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第5話
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「あ、そろそろ休憩終わる!」
時計を見て彼は慌てて立ち上がった。
「頑張ってください」
その時、姉が買ってきてくれた制汗剤を持っていることに気付いた。
「これ、僕は使わないので、使ってください。」
「え……ありがとな!じゃ、また!」
彼は照れ臭そうに笑うと、手を振って戻って行った。
また、来てくれないかな…。
その日は、彼が来ることはなかった。
つらい練習を頑張ったんだ。
応援しなくては。
名前も覚えていないこんな僕に、大好きなバスケを語ってくれたあの彼を。
家に着くと、父と母が喧嘩をしていた。
「あいつはまだ帰ってこないのか!」
「電話しているところです!」
僕の家は、毎日喧嘩ばかりだ。
「司?ママよ。早く帰ってきてちょうだい。パパも心配しているわ。またあの男のところに行っているわけじゃないでしょうね。20時までには帰ってきなさい。」
姉を探しているようだ。
両親は姉を溺愛していた。
その愛から逃れるように、姉は非行に走ってしまった。
「ただいま…」
「司か!?」
父が玄関に飛び出して来たが、僕の顔を見ると怒りに狂った顔から、穏やかな顔になった。
「亮太…。おかえりなさい。今日は迎えに行けなくてすまなかったな。大丈夫だったか?」
「大丈夫です。」
「亮太。夕食が出来ているわよ。手を洗ってきなさい。」
姉が非行に走ってしまったことで、両親の期待は尚更僕に集中した。
部活や塾には通わせず、自力で勉強をさせるようになった。
姉の非行は塾の友人との繋がりが原因だったからだ。
「着替えてきます。」
手を洗って部屋着に着替えると、スマホを親に預ける。
これも、姉と同じにさせないようにするため。
「いただきます。」
僕は、今日も吐き出せなかった言葉を、料理と共に飲み込んだ。
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