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神保町と都。
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「……え、なになに、。……どーゆーこと……」
「……あんたも一番最初に来た時、あんな感じだったじゃないかい、。」
「…………」
「………ずーっとリンタロウの後ろに隠れて、折角アタシが話しかけてるのにぶすっとしてて。」
おばちゃんはハッと笑いながらそういう。
はっきり言っておばちゃんの口から昔話が出るなんてそれこそ初めてで少しきょどる。
……けど、……確かに俺、そうだったかも、…。
昔の俺は今よりももっと人見知りで、確かにいつも父さん(リンタロウ)の後ろに隠れてた。
……でもまさか、…それを"似てる"って指摘されるなんて……。
「………いやいや、おばちゃん、…それ俺がちっちぇ頃のことだろ?……俺、あんな人見知りじゃねえもん。」
「…………何言ってんだい、。…アタシが言ってんのはそれだけじゃないよ、。……本見た時のあのキラキラした顔、……」
おばちゃんはそういってまた笑った。
そのことに俺は驚く。
「……え、おばちゃん都のあの分かりにくい表情に気づいてたの、?」
「……気づいてたもなにも、あんたと一緒じゃない、。」
「…………え」
「…………そんなあんたが初めて人を連れてきて……。」
おばちゃんが今度はさっきとは違い優しい笑みをこぼす。そして入り口の方を見て「ほら、早く行きな。重たそうにして待ってるよ、。」と俺に向かって言った。
あ、そうだった、……都、……
おばちゃんの目線の方を見ると、ガラス戸の向こう側で都が重そうに段ボールを持って少しフラフラとしていた。
外の景色はもう暗くなり電灯や看板が光り出していて、……その中にそんな都がよく溶け込んでいた。
あ…………、まただ…………
カシャカシャカシャ……
俺はまた無意識にシャッターを切る。
……やっぱり、綺麗なんだよなぁ……都。
ふとした時に見るとハッとさせられるんだよなぁ……
……って、……あ、。
「……あ、わりぃ、……おばちゃん。」
話の途中でだったのに、……俺、撮るのに夢中で、……
すると
「…………あの子は、……あんたの被写体なのかい、?」
おばちゃんが珍しく俺に聞いてきた。
「…………へ……、。……あぁ……被写体っていうか、……」
そんな唐突な問いに俺は言葉を詰まらせる。
「……、ふとした時に見ると、……すげぇあいつって綺麗に写るっつぅか、……なんつぅか……、。……うまく言葉じゃ言えねぇけど、……無意識に撮ってる自分がいる、……つぅか、。…」
「……」
「……だからなんだろう、……。おばちゃんがいう"被写体"っつぅような無機質なものじゃなくて、……ん"ー……とにかく、……今の俺にとって一番美しいものっていうか、………、。認めたくねぇけど、興味があるものっていうか、……」
なんといっていいかやっぱり分からない。
……まあ、こういう伝えたい時にうまく伝えらんねぇのが俺の癖だからしょうがない。……いや、コンプレックスでもあるけど、…。
「…………、っつぅか!!おばちゃんちゃんと見て!!アレ!!……、なんかあいつ目、引かね、??綺麗だって、思わねぇ??」
そんな俺自身に歯がゆくなり、俺は都の方を指差しておばちゃんに問いかける。
……都の内面や素性は抜きにして外見だったら誰でも綺麗だと思うはず。……なんてったってファンクラブがあるくらいだし、!!
ーー……でも、
「…………、そりゃさっきも綺麗な顔してるとは思ったけど、……別に普通のがきんちょだろう、??……あたしにゃ普通の坊主にしかみえねぇよ。」
おばちゃんはそういうとツーンとしてしまった。
「……へ、まじで、??」
、あれ、。もしかして、…俺の目にしかあいつ魅力的に見えてない……?
「………何驚いてるんだい、。」
「…………いや、……。?……、なんか意外で、……」
そう言いながらもファインダー越しにあいつを見ると、……やっぱりさっきのようにとても魅力的で俺にはなぜかあいつだけ色褪せて美しいように見えて、。
……あれ、…もしかしてこう見えてるのって、……俺だけ、??
