アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ミドリの手紙。
-
ハラハラー……
一冊の本から何かがひらひらと落ち、ストン と綺麗に床に落ちた。
「……………?」
ん、……なんだ、……?
俺は少し疑問に思いながらも床に落ちたそれを手で拾い上げる。
…………あれ、……植物の写真……?
俺が拾ったそれは、今時には珍しいポラロイド(インスタントカメラ)の写真で、ポラ独自の褪せた色調の中にもキレイに緑色が感じられるような生き生きとした植物の写真だった。
…………これ、都が撮った写真だろうか、。。
つーか、…この時代にポラって、…笑
……いやいや、確かに今でも人気あるし風情あるけど……なんだかそれを撮ってる都を想像して少し笑ってしまった。
……でもなんで本の中にこんなの挟まったんだ、…?
……あぁ、あいつ植物好きだからか?……自分で撮った写真をしおり代わりに使ってる、とか……
え、……、もしそうだとしたら、どこのページに挟まってたのか俺見てなかったぞ、…?!
ヤベェー……
そんなことに少し焦りながらも何気なくポラの後ろを見た。
そう、本当に何気なく。
でも俺はそれを見て一瞬で言葉を失った。
"逢坂さんならきっとこの本も好きだと思います。
……………あと、ちゃんとミドリになりました。"
「…………………………っ!!!!!」
いつも通りのあの綺麗な文字がほんの数語、丁寧に、そしてものすごく新鮮に自分の目に入ってくる。
ほんのすこし、……たった数語の文字がそこに描いてあるだけなのに、……
"逢坂さん"
何故か聞いた事もない都の声がそう俺の名前を呼ぶように何回も何回も頭の中で読み上げる。
都から初めて言葉を送られた。
……今まで会釈の挨拶でさえままならなかったのに、
………しかも初めて名前まで呼ばれた、……
ドクンっ…………ドクンっ…………っ
たったそれだけのことなのになぜか心臓が無視できない程煩く脈を打つ。
ヤベェ、…………どうしよ、……スゲェ嬉しい、……
今まで自分の人生の中で知らなかった感情に出会ってる気分だ。
ソワソワする、。……それなのになぜかどうしようもないくらスゲェ嬉しい……
つーか、……"ちゃんとミドリになりました"って……
もしかして、……っ!!!!
ハッとしてもう一度表の写真に目を向ける。
そこに映るのはさっきみたミドリの植物。
……でもよく見るとどっかで見た覚えのある鉢に、……ツルのまくアンドン仕立ての支柱………これって、……っ
……やっぱり、、!!!!これ俺が都に買ったあの500円のクレマチスか!!!!!!!!!
そうか、この鉢にこの支柱は、間違えなくあの時の神保町で買った死にかけてもはや茶色に変色してたあのクレマチスだ。
でも、そこに映るのはこの前とは似ても似つかないような生き生きとしたミドリの葉を持つクレマチスで、。
え、待って。……てことはあいつがすげぇ世話して生き返らせたって事、…………??
あの店の人までもが無理っていってたのを…………??
「…………っうっわ、まじか!!!!」
あまりの驚きと自然と出た嬉しさについ大声を出してしまった。
そんな俺に研究員達がまた俺を不可解な目で見てくるから軽く謝って会釈する。
ーー……って、……うわーー……
もう一度その色褪せたポラを見る。
でも俺にはその生きる証拠の緑の葉がキラッキラに輝いて見えた。
そしてその写真は俺に伝えきれないほどのたくさんの感情を感じさせた。
その瞬間に、あの時都がどうしてあのクレマチスにあんなに興味を持っていたのかが少しわかったような気がしたのだった、。
まるでこの写真で都と会話している気分、…
こういう写真が紛れもなく"ホンモノ"の写真だ、……。
……一人の写真家としてこんないい写真を撮った都に少し嫉妬する。……でもそれよりも、
都が俺にこれを伝えてくれたことが一番嬉しかった、。
一枚の生きるミドリの写真。
でもこれは都が俺に初めてくれた"言葉の手紙"だ。
どうしよう、……半端なく嬉しい、……なにこの感情、…………、すげぇ、嬉しい!!!!
都が今まで絶対に表さなかった自分の意思。
初めてそれに出会った、……出会うことができた、。
それがどんだけ凄いことなのか、…今ちょっとテンパってて正確にはわかんねぇけど、……でも、あああ!!!
これがなんらかの大きな一歩だという事は明確に分かる。
……というか都にしては大きすぎる一歩だよな、…?
俺はそんなまぎれもない事実に、一人興奮を抑えきれずニヤニヤしっぱなしになっていたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 130