アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Episode74
-
…沈黙が流れた。
恐怖感と、震えと、嫌な思い出が止まらない。
そして、お母様との、幸せな思い出も。
それらは走馬灯の様に走り去り、僕の中を虚無で満たしていく。
抱きしめてくれているのが、お母様だという錯覚までした。
溢れる思い出を止めようとすればする程、嫌な思い出が邪魔をする。
誰でも良いから、縋りたくて堪らなかった。
『時雨、信頼は目に見えないわ。』
その時、ふっと思い出した記憶。
信頼や愛情が目に見えない事を教えてくれたのは、お母様だった。
『愛情や真実もそう。
目に見えないから、きっと皆それを求めるの。
欠如した部分を補いたがるのが、人間だから。』
涙が、溢れた。
『でもね、時雨。
目に見えないからと言って、目を瞑っては駄目よ。
見えないからこそ、目を凝らすの。』
それが、櫻井の白衣に染みるのさえ忘れて。
『目を凝らした時、初めてそれは見える。』
僕は、目の前の白衣をぎゅっと掴んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
77 / 143