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なきむしのきもち(まおしの+りつ)
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理解してもらえなくてもいいと思っていた。だから同好会もひとりで立ち上げたしひとりで修行もしているんだ…うそ。そんなの強がりでしかない。
誰かにわかってもらいたかった。誰かと一緒に笑い合えている人が羨ましかった。
「お前、危ないことばっかするなよ、心配になるだろ」
派手な見た目とは裏腹に。苦笑いを浮かべながらもこちらを心配してくれる人に出会えたのは初めてだった。
*
「あ、仙石くんおはよ」
「翠くん!おはようでござる!」
同じ学年で、流星隊という同じユニットに所属している高峯翠くん。クラスや学年でも浮いている拙者にも普通に話しかけてくれる友達の一人。身長が高くて、顔もかっこいいのに「俺は仙石くんみたいに小さく生まれたかったけどな。あ…、ごめん、嫌味じゃないよ」と言われたのはまだ流星隊に入ったばかりの頃だったろうか。
「げ、校門前で持ち物検査してる…なんで今日…部長が無理やり押し付けてきた戦隊DVD持ってきてるのに…」
「おお!?」
一人ずつカバンの中を確認されて、漫画やゲームを持ち込んでいた子たちの荷物がみるみる回収されていた。学業に不要なもの、というのかもしれないが本人からしたら生活に必要なものだから持参しているのだと思う。先日も、抜き打ちで行われた持ち物検査の際、拙者の手裏剣や撒菱は回収されてしまった。
「出たな、問題児」
「衣更殿!おはようでござる!衣更殿も持ち物検査でござるか?」
「生徒会の持ち回りでな。今日は俺。お前今日は火薬とか手裏剣とか持ってきてねえだろうなー?前回あれ取り返すのにどんだけ取り繕ったか…」
「あの時はかたじけなかったでござる!しかし今日は抜かりないでござる!ちゃんと校舎裏の基地に隠してきた次第で…」
「生徒会相手に隠し場所言ったら意味ねーだろうが。ったく、他のやつには内緒にしといてやるから見つからないようにしとけよ?」
はぁ、とため息をつきつつも。ぽんぽん、と拙者の頭をなでる。自分より幾分か背の高い赤髪の彼、生徒会の会計を務めている衣更真緒殿。拙者の忍者同好会、唯一の協力者だ。ひとりで修行をしていた拙者に「ひとりで危険なことをしない、俺からの任務な」と日々様々な任務をくれたり、先生から逃げ出すのに協力してくれる優しい先輩。
「俺まで見逃してもらったけど…衣更先輩、生徒会だけど異質だよね」
「異質とはどういう意味でござるか?」
「んー、何か俺らみたいなのにも甘いっていうか…いや、仙石くんに特に甘いのかな」
「むむ?」
自分としては特別扱いされているとは思っていないし、そんなつもりもなかったのでござるが…。
周囲から見たら、拙者は衣更殿に特別扱いをされている、というのだろうか。でも、もしそうだとしたら。
「…拙者が何かする度に衣更殿に迷惑をかけているということでござるな」
「ん?仙石くんどうした?急に渋い顔して…」
「頭を冷やすでござる…暫く探さないでください…と皆にはお伝え頂きたいでござるよー…」
「え、ええぇ…?」
*
「ま~くん、なんで今日起こしに来てくれなかったのー。兄者が来て、寝起き早々に不快感しかなかったんだけどー」
「はぁ~、今月は持ち物検査の持ち回り俺だって言ってただろ。つうかいい加減自分でも起きる努力しろ!」
4時間目の授業が終わった直後。昼休みに入ってから、登校してきた幼なじみからの第一声に、俺は大きな溜め息をついた。只でさえ1年落としているというのに。このまま2年生を何度続けるつもりなのか。
「お前いつまで2年生でいるつもりだよ…」
「ま~くんが卒業しちゃうなら、俺は学校居てもつまんないしそのまま退学でもいいんだけどね」
「だったらもう少し真面目になれ!ほら、飯食って午後の授業はでるぞ」
「いたっ!寝起きの頭叩かないでよー。ふわふわしてるのにー」
未だにうつらうつらとしている凛月をつれて、購買に向かう。人混み嫌いーとかいう声が聞こえてくるけど、それなら少しは自分で動けよ、とまたため息。
「とりあえずパンと飲み物は確保できたし教室戻る…」
「あ、衣更先輩」
「んぁ?高峯。お前から話しかけてくるなんて珍しいな。バスケ部の伝達か?」
「いや、違くて…えっと、今日昼休みに、流星隊集合って守沢先輩から連絡来てたんスけど、仙石くん見当たらなくて…衣更先輩のとこにいないかなって思ったんスけど…」
「俺のとこは来てないぞ?今日は先生にも捕まってなかったみたいだし…(持ち物検査俺が逃してやったし)」
「…そっか。衣更先輩でもわからないとなると困ったなぁ…あ、急にすいませんでした」
ぺこり、とお辞儀をするとそのまま廊下の奥で手を振っている守沢部長の方に駆けていく高峯。ユニットの集合を無視するような奴だとは思わないんだけど……
【仙石、お前どこに隠れてんだー?】
LINEをしてみたけれど、ユニットのメンバーからの連絡にも出ないんじゃ、俺への返信も望み薄かもしれないが。
「…なに、忍者くん 迷子なの?」
「お、なんだ聞いてたのか。何の連絡もなしに、居なくなるような奴だとは思わないんだけどな~」
「ふーん…」
朝は、いつも通りだったと思うんだけどなぁ…?
