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春の怒り
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・・・同時刻、屋敷内の別の部屋にて。
「・・・ん?」
「どうかされましたか?」
「いや、何か変な感じがして・・・あぁ、もしかしたらイチが春を怒らせたのかもしれない」
虫の知らせと言うものだろうか、双子としての特別な何かを感じさせる。
だが三番が気になったのはそこではなく、自身の嫌な記憶だった。
「それは・・・様子を見て来た方がよろしいでしょうか?」
「いや良いよ、春を怒らせたイチが悪いし、それにイチに春もご主人様なんだって分からせる良い機会。前に二人で犯した時は結局僕も手を出しちゃったしね」
「左様でございますか・・・かしこまりました。生姜湯でもお作りしましょうか?」
「あ、うん。飲みたい」
「少々お待ちくださいませ」
部屋に隣接された給湯室で生姜湯の為の湯を沸かしながら、三番は春についての思考を巡らせていた。
十年以上側で仕えていた三番でさえも、春が怒ったところを見たのは両手で数えて事足りる程度である。
但し春の場合怒ったと言うよりも、何かのスイッチが入る。或は人格が変わると言った方が良いのかもしれない。
春が情緒を大きく乱す原因は主となるものがいくつかあるが、とりわけ樹の事に関しては特に敏感なようで、過去に見た春の怒りの九割方はそこに起因する。
と言っても、屋敷の中には事実上双子と自分の存在しか表には出てこないので、怒らせるとすればどちらかなのだが、三番はあまり意見を言うことは無いので、怒らせるのはもっぱら樹である。
樹が春を怒らせる理由の最たるものとしては、『冷たくされたから』だろう。
なのでその後樹が春の事を構い倒して機嫌を取ると言うのが、春が怒った時の常であるが、一度だけ、三番自身がが春を怒らせたことが有る。
その日は朝から調子が悪く、おまけに外の天気が悪かったので三番は耳がよく利かなかった。
朝食を取っていた二人の傍らで熱に浮かされてらしくもなくぼんやりとしていると、部屋の中に春の鋭い声が響く。
「三番っ、樹が何回も呼んでるのに何で無視するのっ」
その声に我に返った三番は深く何度も謝罪し、樹もすぐに三番の体調を気に掛けたが春は許さなかった。
春は見た事の無い表情で頭を垂れた三番を冷たく見下ろすと、いきなり持っていた朝食用のナイフを肩に突き刺したのだ。
流石にまずいと思ったのか樹が春をいさめようとすると、途端に樹に対して柔らかい表情を見せる。
だが、その表情で告げられた言葉は三番を凍りつかせた。
「樹も、刺してよ」
樹は春を刺激しないようにやんわりとそれを拒み、落ち着くように説得した。
しかしその後も春の怒りは収まらず、結局三番はナイフを肩に刺したまま地下にある部屋で冷水につかり、春が良いと言うまで樹の名前を呼び続けることを強要された。
真夜中に春の目をしのんで樹が三番を助けに来た時には、冷水はすでに三番の血で温くなっており、その後緊急措置として呼んだ医師からは危ないところだったと説明を受けた。
目の前の熱湯が沸騰する前に火を消す。
「どうか・・・ご無事で」
三番は目を閉じて呟いた。
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