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18歳以上ですか?
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興味と気づく距離まで
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「…え〜……うわぁ〜…すげぇ〜……、…」
…と、注意されたが興奮がそれでスパッと治るわけもない為、小声でその古びた表紙を見ながら感心の声を上げる。
「……つーかお前、…よくこんなん読んでたなぁ〜〜……、。俺、フェニックスの本読んでる奴なんて日本人で初めて見た。」
俺は都の方も見ずにそういって「…まぁこの本自体は向こうでも見た事なかったけどね」と付け加える。
B・フェニックスは俺がアメリカにいた時に好きだった小説家、…というかエッセイストでも劇作家でもあった人なんだけど、…はっきり言ってメジャーではなく、むしろアメリカでさえマイナーであまり市場に出回っていなかったような作家だ。
アメリカ人に聞いても多分名前を聞いても分からない人の方が多いだろう。
……それを日本で知ってる奴に出会うなんて思っても見なかった。
「……あ〜〜、すげぇ〜〜…まさかフェニックス知ってる奴に会えるとか、…つーか、ここに置いてあるっていう事は読んでる奴他にもいるんだもんな〜〜すげぇなぁ……。… 、俺さ、フェニックスの写真撮った事あってさ、」
まだフェニックスのこの本に出会えた事に感動してサラッとそういうと、今度は物凄い勢いで都がこっちを見上げた。
「……っっ、!!!」
思わず俺もその反応に驚き都に目を向けると、今までで一番驚いているような表情をして目をパチクリと見開くのと瞬きを交互に繰り返していた。
その顔があまりにも面白くて
カシャカシャカシャっーーー……
またもや至近距離で都にシャッターを切っていた。
バッとカメラを構えバッとカメラを下ろしたため、都は多分それについていけずに未だ俺の顔をみてパチリと目を動かす。
……なんだその顔……笑
なんだかリスみたい。笑
「……っははっ……なにその顔……っ笑なにそれ、すげぇ驚いてんの?笑それともなに、トイレでも我慢してんの?笑ぼっとしてっとまた撮っちゃうよ?ははっ…」
さっき注意された事を考慮してクスクスとそう言いながら笑うと、都はやっと自分に気づいたのか、パッと目線を俺から逸らした。
でも以前と身体は俺の方を向いていて、今まではそんな事なんてなかったからよっぽどフェニックスの話に食いついているんだという事が分かる。
「……フェニックスってすげぇなんつーか癖になんだよなぁ、…。人類に対する絶望とか皮肉とか愛情とか、…あれをあんなにシニカルかつユーモラスに文字に起こせる奴他にはいねぇよな、。絶対あの人はもっと知られるべきだと思うんだけど、…まぁ、フェニックス自身が結構やる気ない奴だから、ははっ、」
「…………」
俺がそういうと都は依然と黙ったままだったが、今の俺には同意しているような空気をだしているように見えた。そして、もっと話が聞きたいというような目をしているように見えた。
「……、俺が向こうにいた時にな、…あぁ、俺15からアメリカに住んでたんだけど、まぁそん時から結構向こうの雑誌の仕事とかもしてて、そん時偶然フェニックスの友人と知り合ってな〜、んで無理言って本人に合わせてもらったんだよ、。…んー…俺が確か18歳くらいの時かな〜、」
今の俺には都がどーのこーのというよりもフェニックスとの思い出を話せるよう奴がいて嬉しくてベラベラと口が滑るという状態だった。
「フェニックス自身、本当に本のまんまの人間でさ、すげぇ皮肉ばっかいってる爺さんでいっつも葉巻き吸ってて、んで孫からも息子からも嫌われてて、ははっ…、。でもいざ近づいてみるとすげぇ愛情があるんだよな、。…彼も俺もあんま喋るのが得意じゃなかったから、口数は少なかったけど、俺はいつも彼の写真を撮り続けて、彼は帰り際にいつも詩をプレゼントしてくれた。それだけでコミュニケーションが成立してたんだよなぁ、」
「…………」
ポツポツと小声でそう喋りながら昔の事を思い出す。
向こうに行って、流されるがままに優遇されて、刺激の一つもなかった時代に彼は新しい愛情の伝え方を教えてくれた。
フェニックスと出会ってからは毎日のように彼の家に通って、。なにを喋るでもなく、彼の吐く葉巻きの煙の匂いが漂う部屋で同じ空気を吸っていただけだけど、それがなぜかあの時の俺には心地よくてすごく刺激になったのだ。
……今思うと、家族もよく俺を受け入れてくれたよな、。いつもお茶出してくれたし、…結局嫌われてるとか言いながら、すげぇみんなに愛されてたんだよな、あいつは、、。
……そうそう、。そういう所とか、…皮肉っぽい所とかコミュニケーションの取り方とか、そういうのがどことなく父さんに似てたんだ。
、父さんが死んで、悲しいとか一切思ったことない気がしてたけど、父さんが死んでから漠然と慢性的に俺を覆っていた虚しさにフェニックスは気づかせてくれた。
そしてそれと同時に父さんと過ごした懐かしさというものもフェニックスといると感じられた。
……俺にとって多分彼は第二の父親だったんだ、。
…………、なんてな、。得体も知れないただの東洋人の餓鬼が図々しいよな、。……でも、本当にそれくらい俺にとって大切な人間だった。
まぁ…、そんなフェニックスも、二年前に死んじまったんだけど、。……
はっきり言ってそん時は父ちゃんが死んだ時より泣けた、笑
……そういった意味では、"死"を受け入れさせてくれたのもフェニックスだったのかもしれない。
「………、そうそう、フェニックスの葬式ん時の写真も俺が撮った奴使ってもらっだんだよ、。…あぁ…、もうそれが2年前のことだもんな、早ぇな………って、、悪りぃ…笑、すげぇ思い出話しちゃった、。笑」
「………………」
ハッとして俺がそういって笑うと、都は目線をはずしたまま静かに沈黙を作っていた。、
……多分、こいつもすげぇいろんなこと考えてるんだろうな、頭ん中ぐるぐるして、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるして。……それで言葉に出せない。
多分こいつはこいつなりに考えた結果の"喋れない"なんだろう、。
……こいつも、フェニックスや、父さんと同じなんだ、…多分。
、なんだかそう思うと、今まで無視だと思っていたこいつの反応も新しいコミュニケーションの一つのような気がして心が軽くなった。
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