*
「…昼ごはんを食べたら、昼寝をするのが世の原則だよね~。ま~くんは、それがわかってないから困る…」
トイレに行ってくる、と言ったま~くんの目を盗んで、5限目もうたた寝をするべくどこか良い場所がないかを探す。いつもの場所は、まだ陽が当たっている時間帯だろうから、もう少し日陰でもいいかなぁ。寒すぎても嫌だけど…。
「あれ?」
木陰に見えたのは、小さな人影。頭がかくんかくん、と揺れている様子から察するに、どうやら眠りこけているようだ。
「あー、やっぱりま~くんが探してた忍者くんじゃん。ん?なんか瞼はれてる…」
まるで泣き腫らしたかのように紅くなっている瞼。制服の袖口で涙を拭ったのか、少しばかり袖口が湿っているように見える。
「いさらどの…嫌いにならないで」
「ま~くん?」
ま~くんと何かあったのだろうか。否、でも先程までのま~くんの様子はいつもと変わりなかったはずだ。…となると、何か1人で思いつめたとか…?
「おーい、忍者くーん。こんな所で寝てたら風邪引くよ」
肩をたたいてみたり、顔を覗き込んだりしていると
「ん、ふ、…っえ!えっと、いきなり何でござるか!」
パチリ、開眼したかと思うと目の前にいた俺に驚いたのか、後ずさりしようとして、そのままよろけてしまった。
「何って……ま~くん達が、あんたの事探してたんだけど。見たところ訳ありみたいだから、連絡はしてないけどさぁ」
「訳あり…か、かたじけないでござる」
「別にいいけどねぇ。俺は昼寝に来ただけだから」
俺は、この子とはそう親しくないし。流星隊のメンバーとも、そう親しくない。だからもし、連絡するとしたらま~くんの所かな、て思ったけれど。俺自身、授業ふけてきた組だし、この子はこの子でま~くんと何かあるみたいだし。
ごろん、と背を向ける形で横になる。んー、転校生に余ってるタオルでももらってくればよかったかも。
「さ、朔間殿…」
「…なに?俺あんまり名字で呼ばれる事ないから、名前で読んでくれて構わないんだけど」
「で、では凛月殿!…えっと、以前 衣更殿に伺ったんでござるが、凛月殿は毎日衣更殿が起こしに来てくれているんでござるか?」
恐る恐る、といった様子で質問をしてきた。
「毎日じゃないけど、基本頼んでもないのに勝手に来るね。それがどうかした?」
「め、面倒をかけてしまっている、と感じる事とかはないんでござるか?…拙者は、いつも衣更殿に迷惑ばかりかけてしまう故…」
震える声が気になり、そちらに目をやると、涙をいっぱい溜めて今にもぼろぼろと泣き出してしまいそうになっていた。
「え。なんで泣くの…ま~くんがあんたの事、迷惑って言ったの?それとも他になんか言われた?」
「い、言われてないでござる」
「だったら何で、そんな言われてもいない事で悩む必要があるの?」
迷惑かどうかなんて、本人がどう思ってるか感じ方次第じゃん。しかも相手は、あの自ら面倒ごとに巻き込まれるま~くんだ。
「拙者のせいで、いつも衣更殿にお世話をかけてしまっていて…、せ、せっかく仲良くしてくれているのにっ、迷惑しかかけられないのは一緒に居ても邪魔にしかならないでござるー」
ついには、うえぇぇぇん、と大声で泣き出してしまった。えぇ…俺、泣いてる子宥めるのなんて超苦手なんだけど…。
「あー…、もう泣かないでよぉ…。俺、泣いてる子供とかあやせない…」
「拙者は、子供じゃないでござるー!うわぁぁぁん!!」
「もう……」
乱暴に涙でぐしゃぐしゃな顔に、服の袖を押し付ける。泣き止ませる言葉なんて解んないけど、大泣きされたままでも困るから。こうするしか思いつかなかった。
