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side鶴丸国永
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「なぁ、一期。考えてみたんだが」
「はい?」
「昨日の事だ」
まさか忘れたわけではないだろう?と付け加えると、一期は慌てた様子で周囲をきょろきょろと見回す。
「大丈夫だよ、人払いは君自身が、たった今したばかりだろ?」
「人払い・・・!そ、そういう意図があったわけでは・・・」
「そうなのか?てっきり二人きりになるためだと思ったがなぁ?」
言葉どおり、一期にそういう意図がなかったのは分かりきっている。
けれど、また慌てる一期が見たくて、意地悪く言ってみると、一期は下を向いてぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「そういう期待がなかったと言えば、嘘にはなりますが・・・」
驚いた。
こういう色恋ごとには滅法弱いと思っていたが、意外や意外。
昨日の出来事もそうだが、一期は自分の気持ちを隠すようなタイプではないらしい。
「なぁ、俺達は元は刀で、今は人の姿なんてしていて、便利なことも不便なことも沢山あるだろう?」
急に話題を変えた俺に一期は何が言いたいのか分からないといった感じで戸惑いの表情を浮かべて応じる。
「え、えぇ。そうですね、最初の数日は感覚の違いに随分と戸惑ったものです」
「特に、この心というものは実に面白く厄介なものだな。刀が刀を好きと思うなど・・・」
俺の言葉に、一期はきゅっと眉根を寄せてみせる。
自分の言葉でいちいち反応が返ってくるのは、どうにも面白い。
おそらく自分が非難されたと思ったのだろう。
「・・・可笑しいことでしょうか」
と、少し低い声でたずねてくる。
「悪い悪い。馬鹿にしているわけじゃあないんだ。ただなぁ、どうにも自分自身での制御が難しい。刀の扱い辛さの比ではないだろう?そんなものが人には必須というんだから、理解に苦しむよ」
一期は黙って俺の言うことを聞いていたが、俺が一息ついたところで、結んでいた口をゆっくりと開く。
「確かに制御し難い、しかし、それ故に庭の桜の美しさや、雨の煩わしさに気付けるのだから、これも悪くない、と私は思っておりますよ」
柔和に微笑み、同じようにやわらかい口調で言う一期。
雨音が響く中でも、消え入ることなく、透き通って耳に届く。
なるほど。
と、思わせてくれる言葉だった。
「その通りだな。この姿を得たことで、得られたものは大きい。俺は出来ればこの姿で居られるうちは、人として出来ることを全てやってみたいと思っているよ。その方が毎日驚きの連続で退屈しないしな」
「先ほど、退屈だと仰られていたのに?」
「・・・君が居れば、それも晴れるさ」
笑顔を向ければ、さっと別の方向に目線をはずされてしまう。一期は外の雨のせいで薄暗い風景を見たまま、呟くように言葉を並べた。
「人の姿を得て、最初に驚いたことは、食事と睡眠の必要があることですな。取らないと動きが鈍くなってしまう。疲労は、刀も手入れせず使い続ければなまくらになりますから、似たようなものかとは思ってはおりましたが・・・、睡眠と食事で回復するのは本当に不思議です」
「知ってるか。人間には三大基本欲求っていうのがあってな?食欲、睡眠欲、性欲だそうだ」
一つ一つ指を折りながら、言葉にしてみるものの、一期はこちらを見るそぶりはなかった。しかし俺は構うことなく喋り続ける。
「つまり人の姿を得た今、それを満たそうとするというのは、極自然なことなのかもしれないな」
「何が言いたいのです?鶴丸殿」
先ほどとは違い随分冷たい声音が、俺の言いたいことを理解していると伝えてくる。
「もう鈍い君でも、俺の思考パターンが少しくらいはわかってもいいはずなんだが」
「昨日の今日で、すんなり分かるわけがないでしょう。それで貴方は何が言いたいのです?何が・・・したいのです?」
やっぱり、わかってるじゃないか。
俺は喉の奥を小さく鳴らして、相変わらずこちらを見ようとしない相手の腕を強引に引いた。
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