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一年~オリジナル
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通勤のバスで出会ったの
すっきりした好青年
きれいに髪、刈り込んで
スーツもシャツもパリッとして
あなたの時間に合わせるように乗って
あなたがバスで読んでた本、
わたしも買って
難しくて、三行で寝ちゃったけど
これがあなたの好きな作家さんなんだなあって
吊り皮もつ手が大きくてきれい
でもそれだけじゃない
その手はお年寄り支えたり
忘れものですよって伸ばしたり
ベビーカーをおさえてあげたり
いろいろしてきた…
わたしに傘さしかけてくれたのもその手
どうせ同じバス待ってるんですからって
白い歯みせてわらってくれた
あれから一年
わたしはあなたのものとなり
あなたと一つ屋根の下
いってらっしゃいと送り出す立場になった
やきもきする
わたしを置いて出てゆくあなたはあのバスの中
きょうも優しいそのキャラで
みんなを和ませてるに違いないから
女子高生が囁き交わしてた
あの人すてきよね
優しいし
紳士だし
OLさんは企んでたわ
忘れものしてあの人に気づいてもらおう
お礼にってお茶のんで
それから………
あなたが出勤し帰宅する
たったそれだけのことがこんなにも
切ないなんて耐えられない
そうなの
わたしもう耐えられないの……
驟雨
急いでベランダへ出
洗濯物を取り込む
少し濡れてしまった
でも
夕方までには乾くわ
一年記念日のケーキの上に
洗濯物がはためくなんていやだもの
ああ…
早く帰ってこないかなあ…
いやだ
寝てしまった
七時すぎてる!
まだ帰って来ない
どこで
何してる?
あんなに優しいあなた
あんなに素敵なあなた
わたしなんかといて
幸せ?
ケーキ
冷蔵庫に戻し
ワイングラスも片づけた
もう帰らない気がするの
九時すぎたし
私は私の荷物を持って
最近は殆ど帰ってない
自分のアパートを鍵を探し始めている
楽しかった
それでいい
わたしはあなたと一年も居られた……
マンションのドアに鍵をかけ
ドアポストから中へ滑らせようとする寸前
「どこ行くの?」
柔らかい優しい声
いちばん聞きたくなかった声
振り向けずに言う
帰るの
一番ふさわしいところ
だってあなたはお坊っちゃまで
一流企業につとめてて
わたしは小さな玩具会社で事務
やってるだけの……
「こっち見て」
振り向かされたわたしの目にうつったのは
いつになくダサイずぶ濡れのあなた
いつも後ろになでつけてる、きれいなおぐしがザンバラで
コートもズボンもドロだらけ
「どうしたの!?」
やっとこっちを見てくれた
言いざまあなたはわたしを抱きしめた
数日後表彰状が届いた
老婦人のバッグひったくった若者追いかけて
追いついてバッグ取り戻したはよかったけど
体当たりくらって逃げられた
もんどり打って倒れた拍子に不運にも
スマホは全壊になり
若者つかまったのでケイサツ同行したらめちゃめちゃ手間どった…
あなたの説明通りでした
そして今
わたしの指にはきらきらの
エンゲージリングが輝いてる
秋には姓
変わります
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