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死にかけのミドリ。
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「……だってお前ずっとここで見てる訳じゃねぇだろ?」
「……………。」
「…それにさっき本買って金ねぇこと知ってるし。」
俺がそう言って都を見ると、都がふるふると俺を見上げながら首を振った。
「…っふふ、なにがちげぇだよばーか、。笑
…あ、今更遠慮とかすんなよ?、もう買っちゃったし。、プレゼントプレゼント。」
俺はそんな都の意外と控えめな反応についおかしくなりそう言いながらわしゃわしゃと髪を撫でた。
……といっても、たった500円でプレゼントとかいってる俺も俺な気がするけど……。笑
すると「はい、クレマチスこれね!!」と言っておじさんが店の中から出てきた。
ヒョイ……っ、…
それを見て俺は都の隣に置いてあった本の入ったダンボールを持ちあげた。
「………、?」
そんな俺の行動に都がまた不可解な目をしてみてくるので
「お前は鉢持って。」
と目線だけで合図を送る。
そんな俺に、都はまた一瞬だけジー…と俺を見て止まっていたが目線をおじさんの方へと目を向けると、ゆっくりと立ち上がっておじさんからビニールに入った鉢を受け取った。
都の折れそうな白い腕がビニールの上からその死にかけのミドリを抱き寄せてギュっ……と包み込む。
顔を枯れた葉にうずめ、目を瞑り、また祈るように抱きしめるその都の口が微かに優しく上がっている。
……さっきおばちゃんからあのしおりをもらった時もこうやって抱き締めてだけど……都の最大限の嬉しさの表現って、…もしかしてこれなのかもしれない。
…………そんなに枯れた植物を買ったことが嬉しかったのだろうか、…。
……なんとなく魅力を感じるのはわかるけど、どうしても欲しいと熱望するくらいのものは俺にはわからない、。
ーー……でも、…都がこんなに喜んでくれるならいっか、。
……それに普段無表情の都がこうして嬉しいがってくれるとなんだか俺まですげぇ嬉しいし、。
「…………よし、帰ろっか。」
そしてなんだか都にかける俺の声も心なしかいつもより優しく静かになる。
コクン……
そんな俺の声に都は嬉しそうに微笑みながら頷いた。
……うわ、……すっげぇ、可愛い…………
ドクン……っという心臓の音とともにまた写真を撮りたいという衝動に駆られるが、…
……でも今撮ったらなんか台無しにしてしまいそうだから我慢我慢…………
「…じゃ、おじさんありがとうございましたー!」
「はいよーー。なんかあったらまた来てなー!」
そう言って店を後にすると俺の声に続いて都をぺこりと軽く頭を下げて後ろを付いてくる。
トタトタトタとまた控えめな足音が横を歩く。
「……………。」
「……………。」
気づけばもう外は真っ暗で、街はさっきよりも看板や窓が光り更に活気付きはじめていたけど、やっぱり俺たちを包むのはこの静かな無言で
チラッと隣の方を見ると手で持てばいいのに都が大事そうにまた鉢を抱き締めて歩いていた。
「………ふふっ、」
思わずそんな都の姿に俺の口から笑みが零れる。
今日は……なんか、色々あったな……
……でも、なんか、……すげぇ楽しかった、。
…………、こういうのを……幸せって呼ぶのかな、…
酒井さんの言ってた"君ならミヤくんに今までなかったものを与えられるかもしれない"って、……どっちかっつーと俺の方なのかもしれねぇなー……
……なんて、行きにはなかった本の重さを手で感じながら、俺はそんな事を一人思っていたのだった。
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