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#91
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次の日以来、俺と明良はほぼ毎日優と会っていた。
俺たちは他の学校よりも少し早めに終業式があって、もう既に冬休みに突入していた。
優も3日ほどは体調を安静にしておくということで、その間だけ入院をしている。
とは言っても、ほとんど入院していないのと同じように暮らせる。
ただ違うのは、1日のうち何回か看護師さんが病室にやってきて、体の具合について聞かれるというだけだった。
それ以外は何の制限もない。
点滴をしたり、薬を飲むということもしない。
俺と明良は、優を連れて広い病院内でたくさん話をしていた。
俺は、相変わらずこの優の雰囲気に慣れず、あの2人と違いすぎることを変に意識してしまって言葉に詰まることがあったが、それでもこの新しい優と一緒に楽しくやれていた。
そして、優の3日間の入院が終わり、優は再びあの家へ帰ることになる。
主治医の先生とお世話になった看護師さんたちが、病院のエントランスまで見送りに来てくれていた。
俺と明良も、少し離れたところで優のことを見守っていた。
「優君、くれぐれも無理はしないように。…いいですね?」
「はい。」
「…少しでも何かありましたら、連絡してください。」
「わかりました。」
優は主治医の先生に、何度も注意事項を言われていた。
よく言えば、先生が優のことを心配してくれている、と捉えられる。
でも逆に悪く考えれば、″記憶が戻ると、優の体や精神状態が予測出来なくて心配だ″と言っているようにも聞こえた。
そう聞こえるからこそ、俺は自分の言動の1つ1つが大切なのだと思い知らされた。
その日は久しぶりに…、というか記憶をなくした優は初めて自分の家へ帰ったため、俺と明良はそれ以上は干渉せず、優たち3人家族の時間を優先させた。
次の日、俺たち3人は学校へ向かった。
これは優の希望だった。
少しずつ以前まで持っていた優の記憶を取り戻すためにとは言ったものの、優は自分が通っていた学校が見たいと言って聞かなかった。
優は慣れない制服に腕を通し制服を着た。
俺と明良はそんな優を微笑ましく思いながら、共に学校へ向かった。
その道中、優は楽しそうに昨日の夜の話をしてくれていた。
「…でな、昨日は夕飯がめっちゃ豪華だったんだ!母さんが奮発してくれたのか、寿司と鍋でさ!」
「寿司と鍋ぇ!?スゴいな!すぐ腹一杯になりそう…。」
「そー!俺も見たときはこんなの食べきれねぇって思ったんだけど、姉ちゃんが意外と食べる人でさ!」
…チクン…。
「え、香織さんが!?」
「うん!鍋の半分以上は姉ちゃんが食べたし、寿司も全然余裕に食べてた!思わず笑っちゃったよ!」
楽しそうに語る。
俺たちもそれが嬉しくて、そして純粋に3人でまた会話出来ることが楽しくて、学校までの道をずっと笑っていた。
…でも、俺は少しだけ胸が痛んだ。
優は今、香織さんのことを″姉ちゃん″と言っていた。
そして、俺は以前の優と光の言葉を思い出した。
━━ 『″姉貴!!″…武博に変なこと吹き込んでないだろうな。』
……気にしてはいけない。
記憶がないのだから当たり前だと知っていても、以前までの優と今の優を比べてしまい、何とも言えないもどかしい気持ちになってしまう。
………ダメだ、そんなの!
俺はブンブンと頭を振って考えをなくした。
そして、再び隣で楽しそうに話している明良と優の会話に参加した。
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