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王道転校生君からの逃げ方 side 椿
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*side 椿 *
僕の名前は朱音(あかね)椿(つばき)。
女性みたいな名前だがれっきとした男だ。
だが悲しい事に見た目はかなりの美少女顔で、スカートを穿けば女性に見れない事も…無いかも知れない…。
さらに口調は敬語だから(ごく一部の人には違うのだけど)さらに拍車がかかって…あぁ、もう仕方ないよね状態。
好きな物は、魚と静かな場所。
嫌いな物は、トマトとうるさい場所。
そう、僕ってうるさいのが嫌いなんだよね、本当に。
だから…誰か王道転校生君(コレ)をどうにかしてくれないだろうか…。
「おい、椿っ!!俺が呼んでるのにどこ行くんだよっ」
「……とりあえず君がいない所ですよ、転校生君」
あーもぅ、悔しい。本当に悔しい。また転校生君から逃げられなかった。
黒いモジャモジャの汚い毛玉に掴まれた自分の腕を見て、僕は思わずため息をつく。
っていうか毎回毎回どこから湧いてくるんだよ。
さっき見た時には教室にいなかった筈なのに。
こっちは見つからない様に確認してから教室を出ているのに…っていう掴まれてる腕が痛いんですけど、せっかくこの前つけられた痣が消え始めたんだから、やめてくれよ……あぁ、もう、最悪。
「ちょっと転校生君。腕痛いからはなっ…」
「転校生君ってなんだよっ、俺の名前は光
(ひかる)っていうんだっていってるだろっ!友達の名前はちゃんと呼ばないといけないんだぞっ!人として常識なんだからなっ!!」
「……はぁ」
…友達って、まず僕は転校生君と友達になった覚えなんて全くないし。
っていうか常識ってあんたが一番なって無いだろっ!!
なんていうツッコミ所満載のセリフだが、言えばこの毛玉は先程の倍以上のうるささで言葉を返してくるだろう。
すると凄くめんどくさい。
ならここは立ち去るのが一番の得策である。けど、
(……離れない)
転校生君の腕の力が強過ぎて、全然離れないのだ。
っていうか僕が離れようとしたのに気付いてさらに力を強めてくるし……ちょっと、痛いんですけど…。
「…転校生君、僕はこれから部活に行かないといけないです。だから手をはなっ…」
「一昨日も昨日もそういったじゃないか!だからたまには一緒にいてくれたっていいだろ?俺達友達なんだから!!」
でたよ、友達。
何度も言うけど僕は友達になった覚えなんて全くないですけどね。
っていうか、僕の言葉を途中で遮らないでほしいんですけど。
「それに椿だって本当は俺と一緒にいたいだろ?なら部活なんて休んで俺の部屋へ行こうぜ?」
2人でゲームしようなんて、笑みを浮かべ(いや、本当は髪の毛で口元しか見えてないから、よく分からないけど。多分そう)、僕に同意を求めてくる。
嬉しいだろ?ってこっちとしては寧ろ逆である。
全然これぽっちも一緒にいたくないし、嬉しくもないし、というか関わらないで下さい状態なんですけど。
でも転校生君には真正面から言っても全然聞いてくれないのは経験済みである。
「おい、椿っ、俺の話聞いてるのかっ!!」
「…聞いてますよ」
うんざりとしてるせいか投げやりに答えると、転校生君は口を尖らせて再び言い始めた。
あーもう…本当にうるさい。
何故こんな状況なのか。
転校生君が転入して、同じクラスになって、見つかってしまったのが…僕の運の尽き。
自分なりに充実していた生活が転校生君のせいでどんどん壊れていく。
理由は分からないが僕を一目見て気に入った転校生君は、自分の周りには既に生徒会役員数名とイケメンな信者達がいるというのに何故か毎日毎日僕に構ってくる様になった。
それも朝から晩までといても過言ではないほど。
登校時も授業中も(たまにどっか行ってる時もあるが、席が隣だから話しかけてくるのだ)、休み時間も昼食も放課後も夕食も、さらにはプライベートな時間も。
そのせいで…恋人にも逢えない日が続いている(もうストレスもあっちの方も溜まる一方である)
ちなみに恋人の方も転校生君のせいで忙しい日々が続いてるらしい。
(真面目な人だから頑張り過ぎてないか心配なんだよなぁ…。)
僕自身、最初の方は転校生君に何度も言ったのだ。
『こういう事は止めて欲しい』って。
けど転校生君は僕が言う事を聞いてくれず、自分の言いたい事ばかり言っては僕の手を掴み何処かへ連れて行く。
僕の状況を見かねた親衛隊と風紀委員の人達も何度か転校生君を止めようとしてくれたのだが、注意を受けた転校生君が僕に突っかかってきたのを見てからは、僕に危害が及ぶのを恐れ手を出しかねているし。
もうどうにすればいいのか、全く分からなくなってきている。
(っていうか、何で転校生君は僕が転校生君と過ごせて嬉しいと思うのだろうか?)