みんなにもそう見えてるんだと思ってた、……
ゆっくりとカメラを下ろし、自分の目で直に都に目を向ける。
それでも都はとても美しい、。
……カメラ越しじゃなくても俺にはあいつが美しく見える、。……魅力的に見える、……
……は、……。なんかよくわかんなくなってきたぞ…………
「……………あんたの目には魅力的に見えてんだろ、。?」
「………………へ、?」
そんなことでぐるぐるしている俺に、またも唐突におばちゃんの声が降ってくる。
「…………だから、……アタシらには分からなくても、あんたの目にはあの子が綺麗に写ってるんだろ、??」
「……へ、…あ、…………うん……。」
とりあえず、訳も分からないままおばちゃんの威圧感に首を縦にふる。
「…………あんたの父ちゃんもそうだったよ、。」
「………っ、!」
「…………初めてここに来た時、"綺麗だ"っていってこの店のことカメラでバシャバシャ撮って、。こんな汚ねぇ店のどこが綺麗だっていうんだ!!ってアタシャ嫌味だと思ってね、…あいつを追い出したんだ、」
「…………。」
「…………でも、……あいつが死んだ時にあんたンちの社長さんがその写真を持ってきてくれてねぇ、……。。……そんとき、その写真見て、不覚にも涙が出てねぇ、……。あれは嫌味なんかじゃなくて、本当にあいつにはこの店がこう見えてたんだ、って。……あいつの目には、……こんなにも綺麗に見えてたんだって、…。」
おばちゃんはそういうと少し笑いながら「…そのせいでいつになっても店を畳めないでいるよ、。」といって壁のほうへと目を向けた。
そこには大きな古い店の写真があって、……もう埃とかシミとかで汚くなってたけど、……それがその時の父ちゃんの撮った写真なんだってわかるほどの力があった。
「………あんたはその血をしっかり受け継いでるんだよ、。……寧ろあんたの方がよっぽどリンタロウなんかよりも濃く、……ずっと繊細に受け継いでるのかもしれないけど、…。」
「…………。」
「…あんた、……さっきあの子は喋れないって、……いってたねぇ……?」
「…………あ、………あぁ……」
ふとさっきの罪悪感やらをまた思い出し、その申し訳なさに俯く。しかし、
「………、でもあんたの耳にはあの子の声が聞こえてるんじゃないのかい、?」
「…………え……?」
おばちゃんが急に俺の目を見てそういう。
都の……声が、……?
「…………いや、……べつに、……」
俺、そんな特殊能力ないし、……
……でも、、……たしかに、……他の人にはないものをあいつには感じる、、。
あいつから感じる儚さとか……切なさとか…………、言葉じゃ伝えようのないあの魅力や雰囲気等は、…もしかしたら全部あいつが出してる声なのかもしれない、……。
それに、……何故だかわからないけど多分俺は、他の誰かよりもあいつの感情を読み取る能力があるんだと思う、。
あいつの表情とか、……それからあいつが出す空気で都が何言いたいか結構分かるし、……それに何を隠そうあいつが本当は喋れることを俺は知っている。
……"あの"酒井さんですら、その事を知らないのに、……。
「…………あたしにゃやっぱりよくわかんないけどねぇ、……ユリウスやらフェニックスが好きなんて生意気な共通点があって、……そんな相手なかなか会えるもんじゃないよ、。」
「……………」
「…………そういう共通点を持ってる奴らって、……喋れないとか、人見知りだとか、……結局どうでも良かったりしてねぇ……?……どうせ、あんたらはお互いにしか分からないこともあるんだろう、?」
おばちゃんがすごく珍しくベラベラと喋る。
「………………、おばちゃん、……何、……今日はどうしたの、。」
そんなおばちゃんについそう口を挟むと、おばちゃんがはぁっと溜息をついて
「……、アタシだってあんたが誰か連れてきたことに動揺してんだよ、…。……どうせアンタは一生一人だと思ってたからねぇ……」
「…………え、なになに。おばちゃん、ヤキモチ妬いてんの、?」
「…調子こいてるとぶっ殺すよ。」
「……ははっ、嘘だっての。」
にやにやしながらそういうと、ナイフのような鋭い目つきで睨まれてしまった。
「…………ったく、あんたが帰らねぇからベラベラ喋っちまうんだよ、…あの子、どんだけ待たせるんだい、ホラ、こっち見てるよ、。」
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