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#70
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優が停学になった。
俺はショックで仕方なかった。
教室のほぼ全員が、担任のその言葉を聞いて驚きの声を上げていた。
だが、俺はそんな驚きの声すらも出なかった。
前の席の明良が心配そうに俺の顔を覗いた。
明良は何も言わなかったものの、何が言いたいのか痛いくらいに伝わりすぎていて、余計に苦しくなった。
…俺のせいか…。
俺のことを庇ったりしたから…。
昨日、光の投げた机が当たった右肩が、今まで以上に強く痛み出した気がした。
…俺…、どうすればいいんだよ……。
その日のそのあとのことは、全くと言っていいほど覚えていなかった。
今日何の授業があって、自分が誰と何を話したのかも覚えていなかった。
「……タケ、本当に大丈夫か?…今日、ずっと顔色悪いし…。」
気付いたら、明良が隣にいた。
ただそれだけ。
時計を見ると、もう夕方の5時半を過ぎていた。
本当なら明良は部活に行かなくてはいけない。でも、明良はずっと俺の隣にいてくれた。
……でも、俺にはそれが痛かった。
「…明良ぁ………、ごめんなぁ…。」
「……謝るなよ…。…俺は、お前ほど傷ついてないから…。」
「…ありがとう。……でも、俺は明良にそんなに優しくしてもらえるような人間じゃない……。」
俺は、優のことも光のことも傷つけた。
体には表れない、心に傷をつけた。
こんな俺になんて、優しくする必要ない。
優しくしてもらえる資格なんてない。
むしろ、俺のことを咎めてほしい。
怒鳴ってほしい。殴ってほしい。問い詰めてほしい。
……"お前は、これからどうしたいんだ"って…。
「━━━━━━…俺は、優にも光にも、幸せになってほしいんだ………。」
涙が頬を伝った。
………そうだよ。
……俺はずっと、それを願ってきた。
今まで痛すぎるくらい、傷痕が消えないくらい傷ついてきたあの2人を、今度はちゃんと幸せになってもらいたいんだ。
………どっちかにじゃない。
……………2人とも、両方に………。
「…じゃあ、タケがしてあげるしかないじゃん。」
「……俺になんてムリだよ。俺はもう、2人を傷つけたんだから。」
「………でも、俺にもムリだ。」
明良がはっきりと告げた。
そして、床をぼんやり見つめていた俺の顔を無理矢理持ち上げ、自分の目と目を合わせさせた。
「…………タケ、お前が逃げてどうすんだよ。……お前は、きっと誰よりもあの2人を助けてやりたいと思っている。助けられるはずだ。…それなのに、お前が逃げたら何も始まらないだろ!」
「で、でも…、俺…、何もしてやれない…。」
「まだ何もしてないだろ!」
「……………………でも、…でも……!」
「……タケ!…お前は、あの2人が好きなんだろッッ!?」
━━━━━……ぁ……。
「好きなんだろ!?誰よりも‼なら、大事な奴が苦しんでるの見たら、助けてやれよ!」
………そうだよな、そうだよな……。
「失敗してもいい。…だから、まずはちゃんとゴール見つけて、それに向かうしかないだろ!」
………好きだから。
…好きだから、傷つけてしまう。
…好きだから、空回りをしてしまう。
……でも、好きだから助けてあげたいと思える。
助けたいと思える勇気が出る。
俺は明良にしがみつきながら溜まっていた不安と悲しみと怒りを全て涙に代えて吐き出した。
その間も、明良はずっと俺の背中を優しく擦ってくれていた。
そのおかげで、泣き終わった頃には、胸がスッと軽くなった気がした。
帰り道。俺は明良に純粋に感謝の気持ちしか抱いていなかった。
「………ありがとうな、明良…。………俺、お前のおかげで頑張れるよ。」
「いいって。…だからさ。」
「ん?」
「絶対に優と光のこと、幸せにしてやれよ。」
「…まかせとけ!」
……俺は誓う。
………絶対に優と光を幸せにする、と。
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