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拳
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哲久と手を繋いで帰る。
一人で帰るのは寂しかったけど、先生が考慮してくれて、哲久となら帰っても良いことになった。
別にいちゃいちゃしたいわけではないし、喋りながら帰りたいわけでもない。
それは、哲久も同じみたい。
手をぎゅっと握り締めるだけで、お互い何も話さない。
「なあ、成」
「ん?」
学校から続く沈黙を破ったのは哲久。
「成の家に寄ってもいいか?」
「うん、いいよ」
哲久の家は、俺、優征、レイとは違って、200mくらい先にある線路を渡り、しばらく歩き続けるとあるらしい。
学校までは30分掛かるらしい。
俺達の家は3軒並んでいるから、3人共20分くらいで学校に着く。
ガチャッ
「ただいま?」
「お邪魔します」
「おかえりぃーお客さん?どーぞどーぞ上がってー」
脱衣所から聞こえたその声は兄ちゃんの物だ。
「ちょ、兄ちゃんっ」
脱衣所から出て来た兄ちゃんは、腰にバリバリ君タオルを一枚巻き付けて、もう一枚のバリバリ君タオルで髪をわしゃわしゃ拭きながら、バリバリ君のミント味と思われる食物を食していた。
「ん?あぁ、食べたい?ミント」
ミント味で当たってたんだ。
差し出され条件反射で齧ってしまう。
「ほい、お客さんも」
「えっ、ありがとうございます」
バリバリ君は何味でも美味いと思っていたが、やはりミント味も…ハッと我に帰る。
「兄ちゃん服はっ!?」
「ごめんな、兄ちゃんどこにしまってたか忘れて…」
兄ちゃんは申し訳なさそうなフリをする。
「俺の部屋だよっ!てか『どこにしまってたか忘れて…』って兄ちゃんが知っているわけないじゃん。兄ちゃんが、なかなか千葉から帰って来ないから、母さんが怒って、兄ちゃんの部屋取り上げたんだもん。」
「え、じゃあ俺の部屋は?」
首を傾げる兄ちゃんに一言。
「物置」
「へ?」
逆向きに首を傾げる兄ちゃんにもう一言。
「物置だよ」
「あっ、あぁ…そぉ?へ、へぇそっか。」
ショックを隠しきれない兄ちゃんと、兄ちゃんの半裸を見て(というか半分以上裸なんだけど)キョトンとしている哲久を連れて、自室へ向かう。
「哲久、その辺に座って。クローゼットのこっちが、兄ちゃんのな。」
「どれ着よう?」
兄ちゃんはクローゼットを眺めてから俺を向き、首を傾げる。
「自分で決めなよ…」
俺は廊下に出て、圭に家に着いたと連絡を入れた。
部屋の扉を開けると、兄ちゃんは未だパンツしか履いていなかった。
「着たら出て行ってね、哲久と大事な話するから」
「大事な話っ!?兄ちゃんも聞きたい!高校生だもんね!悩みもあるよな!」
「ダメ」
ぶーぶー文句を言う兄ちゃんに、テキトーな服を渡して追い出すと、部屋が静かになる。
「ごめんな、うるさくて。さっきのは、俺の兄ちゃんの鷹紀。」
「モデルかと思った。」
「あんなうるさいのがモデルだったら、うるさすぎて写真から飛び出してきそうだよっ…」
「そうか?」
沈黙が訪れる。
いざ話すとなると、何から話そうか迷ってしまう。
「優征と、何かあったのか?」
突然そう問う哲久。
哲久に隠し事は嫌だから、話すことにした。
「俺と優征、一昨日から喧嘩してんだ。一昨日のバスケのミニゲームの帰り、ミニゲームで、哲久がナイスシュートだったって話したら、あいついきなり怒ったんだよ。俺は、当然何で怒ったんだって聞いた。でも、あいつは、俺には一生わかんねぇって教えてくれなかった。」
「うん」
