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#80 喪失
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「……………じゃあ、お前たちは、……誰…?」
「……………は、…ぁ……?」
簡単な単語が途切れて口から出た。
優のその言葉を聞いた途端、俺の心臓の鼓動が一気に早くなり、体中に響いた。
頭の芯まで鼓動が鳴り響いていて、その音が余計に俺を焦りへ誘う。
「…な、何冗談言ってるんだよ~。寝ぼけてんのかぁ?」
明良が一瞬戸惑った声色をさせたが、すぐにそれは冗談だろうと、俺の代わりに言ってくれた。
俺もそれに便乗するように、優が言ったことを否定する。
「…そ、……そうだよ!お前が俺たちのことがわからないなんて、あるわけないってこと知ってるんだぞ!」
俺は笑い飛ばしたつもりだった。
だが俺のこの言葉が、優に俺たちの期待を裏切る言葉を言わせる引き金となってしまった。
優は両手で座っているベッドの布団を強く掴み、曇っている表情を歪めなから言った。
「……………わからない………。………何も思い出せない……。」
━━━━━━━━ 嘘、だろ…?
「……ゆ、ぅ…。」
俺はその場にぺたりと座り込んだしまった。
座り込んだと言うよりも、体の全ての力が抜けて立っていられなくなったというほうが正しい。
「…た、タケ…!」
明良が俺の腕を掴んで体を支えようとしてくれたが、俺はそんな支えがあっても、もう立つ気力がなかった。
「………な、なぁ、優…?嘘言ってるんだろ?俺たちのこと…、騙そうとしてんだろ…?……は、はは、冗談キツいって。…タケ、お前のことめっちゃ心配してたんだぞ!?そんなこと言うなって!」
戸惑った口調から、だんだん震える声になっていき、最後には怒鳴り声になってしまっていた明良。
「………冗談なんかじゃ、ない…。………本当に、何もわからないんだ…。」
「ふ、ふざけんなよ!…お前、どうしちゃったんだよ…、何でそんなこと言うんだよ…。タケは、お前が好きだった相手だろ!?忘れてんじゃねぇよ!そんな顔してねぇで、早く笑ってタケのこと安心させてやれよッ!」
その明良の言葉が、俺の頭には文字になって残り続けた。
……″嘘″…。
…″騙す″……。
……″冗談″…。
……″心配″…。
……″何で″……。
……″好き″…………。
……″忘れんな″…。
…………″笑って″……。
そして、ある結論に至る。
━━━━━━━━━━…こいつは、優でも光でもない……。
………じゃあ、これは誰………?
「…武博君ッッ!?」
突然病室の扉が開き、俺がさっきまで返事を待っていた相手が俺の名前を呼んだ。
俺は静かに振り返る。
そこには、色を悪くさせ驚いた表情をしている香織さんが立っていた。
………まるで、あのときのような。
……俺が初めて光のことを香織さんから聞いたときに、香織さんが自分の言葉を誤ってしまったことに気付いて焦っていたときの表情に、よく似ていた。
上手く定まらない焦点を少しずつ香織さんに合わせる。
やっとピントが合ったと思ったら、じわじわと瞼が熱くなってくる。
「………か、おりさ…。」
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