして口を開く。…本当は、言わないまま出ていくつもりだった。だが、変に誤魔化すよりも、誤解を解消した方が良いだろう。
「…玄関開けたら、寝室の方から、っ、こえが、聞こえてきて…、」
「っ!お前、聞いてたのか、」
「だから!俺達、本当に付き合ってたのか、って思って、もしかして、付き合ってたのは俺の、か、勘違いで!お前には、本命がいて、俺は遊びか何かなんじゃないかって…!そ、それに相手は男だし、俺のせいで、お前まで男を好きになったんじゃないかって!」
あぁ、声が震える。女々しい、格好悪い、情けない。こんな事、言うはずなかったのに、言いたくなかったのに、勝手に口は動き出す。
考えないようにしていたものが、頭の中でぐちゃぐちゃになる。
そこまで好きじゃなかったんだ。あいつの為だ、俺が、男しか好きになれない、こんな俺があいつの傍にいたから、あいつの道をめちゃくちゃにしたんだ。俺がいちゃいけない。あいつまで、俺と同じにしちゃ、巻き込んじゃいけない。俺とは違う。幸せな家庭をつくることができる、それを、邪魔してはいけないんだ。あぁ、でも、嫌だ。ずっと、傍にいたんだ。俺が、同じ男しか好きになれないと言っても、離れていかず、傍にいた。傍に、いてくれだんだ。
もっともな言葉を並べて、あいつの為だと思っても、どんなに、離れなければと思っても、本当は
「好きなんだ…っ!」
初めて、好きになった人なんだ…。
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