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微かな光明
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「翔太っ!!」
大和から別れ、気持ちを落ち着かせようと足早に歩く翔太を、悪魔の声が呼び止める。
「た、た………高梨…………」
やっと、喉から絞り出した声。
身体が、動かない。
「クス……………line見てくれてない?今日は、俺だけだよ」
既に授業が始まって、人気のない廊下。
高梨と言うチャラ男の一人は、資料室の前で、中庭から歩いて来る翔太を待ち受けていた。
「お…………俺だけって…………」
翔太が、何度も口にする『高梨』は、チャラ男三人組の中で、リーダー的な存在。
家が、日本舞踊の家元をしており、頭も良い。
先生達に取り入るのも上手く、自分の本性を決して覗かせない、達の悪いリーダー。
翔太は、高梨から逃げようと、身体を後ろに引いた。
「だーめ、逃がさない。翔太は、俺の『玩具』だろう?」
「高梨……………っ」
『玩具』………………その一言に、背筋が凍る。
後退りする翔太の手を掴み、高梨は翔太にキスをする。
「んっ……………ぃやだ………止めっ………」
「翔太の唇、柔らかい……………いくら女抱いても、気持ち良くないんだよね………………ねぇ、翔太…………気持ち良くしてよ」
高梨は、自分より少し小さい翔太を抱きしめ、耳元で囁く。
あまりの恐怖で、身体が動かない。
翔太は、ずっと高梨に弄ばれてきた。
中学の時から、可愛らしい顔の翔太に興味を持ち、ある日…………いきなり犯された。
その時撮った写メを餌に、翔太の地獄は始まったのだ。
「最近、神崎達とばかりいるからさぁー、翔太で遊べないんだもん……………マジ、つまんなかった。さすがに俺も、神崎達を敵にはしたくないからね~」
ベラベラと、自分の事を話ながら、高梨は翔太の耳を舐めて、再び唇を重ねる。
「はぁっ………たっ………高梨……………誰か、来るかもしれない……………からっ………お願い………」
いつの間にか、翔太は涙を流していた。
こんな懇願を、何度してきただろう。
一度だって、高梨は聞き入れてはくれなかった。
「誰も、来ねぇよ。ここは、ただでさえ人通りが少ないんだ………………翔太は、逃げられないって♪」
翔太の反応を面白がるように、高梨は薄ら笑いを浮かべ、翔太に何度もキスをする。
そしてそのまま、シャツを捲り上げ、身体を撫で回す。
「…………や……………っ」
「ね………今日は、何回ヤらしてくれんの?また、沢山写メ撮ってやるからさァ…………楽しもう?」
「たか………な……しっ」
逃げられない。
翔太は目をギュッと閉じ、身体を強ばらせた。
ガシッ………
「オイッ…………お前、ええ加減にせえよ!」
関西………弁……!?
「お前は……………っ!」
高梨の驚く声に、翔太は恐々と目を開ける。
「翔太、嫌がってんやろっ!!」
大和……………っ!!?