転校生君が他の信者達と話していた時は『俺と過ごせて嬉しいだろ?』なんて言葉(セリフ)一度も出なかったと思う。
もしかして、僕だけが誘いを断るから、転校生君は躍起(やっき)になって誘ってるとか?
だが生徒会役員や爽やか君等、各々に仕事や部活がある場合は転校生君の誘いを断る事もあった。
しかもその時の転校生君は『それなら仕方ないなっ!じゃあ、次は絶対だぞっ!!』なんて言って逆に渋る信者達を送り出していた。
(私と他の信者達とで対応が若干違う…?)
何故かその理由が知りたい…ようで知りたくないのだが…気になった事は知りたい性分なので、勇気をだして聞いてみる事にした。
(あぁ、でも聞かない方がいい気がする…。)
「あの…」
「なんだ、椿っ!!」
「転校生く…」
「光っていってるだろっ!!」
「…光君は、僕の事どう思ってるですか?」
話が進まないので仕方なしに転校生君の名前を呼んであげると機嫌をよくした転校生が嬉しそうに僕に言ってくる。
まぁ、きっと友達だろって言うと思うのですが……言うと思ったのですが…
「今は友達だろっ?」
「………………?」
ん?なんかちょっと変な言い方。
今はって言った?
「えっと…?今は、ですか?」
「今は友達だろ?で、もう少ししたら恋人だなっ!!」
――…はっ!?
「…こい、びと…ですか…?」
「おうっ!椿は恥ずかしがり屋だから、いきなり付き合うとかきっと驚くだろ?だから今は友達!!俺は別に今から恋人でもいいんだけどなっ?」
椿の為にと意味不明な事を強調してくる転校生に、僕も、話を聞いていた周りの人達も驚いて声を失った。
いまこの生き物なんて言った?恋人?僕が毛玉と恋人!?
こんな毛玉より僕には勿体無い程カッコいい恋人がいるっていうのに?わざわざ僕はこの毛玉と恋人になれって?
(絶対無理に決まってる!!)
そんな事地球が無くなろうとも、毛玉と恋人同士にならないと死んじゃうって言われても、なる気は全くない。
っていうか、毛玉と恋人になりたいなんて言う奴なんているのだろ……あぁ、信者達はいうか。
私と違って大喜び!!なら是非そっちで付き合ってもらいたい。
(あっ!もしかして…僕に恋人がいる事を知らないのだろうか?)
ならそんな変な事言っても仕方ないかも知れない。
(いや、本来なら勝手に言ってる時点でおかしいのだが…)
…とりあえず言ってみる価値はあるかな?
「あの、光君?」
「なんだ、椿?」
「光君は知らないかも知れませんが僕…既に恋人がいるんです。だから光君とお付き合いする事は出来ません」
要はお友達スタートで最後は恋人同士に!という転校生君の計画だが、既に恋人がいる僕には無理な話だ。
つまり、正直に話せば転校生君も諦める以外道はない筈!
