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神保町と都。
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カシャカシャー……ッ、
こういう必然的にシャッターチャンスが訪れた時って、不思議と全く周りのことがどうでもよくなる。
よく考えれば、ここは電車だ。
電車の中で急にカメラ……って、。……でもまぁ、俺にはそんなことどうでもよかった。
俺は構わずにシャッターを切る。
……すると、都がそれに気づいたのかいつも通りゆっくりと俺の方を見上げた。
俯いていた睫毛がまるでスローモーションのようにこちらを向き、今まで見えなかった二重の中の大きな瞳がカメラ越しの俺の目を見る。
相変わらず見事なまでの無表情。
急に写真を撮られたら誰だって嫌なはずなのに、感情を一番表現しやすい眉毛もピクリとも動かず、口元も一切変わらない。
……なんだかそれがやっぱり異様で、まるでロボットと人間の狭間を見ているようで、。
でもそれがやっぱりうつくしい。
「、……すげぇいい、……」
カシャカシャカシャッ……
そんな事を呟いて俺はまたシャッターを切る。
……つーかすげぇ都合いいわ。
なんでかしらねぇけどこいつ嫌がりもしねぇし、動いたりもしねぇから被写体としては超都合いい。
……まぁこれがモデルだったらくっそ使えねぇけど……。
そう思いつつもそんな都を撮り続けていると、俺に全くの興味を抱かないのかそれともやっぱり撮られるのが嫌だったのか都がまたゆっくりと目線を外した。
うわ、……なんかそれもすげぇエロいんだけど、……(おい)
いや、俺の中でエロいってすげえ褒め言葉だからね、?笑
……あああ、……その目線でもうちょっと口とか半開きにしてくんねぇかな、
そんな事を思いつつも夢中にそのタイミングを狙っていると、都が丁度良く口を開く。
ーー……きた、!!!!
俺はその瞬間に心の中でガッツポーズを取り、口元をくいっとあげながらカメラのシャッターを切った。
……なのに、。なにかが変だ。
都が少し口を開いたかと思えばそれは少しだけでは止まらず、おまけに目を見開いて今まで見たことのないような驚いた表情へと変わる。
……なんだよその顔、笑
笑えるんだけど、。……そう言おうとした瞬間になぜか自分の視界がグラっと動いた。
え、…………、?
その時には既にもう遅かった。
動いた視界は止まることなく電車の天井へ行き、寄りかかる場所が失った俺自身の身体はそのまま後ろへと綺麗に倒れた。
ドスンーーーーー…………ッッッッッ!!、
鈍い音を立て身体が叩きつけられたそこはどうやら硬いコンクリートの電車のホームで、
「神保町〜〜神保町〜〜」
ほぼ倒れたのと同時にそんなアナウンスが聞こえて、ようやく自分が寄りかかっていたドアが急に開いてホームに倒れたのだと理解できた。
「……っ、ぃ"ってぇ…ぇえ……」
そんなことを呟く俺にホームに並んでた乗客が心配の言葉をかけてくるがそれすらもう全てが恥ずかしい。
ーー……あぁ……写真撮るのに夢中になりすぎた、……
うぁぁ……はっず…………、
すぐに上半身を起き上がらせ体育座りしつつも、恥ずかしくなり両手で顔を覆う。
………………、つーか、……ちょうど神保町って言わなかった、か、……??
やべ、……都にいわねぇと乗り過ごしちまう、……
「…….っ、都ー……」
そう気付いて慌てて両手の間から都のいる方へと声をかけ目線を向けると
「…………、っな……、」
くすくす……っ、…
都がそんな俺をみて自分の手を口元に当てくすくすと笑っていたのだ。
さっきまで開いていた大きな目が山なりに閉じ、さっきまではピクリとも動かなかった眉毛の両端がくいっと下がっている。
み、……都が……笑ってる…………、、?!
え……、ちょ、…………天使………………
思わずそんな都に俺、絶句。そしてすぐに
、…………、っつーか、待って、撮んなきゃ、……
とハッとしてカメラを構える。
でもそんな俺に都もハッとしたのか、即座に笑うのをやめて電車から降りると、スタスタと俺の横を通り過ぎてホームを歩いて行ってしまった。
………………、っはぁぁああ?!?!?!
いやいや待て、。……なんだよ、無視かよ、!!!
「……っ、おいバカ、!!!!無視すんなコラァ!!!!」
さっき、つい天使って思ってしまったことを後悔する。
そして再び羞恥心と都に無視されたことの怒りが込み上がってきて、俺も重い身体を急いで起き上がらせる。そして都を追う。
「……ばか、無視すんなよ!!、恥かいたわ!!」
走って都の隣まで追い付き少し怒りながらそう言って都の顔を覗き込むと、まだやっぱり笑いが治っていなかったようでものすごい小さい声でクスクスと笑っていた。
俺はまたそんな都に言葉を失う。
…………、…こいつが、……笑ったの、……はじめ見る、……
……今まで一回も、…………それと酒井さんだって確か見た事ないって言ってたし…………
……もしかして、……俺、……今すげぇ所に居合わせてんじゃ……ねぇのか、…………?
今度は色々と都が笑った事に対して考えが巡り始める。
もちろんそのぐるぐるとした考えは今までの俺にはなかった嬉しさの感情で、。
でも、そんな急に静かになった俺に、都はまた笑うのをやめてスタスタと歩いていってしまった。
、…………なんで、笑うの……やめるんだよ、。
都に置いてかれて俺はまだその場に止まったままで、
どんどんと都が離れていく。
東京の生ぬるい風が吹く長い薄暗い地下鉄のホームの直線上で、俺はまたさっきとは違ったぐるぐるに止められて動けない。
、…都だって、笑う事ができる。
……それがわかった今、前よりもこいつが感情を出すのを過剰に嫌がる事に、つよい疑問とよくわからない沸々とした苛立ちを感じそれらが頭をぐるぐると駆け巡るのだ。
……感情、……ちゃんと出せばいいじゃねえか、。
しかもそうやって溢れてしまうような笑いの感情なんて、隠しても意味ない、……むしろ隠さない方がいいに決まってるのに、……
「……、っ笑いたかったら笑えばいいじゃねぇか、……!!」
ぐるぐるとした頭の中、俺はまた周りなんか見えてなくて既にもう10メートル以上離れてしまった都の小さい背中にそう大声で叫んだ。
その声は、そんな大きな声を出したつもりもなかったのに、地下鉄のホームといつ場面のせいかホーム中に響き渡ってしまった。
……でも、今の俺にそんなの関係なかった。
だって俺は今こいつに伝えたい事があるから。
……ちゃんと自分の意思で、。……こいつと話したい事があるから。
そんな俺の声に、都もピクッと動いて足を止める。
……でも、こっちを向かない。
「……なんで、そんな感情を隠すんだよ!!……っもっと自分の言葉を伝えろよ……!!」
そんな都に俺はめげずにそう言い続ける。
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