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目を見開き、驚いた表情を浮かべる初めて好きになった“男”。
…言うつもりは、無かった。口にしてはいけないと、自分を戒めていた言葉を言ってしまった。今すぐにでも出て行きたいのに、体はそれを拒むかのように動かない。…動かせない。
「…っ、俺は、お前が思うような、寡黙だとか、無関心なやつなんかじゃないんだ。ひっ、女々しくて、面倒くさくて、お前にとって重荷にしかならないことば、ばかり考えてるような、お、男なんだ。」
溢れる涙が止まらない。思うように言葉を紡ぎ出せない。胸が、痛い。苦しい。
「……お前だって、こんなやつは嫌だろう?だから、俺がここを出て行って、お前は、っほ、他の、ふ、っぅ、す、好きな人とっ、?」
「……………悪かった。」
ぎゅっと、温かいぬくもりに包まれた。と思えば、小さな声で発せられた、謝罪の言葉。…正面から抱き締められたのは、いつぶりだろうか。いや、初めてだ。急な出来事で、体が思うように動かない。
「悪かった。」
「なっ、なにが」
「…全部。」
「…お前が苦しんでたことを気付いてやれなかった。そこまで悩んでたことに、気付いてやれなかった。…俺の身勝手な行動で、お前を傷付けていたことに気付いてやれなかった。」
他にも、たくさん気付いてやれなかったこと、全部、全部、悪かった。
少しだけ震えている声音に、だんだんと落ち着きを取り戻し、目を丸くする。こいつは、昔から、自分から謝るということをしなかった。なのに今、その口から謝罪の言葉を出している。驚かずにはいられない。
「…お前は、男が好きだとは言うけど、俺を好きだとは、一度も言ったことはなかったから、少し、不安だった。」
「…お、お前だって、『付き合うか』って言っただけで、好きだとは言わなかっただろ。」
「………それは」
「……………。」
「………悪かった。」
「…や、俺も………ごめん。」
「……………。」
「っ、な、何だよ。」
ガバリ、と勢いよく離れたかと思うと、まじまじと俺の顔を見つめてくる。何だ、どうしたと慌てていると、ポツリと呟かれた言葉に、顔が熱くなるのが分かった。
「…お前のそんな顔初めて見た。」
「は?」
「…可愛い。」
「は!?ちょ!う、っ!」
キス、なんてそんな生易しいもんじゃない。肉食動物が獲物を捕らえるような、獰猛で荒々しい口付け。ファーストキスはレモンの味だ、と言ったのは、誰だったか。俺のファーストキスは、そんな甘酸っぱいものでも何でもない、生々しい、互いの熱をぶつけ合うかのようなキス。
「んん!ちょ、うむ!ま、はっ、待て…!」
「…ん」
不満気な顔を浮かべながらこちらを見てくるのを無視し、はぁはぁ乱れる息を整える。大事な話を忘れている。
「…お、お前、俺を好きだって言ったけど、その…せっ、えっ、………。」
「……………?」
「…っ、う、浮気、してた、だろ。」
ぴくり、と動いた指先に、少しだけ胸が軋んだ。…好きだと言ったのは、もしかしたら、演技だったのか。
「…そうか。お前の立場になって考えれば、浮気になるんだよな…。」
悪い…と頭を下げる目の前の男に調子が狂う。取り敢えず、お互い落ち着いて話をしようとソファに腰掛ける。
「…笑うなよ。」
「…内容による。」
「………練習だよ。」
「は?」
「…お前とする時、失敗したくなかったんだよ。」
「するって、何を。」
「セックス。」
「は!?」
「だから、お前とする時、下手なことはしたくなくて、練習するために、後腐れないやつ選んで練習してたんだよ。」
ふんっと拗ねた顔で言った目の前の男の頭を思わず叩いてしまった。
「ってぇ…何すんだよ。」
「何すんだじゃねぇよ!謝れ!相手の人に謝ってこい!」
「何がだよ。お前以外の男を抱いたのは謝るが、何で相手に謝んなきゃなんねぇんだよ。」
「アホ!人として最低だろうが!俺よりもまずその人に謝れ!今すぐ!」
「連絡先消した。」
「探せば良いだろ!」
あからさまに面倒くさそうな表情をしているその顔を思いっきり引っぱたく。浮気の原因は、俺の意気地の無さが招いたこともあるが、こいつの思考回路も悪いと思う。はぁ、と溜息をつき頭を抱えたくなる。
「お前、頭良いのになんでそんなぶっ飛んだことするんだよ…。」
「…なぁ。」
「今度は何だ!」
「ここ最近、お前の口から俺の名前聞いてないんだけど。」
「……お互い様だろ。そんな事より、お前は謝りに…」
「信。」
肩を引き寄せ、耳元で俺の名を囁く熱を帯びた声。びくり、と身体が震え、動かなくなる。
「…信。悪かった。ちゃんと謝りにも行く。だから。」
俺の名前を呼んでくれ、と拗ねた顔でも、不満気な顔でもなく、ただ真っ直ぐに見つめてくる真剣な顔に、鼓動が速くなる。身体が緊張で固まり、ろくに動けない俺をゆっくり抱き締め耳元に口を近付けてくる。
低い、少し掠れた声に、少し、泣きそうになる。
「信…。俺の名前を呼べ。…また、俺が好きだと、言ってくれ。」
顔中に、耳に口付けられ、最後に囁かれた声に、あぁ、こいつも不安だったのだと、実感した。少しだけ震えている、俺の肩を掴むその手に自分の手をそっとのせる。
お互い、長い付き合いと言えど、言葉にしなければ伝わらないことがあった。初めて知れたこともあった。だからこそ、この先も、ずっとずっと共に歩んで行けたらと願わずにはいられない。
「…幸汰。幸汰が、好きだ。」
「っ、」
「…幸汰。俺はずっと幸汰が好き、っ!?」
誰よりも、何よりも愛しい人の手を握り、今まで閉じ込めていた思いを口にすると、力強く抱き締められ、また荒々しく口付けられた。息ができず、苦しくなっても、お互い離れることはしない。
「はっ、こ、こうた、っぁ、好き、好きだ…っ!」
「…あぁ、俺も…信が、好きだ。」
end.
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