アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
食べ放題・飲み放題で有名な、賑やかな屋内ビヤホールの中で、テーブル席の片隅にぽつんと座ったままっつー男は、何となくだけど目立ってた。
仕事帰りのリーマンかな? 週末の晩だっつーのにスーツ着てて、1人でぼうっと座ってる。
なんでよりにもよってこんな店で1人? ぼうっと飲みてぇなら、もっと落ち着けるとこがあるだろうに。そう思って見ると、テーブルの上にはジョッキが2つ置かれてた。
1つは飲んだ形跡がねぇけど……じゃあ、誰かと待ち合わせしてんのか? それとも相手がトイレ行ったまま、帰って来ねーのか?
けど、ビールなんて注いだ瞬間が1番美味ぇんだし、ジョッキのまま放置しとくのは不自然だ。トイレ行って見たけど、全部開いてたし。じゃあ、一体何なんだろう?
とにかく、何度ちら見してもそいつは1人で――それがスゲー気になった。
つっても、気になったのはそいつが目立ってたからでも、不思議な客だと思ったからでもねぇ。ドストライクだったからだ。
色白で細身の童顔、くせのねぇサラサラの髪、くっきり二重のデカい目、デカい口。筋張った白い手は顔に似合わずちょっとゴツくて、それがまた妙にエロかった。
こいつは「ネコ」だ、と、直感で分かった。
ネコ――つまり、男同士のセックスにおいて、受ける方。女役をする方だ。
オレはっつーとその逆で、男のケツにぶち込んであんあん善がらせんのが好きな、根っからのバリタチ。
オレみてーな性癖の人間からすると理解できねーけど、どうやら大抵のゲイっつーのは、屈強な男に組み敷かれ、抱かれんのを好むらしい。
だから一般論で言うと、タチはモテる。選り好みさえしなけりゃ、一晩の相手に困ることなんかねぇだろう。
けどやっぱ、オレにも好みってもんがあるし――その点、その男はマジ、ドンピシャだった。
一緒に来てた仲間たちと乾杯してる間も、気になって仕方ねぇ。
「何気にしてんだ? 美女でもいたか?」
横に座ってた同僚にも、そう言われた。
元々、そう気の進む飲み会じゃなかった。
来週から新しい部長が職場に来るっつーから、その前祝っつーか、今の同僚だけで飲んどこうっつーか。
「MBAか何か知らねーけど、会長の孫なんか現場で使えるかよ」
「年下で上司か、扱いにくいよなぁ」
「敵には回したくねーけど、媚びも売りたくねーよな」
そういう愚痴を延々聞かされるだけで、ハッキリ言ってうんざりだった。
前任の部長の送迎会は、昨日済ませたばかりだったし。同僚とのつまんねぇ飲み会と、滅多にお目にかかれねぇドストライクのネコとじゃ、ネコの方が重要だ。
適当な理由をつけて中座して、さっそくターゲットに接触を図る。
「1人? 隣、いいですか?」
ジョッキを2つ持って近寄り、声を掛けると、ぼうっとしてたそいつは弾けるように顔を上げた。
「ふぁっ、えっ、はいっ?」
あまりの驚きぶりに面食らったけど、まあ、いきなり声かけたのも悪かったし。
「いや、驚かせて悪ぃ。隣、空いてる?」
精一杯にこやかに言って、持ってきたジョッキの片方を差し出すと、そいつは曖昧にうなずいて、「どうぞ」か「どうも」か、ごにょごにょと言った。
遠慮なく隣に座り、好みの顔をじっと見る。
反応はちょっと予想外だったけど、強引に迫るとなし崩しにヤレそうで、それもイイ。
じっと見つめると、少しぼうっとしてたそいつも、さすがに視線に気付いたらしい。
「あの……なんです、か?」
じわじわと頬を赤らめながら、上目遣いでオレを見た。
「別に。乾杯」
ジョッキを掲げて差し出すと、同じようにジョッキを掲げてくれる。ゴツンと打ち合わせてぐっとあおると、そいつもつられたように呑んでくれた。
そいつは中村圭と名乗った。27歳、オレと同い年のリーマンで、転勤でこっちに来たばかりらしい。
思った通りツレはいなくて、1人だそうだ。じゃあ、そのもう1人分のジョッキは何なんだ……と思ったけど、まあ、立ち入ったこと訊いても仕方ねーし。
「へぇ、よかった。オレも1人なんだ、仲良くしよーぜ」
そう言って軽く肩を抱いてやると、案外嫌がらず、抵抗もしねぇ。もう片方の手で手を握っても、振り払われたりはしなかった。
脈ありと見れば、そっから一気に行くのがオレ流だ。
あんまりグイグイ行き過ぎるとドン引かれるから、常に逃げ道はちら見させてやりつつ、追い詰める。
「恋人は?」
オレの問いに、中村は緩く首を振った。
「別れたのか?」
期待を込めて訊くと、それはどうやら違うらしい。
「失恋したんだ」
自嘲気味にぽつりと告げられて、悪ぃけど、よっしゃぁと思う。
「恋人? 付き合ってたのか?」
その問いには、首を振られた。
「付き合うなんて、そんな……告白もできないまま、で」
「告白してねーのに、失恋?」
静かに鋭く訊いてやると、こくりとうなずいて黙り込む。
どういう事情があるかは知んねーけど、付き合ってねーなら更にイイ。手を握る指に、力が入る。
「じゃあ、オレが慰めてやろうか?」
耳元でこそりと囁き、じっと見つめて微笑んで見せると、白い顔がますます赤くなって、すげー可愛かった。
やっぱ色白はいーよな。
ウブな様子がたまんねぇ。
「なっ……」
そう言ったっきり、言葉に詰まってるターゲット。
「失恋の相手、男だろ?」
握った手はそのままに、肩を抱いてた手を背中から腰に滑らせると、中村はびくんと肩を揺らして――否定も拒絶もしなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 10