「えっ、恋人っ…!?」
よしっ、ダメージを受けてる!もうひと押しだな。
「光君の気持ちは嬉しいです。けれど、僕には誰よりも愛してる恋人がいるんです。彼は僕に過ぎた人で、そして嬉しい事に彼も僕を愛してくれています。だから…光君とはお付き合いする事は出来ません」
済みません、という言葉通りの表情を作り、僕は素直に謝る。
転校生君は僕の言葉に大分ショックを受けたようだ。
(ポケ○モンでいうと効果抜群だっーーっていうやつ)
転校生君は「えっ!?」、とか「そんなっ」とか呟きながら、おろおろと視線を彷徨わせている。
(これで分かってくれたかな?)
転校生君の今の様子を見ればやっと僕の話が伝わったみたいだし、これで転校生君の興味も僕から離れてくれるだろう。
けど、転校生君には悪いなぁと思う。(今までの迷惑も考えると、少しだけだが…)
勿論、僕は転校生君の事は苦手で出来れば関わりたくないし、付き合いたいとも思わない。
でも沢山の人がいる学園で転校生君は僕を好きになってくれた。
その事に対しては、僕は感謝している(…と、思う)
ちなみにこれは転校生に限ってという訳ではなくて、僕に好意を持ってくれる人全員に対して思う事。
『好き』という素敵な感情を、一時でも僕にくれる。
なんて僕は幸せ者なのだろう。
だから、転校生君にも出来るなら僕は感謝の気持ちを伝えたいと思ってしまう。
勿論同じ大きさを返す事は出来ないけど、それでも感謝の言葉を伝えたいんだ。
「あのね、光君。僕はね…」
「分かったぞ、椿っ!!」
「光君…?」
感謝の言葉を伝えようとした瞬間、転校生君が僕の言葉を遮った。
いきなりの行動に驚く僕を他所に、先程の落ち込み様は何処行ったのだと言いたくなる程の笑顔で転校生君はにこっと笑うと、嬉々としながら大声で僕に告げた。
「椿はそいつに脅されてるんだろっ!!」
「………え?」
(いま、何て言った――?)
先程の比とは比べ物にもならない程のおかしな事をいう転校生君に、またしても僕だけではなく、周りの人達も驚いて転校生君を凝視してしまう。
けれど転校生君は沢山の視線が気にならないのかにこにこと嬉しそうに笑っている。
「えっと、光君、なにを…」
「椿はそいつに脅されて仕方なく付き合ってるんだろ?ほんとは俺のこと好きなのに、でも俺に迷惑はかけたくないから俺に付き合えないっていうんだろ?だけど大丈夫だぞっ!!俺が椿を守ってやるから、だから早くそいつと別れて俺と一緒になろう!!」
「違うよ、光君っ!!僕は脅されてなんか無い。僕も彼もお互い愛し合ってるんだよ、だから…」
「もういいよ椿。俺分かったから!!」
転校生君は僕の両手を掴むと、ゆっくりと顔を近づけて僕の顔を覗き込んだ。
その時、いつもは髪の毛で覆われている転校生君の日本人離れした緑の瞳が、僕と目線をあわせてきた。
その瞳と目線があった瞬間、思わず体に震えが走ったのは気のせいではないと思う。
「あっ……」
恐怖
この感情が僕を支配し、本当は逃げ出したいというのに転校生君を見たまま動けなくなる僕の身体。
「椿」
転校生君が僕の名を囁いた瞬間、何故か全ての音が遮断された、聞こえるのはただ転校生君の声だけ。
「大丈夫だぞ、椿っ!」
震えだす僕の体を抱きしめる様に僕の体に腕を伸ばした転校生君は、にこっと笑う。
まるで子供の様に、無邪気に。
「俺、椿のこと愛してるからなっ!!」
「…や、ぁっ…」
助けてーーーーーっ!
「椿っ!!!」
(あっ……)
心に沁(し)みる温かい声、聞き慣れたその愛しい声に振り向けば、逢いたくて止まなかった僕の恋人が息を弾ませ、心配そうな表情で僕を見ていた。
「諄(あつし)……」
無意識のうちに、けど存在を確かめる様に彼の名を呼ぶ。
するとそれに応えるように彼は、僕を安心させるように微笑んだ。
「もう大丈夫だからな」
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