「……………な…………んで……」
何故だろう……………。
さっきまでの恐怖とは違う、何か別の涙が、翔太の目からボロボロと溢れ落ちていく。
そんな翔太を庇うように、大和は高梨の腕を握り、間に割って入っていた。
「何で?アホか!あんな死人みたいな顔して、何で?はおかしいやろ!知らん顔でもないのに、放っておけるかっ!こんな目合う位やったら、ちゃんと言えや!」
「………………大和……」
大和は、真剣に怒った。
今までの流れから見ても、翔太が何に苦しまされてきたか、一目でわかる。
どれ程の傷を背負ってきたか、一目でわかる。
でも、その痛みは翔太にしかわからない。
それを、一人で抱え込む翔太が、苛立たしかった。
「ったく、さっきから何だよ………転校生。お前、翔太の男?」
二人のやり取りを見ていた高梨は、大和の手を振り払い、うっとうしそうに大和へ訊ねた。
「は?男?冗談やろ…………何で俺が、この生意気野郎の男やねん。俺にも選ぶ権利あるわ」
「わ、悪かったな!生意気野郎で!てか、男の『男』って言われてる時点で否定しろよっ。否定するところ違うだろ!」
高梨の質問に真面目に答える大和を見上げ、翔太は目を真っ赤にしながらもツッコミを入れる。
「いや、それがそうとも言えへん諸事情があんねん」
「諸事情?諸事情って……………ハッ!まさか、お前………………」
意味ありげな大和の話に、翔太は顔色を変えて絶句した。
ぎゃーっ!!!…………この状況下で、翔太の心は絶叫マシーン並に絶叫させられる。
「コホン…………まあ、それはまたにしてやな……………問題は今やろ?なあ…………高梨……………とか言う奴」
「…………何だよ………」
大和はそう言うと、高梨を睨み付けた。
「お前、写メ撮るとか言うてたな?今までのも、あんねや?………………出せ、スマホ。俺が、全部消すさかい」
「大和……………っ」
高梨の前に手を差し出し、スマホを出させようとする大和に、翔太は焦って大和の背中を掴む。
大和に、自分の過去が見られる怖さ…………。
大和に、助けられようとしている緊張感……………。
翔太の心が、複雑に入り乱れる。
「何言ってんの?プライバシーだよね?出すわけないだろ」
「プライバシー?翔太をいたぶる事がか?……………素人が、ナメた真似すな」
あくまで、大和達を見下したような物言いをする高梨の態度が、大和の中に一瞬別人の顔を覗かせる。
「素人…………?」
高梨は、妙な事を言う大和に、顔をしかめた。
それは、翔太も同じだった。
思えば、最初から大和は不思議な部分が多い。
自分達にない、何か独特の空気を持っている。
それが何かは、わからない………………多分、颯は知っているのだろうけど……………。
「俺を、本気で怒らすなや。言うとくけど………俺には、お前の家柄や学校での立場も、何も通用せえへんで。出さへんのなら、力づくでも出させるのみや」
「お、脅しか…………」
若干ドスの効いた、低い声。
少しずつ変わっていく大和の様子に、さすがの高梨もたじろき始める。
「脅し?お前が翔太にしてんのは、脅し違うんか?」
「……………っ………」
大和は高梨に近付き、高梨のしているネクタイを軽く引っ張った。
「ホンマの脅しがどないなもんか、教えたろうか?ぬるい世界で育ったボンボンが、小さい縄張りで威張ってんちゃうぞ。俺がマジギレする前に、さっさと出せ言うんがわからんのか…………っ」
「大和……………お前…………」
一体、何者………………。
翔太は、徐々に迫力を増していく大和の姿から、目が離せなかった。
恐い…………の、レベルが違う。
「わ、わかった……………だ、出すよっ……出すって!」
制服のポケットを探り、高梨はやや慌て気味にスマホを取り出す。
「ロック外せ。……………他にデータ残してへんやろな?残しとんのわかったら、今度こそシメんぞ。………………チッ、ろくな写メ撮ってへんな」
手慣れた手付きで高梨のスマホを触りながら、大和は写メの内容に顔を険しくさせる。
その姿に、翔太は俯いて言葉を失う。
大和に、全て見られた。
助けられても、辛すぎる…………。
全部、バレたのだ。
どんな顔して、会えばいい…………?
「ほら、スマホ返すわ。………………ええか、これからは二度と翔太に近付くな。お前が付けた傷、こいつの中でどうにもならん位に、こびり付いてんねん。お前の顔見ただけで、震えが止まらんのがええ証拠や。これ以上、こいつを傷付けんな」
「……………大和…………」
スマホを高梨に渡しながら、冷静な口調で話す大和が、翔太には別人に思えた。
見た目だけじゃない。
自分達の知らない大和は、想像以上に大きい。
「翔太の代わり見付けても、一緒やからな。ボンボンはボンボンらしゅう生きていけや。人の痛みのわからん奴が、人を傷付けて遊ぶな。それが出来ひんなら、俺が、お前にホンマの痛み思い知らせたるわ……………地獄から、這い上がれへんぞ」
ゾクッとした。
大和の世界は、どこにある?
