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隙を魅せて。43
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「類!」
ギッと類を睨み付けるその目はいつもの温厚な緒方のものとは雲泥の差だった
「どうしたんだよ…つか俺鍵掛けたよな…」
類は心咲と居たことをバレないように壁際から移動し緒方の前に立つ
「別れろよ」
「は?」
ドキッと二人の会話を盗みぎく心咲は肩を跳ねらせた
「麻井って奴…阿久津センセぇに怪我させたのアイツなんだ!それに…日向先生だって、階段から突き落とされたって聞いてる…お前そんな奴と付き合うのかよ…!」
「…!」
ば、馬鹿アイツ!なんてことバラすんだ!!
「はっきり言って、陰険教師と居たときの方が楽しそうだったし、好きだったんだろ!?なのになんでアイツなんだよ!類の馬鹿!」
「…啓ちゃん」
「あんな奴と付き合うなよ!こんなの俺が口出しできる問題じゃないかも知れないけど…」
「ごめん、啓ちゃん…」
「え」
「分かってるよ…全部知っててやったんだ」
「は?」
すっとんきょうな声を挙げる緒方は目を点にさせパチパチと数回瞬きをする
理解できないと把握仕切れてない緒方の頭をコツンと小突くと優しく微笑んだ
「麻井にボロを出させるために業とあんな態度とってた、ごめんな」
「じゃ、じゃあ…」
「麻井はきっとまた少年院行き…一件落着したんだぜ」
「!る、類~~~!!!」
ポカンとしていた緒方は瞳を潤ませながら類に抱き付いた
「ごめんな、心配してくれてありがとう…まぁ、少し知らなかった事実もあったけど…な?」
ひしっと抱き付く緒方の背中を擦り宥めながら満面の笑み…(目は全く笑っていない)で心咲を見つめた
「!」
ゾッと寒気のした心咲は逃げ場のないこの状況にあたふためく
「うぅ…ずっと友達だぜ!?馬鹿ぁあ」
「はいはい…」
緒方の子供が駄々をこねるような行動に類は少し笑ってしまう
その声は大きく響くチャイムによって掻き消された
「あ、類弁当は?」
鳴り止むや否や目を輝かせながら類を見つめる緒方はよっぽど腹が減っていたのかお腹をグッと押さえて見上げる
「今日は学食にしようと思う…けど」
「けど?」
「啓ちゃんは?」
「あ、うん…俺は類に麻井と付き合うなって言いたかっただけで、このあとあ、阿久津センセぇと一緒に食うことになってて」
「ふ、ラブラブ見せつけんな」
「な、そそ…そんなんじゃねーよ!!」
恥ずかしいのか大事そうに持った弁当箱を後ろに隠し顔を赤く染め嬉しそうに激怒する
「嘘つけ…早く愛しのダーリンのとこに行ってやれよ」
クスクス笑いながら背中を押す類に頬を膨らませながら足下に転がった鍵の部品と思われる器具を緒方は拾う
「そーいや、思いっきり開けたから壊れたんだった…」
「馬鹿力」
「どうしたらいい?これ」
「俺から校長に言って付け替えて貰うよ、それまでは屋上に出入り禁止だろうな」
出入り禁止の言葉に眉をハの字にしながら小さく緒方はもう一度謝った
「気にすんなよ、な?」
「うん、ありがとう類」
「じゃあ、阿久津先生にも宜しくな」
「ん、また後でな!」
鍵の掛からないドアを丁寧に閉め階段をパタパタとかけ降りる音が聞こえなくなるまで類はドアの前に立ち止まった
心咲はと云うと息を潜め数分前緒方が溢した“余計なこと”が類にバレたことに隔離されたこの場から逃げ出す方法を試行錯誤させ案立てる
はぁ、と一息突く声が聞こえ心咲は咄嗟に肩を奮わせる
「心咲さん…」
「!…なに」
「アンタ言わなかったよな」
「な、なにをだ」
「しらばっくれる気かよ、心咲さん」
空気を伝い響く声に心拍数が上がるのが分かる
逃げ出したいのに、それなのにそうできない最悪な状況。
「い、言っておくが突き落とされた訳ではない…ぜ?」
「じゃあ啓ちゃんが嘘ついて聞こえんのかよ」
「そうじゃなくてそれしか、言葉が見つからなかっただけだろ…」
「なら話せよ」
「え?」
「突き落とされたんじゃないなら、全部話せるだろ」
「っ…」
視角になり見えない筈の類に威圧負けする心咲は紡ぎ出す声に躊躇いを感じながらも諦めたように力を抜き代わりに小さく丸くなった
「……四人で、屋上でお前が作った弁当食べた日があっただろ?」
「あぁ」
「あの日…職員室に向かう途中で麻井に会ったんだ。それでお前と…別れて欲しいって言われた」
「…」
「俺は…無理だとはっきり言った。お前のこと、俺の方が諦められなくなってた、から…」
「…ッ」
「そしたら肩を押されて…階段だったし、俺も手摺なんて持ってなくて…そのまま、まぁ落ちた」
「何だよそれ…」
「けど、でもな!俺にも非があったし!俺今ピンピンしてるから大丈夫だからさ…責めんなよ」
一連のことを話し終えると声をあらげようとする類を必死に止める
ここまでしてもまだ姿を見せないでいるのは類なりの配慮なのか、けれども微かに聞こえたコンクリートとの摩擦音
怒ってると、嫌でも伝わってくる
なのにそれもが嬉しいと感じる心咲は心臓がギュッと苦しくなる感覚をひしひしと受ける
「わかるんだ、俺」
「何が」
「お前のこと好きって気持ち…だから他の誰かのものになるの辛いってのも…お前がそばにいなくて、気付いたんだ」
「心咲さん…」
「なぁ、そろそろ…此方に来ねぇの」
言い終わるのが先か抱き締められるのが先か…類の温もりに酷く安堵した
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