アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
#97
-
俺は優から離れず、そのままの姿勢で明良と会話をした。
「…で、何があってそうなった?」
「……優が、文化祭のこと、覚えてるって…。」
「え、マジかよ!?」
俺の思った通り、明良も最初は驚いた顔をしたが、その後すぐに嬉しそうな顔をして優に近よった。
でも優は、せっかく大きな第一歩を踏み出せたというのに、自分でその可能性を否定するようなことを言った。
「あ、いや…、覚えてるってワケじゃないよ!………ただ、少しだけ懐かしい気がして……。」
「それでも、懐かしいって思うのはそのときの光景が頭の中にあるってことだろ?はっきり覚えてなくても、ほんの少し覚えてるってことだよ。」
「う、う…ん…。」
優は何だか恥ずかしいようなもどかしいような顔をしていた。
「で、でも本当に、ちゃんとしっかり覚えてるってのじゃなくて、何となくなんだよ!?…2人が期待してるような、はっきりしたのじゃないんだよ…?」
悲しそうに顔を俯かせながら言う優。
俺はしがみついて優の体に回していた腕の力を緩め、優の体から離した。
そしてその手で、そっと優の頭を撫でた。
「……大丈夫だよ、心配すんな。…ごめんな、俺たちが変に騒いじまって。」
フルフルと頭を振る優。
でも、それだけであまり言葉を発しなくなってしまった。
自分の言った軽はずみな言葉で、俺たちが期待をしすぎてしまったと思ったのだろう。
確かに、優が言ったのは″文化祭のときの記憶を完全に思い出した″という意味ではなかった。
それでも、俺にとっては大きな希望だった。
完全に思い出していなくても、その記憶が大きく膨らんでいくと思える。
そして、その記憶が懐かしいと思えるのは、文化祭のときのあいつがそのときのことを強く脳裏に刻みつけてくれていたからじゃないかと思う。
あいつは、文化祭のときの記憶をとても大切に仕舞っていてくれたんだ。
そう解釈出来る。
その後、優は少し黙り込んでしまったが、明良が持ってきたゲームを3人ですると、大盛り上がりで優の悲しそうな表情はどこかへ飛んでいってしまった。
そして夕方、俺と優は明良の家を出た。
冬でしかも少し外れのほうにある明良の家からは、帰り道にかなり時間が掛かってしまうということもあるとことで、少し早めに出たのだが、今日の天気はとてもよく、空には星が見えていた。
俺は優と並びながら家への帰路を歩いた。
「…………なぁ、武博…。」
「んー?」
マフラーで顔の半分近くを隠している優が俺に聞いてきた。
「……武博は、いつのときの記憶を早く取り戻してほしい…?」
どんな顔をしながら言うんだ、と思い隣を歩く優を見た。
でも優はいたって普通の表情で星を眺めるように少し上を見上げていた。
その様子からは、優が俺のどんな返事を期待しているのか全くわからなかった。
独り言を呟いたかのようにも聞こえたくらいだ。
それでも、さっきまでの子供のような表情ではなく、本当の高校生のような大人な表情だった。
俺は何も言えなかった。
「……いいよ?…正直な気持ちで。俺は別に意味があって言ったワケじゃないから。」
話す度に白い息が俺と優の間を流れた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 162