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イチョウの約束とイチのナイフ。
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お互いが胸ぐらを掴みあって少し乱れた木村のジャケットの下に、なにやら怪しい皮のカバーを被ったあるものがチラッと見えた。
それはまぁサスペンスとかではよく使われる、所謂あの凶器で。
…あぁ、今の時代日本でそんなんどこで買ったんだろう、あ。普通にホームセンターとかで売ってんのかな、つーか未成年って買えるんだろうか。なんだっけあーいう形、…バタフライナイフ、的な?
とかなんとか、こういう時って割と冷静に考えられるもんで、それと同時になんとなく妙に納得した自分もいた。
……そうだよな、殺るつもりで来てたらあんだけギラギラするのも説明がつく。
……でも、待って。俺、今は殺されたくねぇし。
「……でも、やっぱりそーいうのって正々堂々、じゃなきゃ駄目だよな?」
自由になった手を、クシャクシャと頭を掻きながら木村に向けてそういった。
「………………つ、……!!」
木村の方も俺のその言葉に隠し持っていたナイフがばれた事に気付いたようで、その脇腹を咄嗟に隠す。
その反応を見てやっぱりこいつ本気だったんだ、とまた再確認した。
……つーかこいつ、本当すげえな、。
だってもし、これで俺を本当に殺したら当の木村
は殺人者となって間違いなく警察に捕まる。
今までの人生がそんなん跡形もなく一瞬でパァだ。
日本最高峰の大学の、しかも最難関の学部の学生で、きっとここまで来るのだって決して楽じゃなかった筈。
それを当たり前のように台無しにする決意で、こういう行動をしてるってことだろ?
……ある意味それだけ人生をかけてした大恋愛。
常人からしたら絶対に理解できない。
…かつては木村だって常人の枠に収まってた筈なのに、
……まぁでもその根源となっているのは間違えなく都なわけで。
……やっぱりあいつにはそれだけの、"何か"がある。
……人を惹きつけて、狂信的にさせてしまう程の何かが…。
…だって、何と言っても、俺が、初めて、興味を持った人間なのだから。
「……ははっ。……お前本当、スゲェ覚悟で来てんだなぁ、。!…やり方が凶悪な所は頂けねぇけど、そういう一途な所は嫌いじゃねぇ。」
……きっと、犠牲者なんだ。…木村も、…多分、俺も。
「…でも片方が武器持ってるのって卑怯じゃね?…どう考えたって不平等だろ。結論的に考えればお前だって不利になる。」
「…………何が言いたい、?」
「んーとね、…じゃあこうしようぜ。次、会った時、お互いまっさらな状態で殴り合って、んで決着を決める。お前の望むように、お前が勝ったら俺は何も言わず都の側から離れてやる。お前がこの先都に何をしようとなんも言わねぇ。」
「…………」
「でも逆に俺が勝ったら、……本気であいつに謝ってもらう。んでちゃんとあいつの事ちゃんと見てみろ。あいつの気持ち、ちゃんと想像してやれ。」
「……………」
俺のその提案に木村はジッと俺を見返したが、その数秒後にサッと俯くと、小さな声で「……逃げんなよ」と呟いた。
それはようやく、人間に戻ってきたようなそんな普通の声だった。
「…ははっ、お前もな。」
乾いた笑いでそう返す。
そして木村が俺を見ずに横切って、まるで何事もなかったように去っていった。
…頭が悪いわけじゃない、寧ろ無茶苦茶良いほうだ、…どうせ自分でも、自らの言動に葛藤していたんだろう。だからすぐに条件を飲み込んですぐに去れる。
あれこれ言葉で話してめんどくせぇことになるよりも、殴り合いで解決するならそれが一番便利だ。
……って、俺こそ偏見強すぎだよな、笑
結局、木村も不器用だ。
不器用者は不器用なやり方で。
……つーかなんで俺、こんな事になってんだよ…笑
人とこんなに真面目に喧嘩とかなにそれ、笑える。
……これもまた?都に出会わなきゃ一生しなかっただろうなぁとか考えてまた無意識に溜息を吐いた。
夜の住宅街で交わした1つの不器用な約束に、昼間のイチョウの下で交わした約束が微かに薄れかかっていた。
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