哲久は真面目に聞いてくれる。
「そんで、昨日レイに、優征と仲直りしろって言われたけど、お互いどうしたら良いかわかんなくて…」
「うん」
「今日、レイを仲介に話し合いしたんだ。何で怒ってたか、教えてもらった。」
「何だったんだ?」
哲久が先を促す。
「自分も褒めてもらいたかったんだって。」
俺はベッドに寝そべる。
「嫉妬ってこと?」
「多分…。それで、レイに優征のこともっと見てやれって言われて。俺は恋人ができたから優征を見る事はできない。って言った。」
ベッドに置いてあるシャチのもふもふクッションを抱きしめる。
「そしたら?」
哲久には言い難いけど…
「優征に押し倒された。」
「!?大丈夫だったのか?何もされなかったのか?」
哲久は、俺の様子を心配そうに伺う。
「うん。レイが止めてくれた。けど、俺、もう優征が恐くて…小さい頃から口数は少なかったけど、何となく言いたい事は伝わってきた。でも、最近は…」
「わからない…」
哲久は、俺の言葉に続ける。
「うん…でも、嫌いにはなれない。」
優征への気持ちを明かすと、
「…うん。」
哲久は悲しそうな顔をする。
「ごめん、哲久。でも、お前とは違う。お前への気持ちと、優征への気持ちは全然違うから。」
「何それ…」
ぎゅっ…
「ぁッ…」
「超嬉しいんだけどっ!」
哲久がベッドの上に寝そべる俺の上に覆い被さって来て、強く強く抱き締められる。
「ちょっ、もー」
ガチャッ
ふいに、部屋の扉が開いた。
そこにいたのは、制服姿の優征。
帰って真っ先に来たのだろう。
「ゆ、せい…」
優征を見た瞬間、急に胸が苦しくなって息がしにくくなった。
「何してんだよっ」
ダンッ
「哲久っ!」
優征は、哲久を俺から引き剥がし、壁に叩きつけ、胸倉を掴んだ。
胸倉を掴む手を、俺が引き剥がそうと掴む。
「何故お前にこんなことされなきゃいけないんだよ」
「は?」
優征を恐れることなく、意見する哲久。
「俺と成は恋人同士なんだから、お前に口出しされる筋合いなんてないんだけど。」
その時俺が見たのは、先程まで冷めた目をしていた者とは思えない、哲久を狙う猛獣のような優征の目。
その瞬間、
ゴッ
大きな打撃音がした。
「っ、…!」
哲久を殴ろうとした優征の拳を、俺が代わりに受けた。
大事な哲久を殴ろうとしたことが許せない。
殴られた衝撃で、脳がグラグラ揺れている。
「せっ…成、ごめ、ん…お、おれ」
優征は、焦っているのか俺の左頬に、己の右手を這わせる。
俺はその右手を掴み、部屋から追い出し、勢いよく扉を閉めた。
「成、待って!話をしに来たんだ!」
ドンドンと扉を叩く音がする。
「出てけ!」
「ごめん!お願いだっ!成…!開けて!」
「黙れ!二度と来るな!」
急に、扉の奥が静かになった。
我に返った優征は帰ったのだろう。
扉に背中を付けると同時に腰が抜けて、その場にしゃがみこむ。
怖い…。
俺は今、どんな顔をしているんだろう。
「成、痛かったよな。」
「い…いや、俺が勝手に殴られただけだし。それに、哲久が殴られるって方が嫌だから。」
自分でも驚くほどの早口で、顔が引きつる。
きっと作り笑いをしているのだろうと恐ろしい程、客観的に考えている自分がいた。
「成、ごめん。俺、守ってやりたいのに怪我させた…」
俺には、俺自身を一番に考えて心配してくれる哲久がいる。
そう思うと、ホッとして涙があふれた。
本当に怖かった。哲久が居てくれなかったら、俺はどうなっていたのだろうか…
俺の心臓は握り潰されているかのように、ギリギリと傷んだ。
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