翔太も高梨も、何も言えなかった。
高梨は、黙ってスマホを受け取ると、逃げるように走って行った。
「や…………大和………あ、あの………その……………」
「……………颯らは、知っとんのか?」
現場も写メも、全て大和に見られ、二人きりになった廊下で、気まずそうに口を開く翔太に、大和が質問を被せる。
「え?あ…………ん…………。あ、相手は…………知らないけど、知ってる…………ウチはエスカレーター式だろ?だから高校上がって直ぐに、いつものように高梨達に男子更衣室へ呼び出された時、あいつらが帰った後、颯が忘れ物を取りに来たんだ。…………驚いてたよ。そりゃそうだよね?いきなり、男子生徒が乱れた制服を握り締めて、身体中に体液浴びて、声殺して泣いてるんだもん………………引くよね………」
「…………翔太…………」
「でも、颯は逃げなかった。俺に近付いて、自分のジャケットを羽織らせてくれた。そして、言ってくれたんだ……………」
『俺の、友達にならないか?こんな俺でも、一緒にいたら…………何か力になれるかもしれない…………』
「嬉しかった……………颯の存在は、学校中で有名だったから、嬉し過ぎて……………気付いたら、颯の胸で大泣きしてた。それから、颯は淳に俺を紹介してくれて、俺がもう怖い思いをしないよう、どちらかが側にいるようにしてくれた………………」
翔太は潤んだ目で、颯との大切な思い出を語った。
出会い方は最低だったけど、最高の思い出だった。
「…………颯が……………」
翔太の話に、大和は胸を熱くした。
自分が好きになった相手は、間違いではなかったと……………。
自分が心から、尊敬出来る人であったと……………。
颯を、好きになって…………本当に幸せだと……………。
熱くなる胸に、何度も颯の姿を重ねた。
「良かったな……………お前には、ちゃんと支えてくれる仲間がおんねや。何も、怖がる事ないやん」
「大和……………」
「俺も、最近になってやっと、人の痛みがわかるようになった。人の大切さがわかった。さっきは高梨に偉そうな事言うたけど、ホンマは言える立場やあらへん。………………贅沢やな、人を大切に出来るって」
大和は笑顔でそう言うと、翔太の頭をポンッと軽く撫でた。
「俺、そろそろ行くわ。クラスのお…………お?ナントカに、全部投げて来たさかい、礼言わな」
「や、大和…………っ!」
長い腕を上に伸ばし、何もなかったように戻ろうとする大和を、翔太は慌てて呼ぶ。
自分だって、お礼も何も言えていない。
ずっと大和に、嫌な態度ばかりしてきた。
「ん?…………写メやったら気にすんなや?俺の記憶力は、ビビる位ないんや。もう忘れた」
「………………っ……」
大和、ちゃんと気付いてたんだ…………俺が、見られた事気にしてたの………………。
翔太は、ますます大和と言う人間に興味を持った。
今ならわかる……………颯が、気に入ったワケが…………。
「そ、そうじゃなくて…………だから………あ、ありがとう!!本当に、本当に凄く救われた!!大和がいてくれて、めちゃめちゃ救われた!!」
顔を赤くして、翔太は気持ちを伝えた。
「なんや?明日、雨か?……………らしくないで。お前は、俺に突っかかっとる位が丁度ええねん。……………俺で良かったら、いつでも使い。汚れ役は、俺が一番向いとるさかいな」
「…………………大和………」
翔太に背を向け、大和は手を振り歩いて行く。
颯に救われ。
淳に守られ。
大和に、助けられた。
光が、射す。
まだ、傷を癒すには、ほんの微かな光だけど。
暗闇を照らすには、充分な光。
顔を、上げよう。
微かな光に、導かれ。
怖がるものは、何もない。
君の側には、仲間がいる。
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