「ま~くんは、好きで面倒ごとにも首つっこんでんだから、頼っちゃえばいいんだよ」
「し、しかし」
「俺は、自分が毎回ま~くんに起こしに来てもらったり、寝てた授業のノート取ってもらってるの当然だと思ってる…
「“当然”は、言い過ぎじゃねえの?りっちゃん」
「あれ、ま~くん」
「い、衣更殿…」
呆れた顔をしたま~くんが、地べたに座り込む俺たちを見下げて立っていた。
*
トイレから出てきたら、そこに凛月はいなくて。あいつ、また逃げやがった、と溜息をつく。行きそうな場所は幾つか心当たりはある。5限が始まるまで、あと10分か。そう遠くにはいっていないはず、そう考え、凛月が立ち寄りそうなところへと足を向けた。
天気が良い時は“日差しが強くないところ”。 確か以前そんなことを口にしていたような気がして、校舎裏の木陰に向かった。すると、そこで聞こえてきたのが仙石の泣き声だった。
『 拙者は、子供じゃないでござるー!』
ぎょっ、としてその場に近付くと困った顔をして仙石の顔をぐしゃぐしゃと拭う凛月がそこにいた。
「やっほー、ま~くんもサボり?」
「サボりじゃねえよ!お前が逃げたから探しに来たんだっつの!そしたら仙石の泣き声が聞こえたから吃驚したわ!」
話途中の様子しか見ていないけれど、どうやらこいつは泣き出した仙石を宥めようとしてたみたいだし、凛月が泣かした訳では無いのだろう。
「ね、ま~くんは、俺のことも、この子のことも、迷惑だと思ってなんかないでしょ?」
「な!凛月殿っ、いきなりそんなこと聞かないで下されっ!拙者心の準備が…」
わたわたと凛月の腕をつかむ仙石。こいつら、こんなに仲良かったのか。
「迷惑、とは思ってないけど…。つか何いきなり、そんな事聞いてくんだよ」
「この子が、ま~くんに迷惑かけてるんじゃないかって思いつめてたんだよ。ま~くん、好きで人の面倒見てるから迷惑なんて思ってないでしょ?」
さも当然のようにそう言ってのけた凛月。それを見て、仙石は真っ赤な顔をして「何で言っちゃう…!」と、涙でべしゃべしゃの顔を更に歪ませたのだった。
「えっと、仙石?ごめんな、俺の幼馴染が空気読めなくて」
「ひっどーい。俺は1人で悩んでるこの子の味方として、代弁してあげたのに~」
「本人が望んでなきゃ、代弁じゃないだろ!ほら、仙石もいつまでも泣いてないで泣きやめ。なっ?」
「うぅ…」
結局、あーだこーだしている内に5限目は、始まってしまっていて。凛月は「生徒会役員もサボり~」と少しばかり浮かれたような声を出していた。
ようやく泣き止んだ仙石は、目が真っ赤になっていた。
「ほら、仙石。タオル濡らしてきたから、目、押さえとけ。今日、流星隊練習日だろ?あと高峯たち、心配してたからちゃんと連絡しとけよ」
「かたじけないでござる…またご迷惑を…」
「迷惑じゃねえから気にすんなって!」
「衣更殿ー!」
凛月も散々言っていたみたいだけど、こういう性分だし。本当に迷惑だったら、俺からちゃんと言うことくらいできる。
「安心したら、眠くなってきたでござる…」
「あー、5限も今更出れないし、休んでくか。凛月なんて既に寝てるし。膝でも肩でも貸してやるから寄っ掛かっていいぞ」
「えー、ま~くんズルイ、俺にも膝枕~」
「お前いつもそのまま寝てんだろ」
「ひどいなー」
「ふふっ」
「おっ」
「やっと笑ったねー」
「え、あの。お2人を見ていたら、なんだか笑ってしまったでござるよ」
「笑うのと、寝るのは、いい事だよ。沢山ま~くんのとこにも笑ってあげてね、喜ぶはずだから。じゃあ俺は、ま~くんのうるさくない所で寝るから。またねぇ」
ひらひらと手を振ると、ふらっとその場から離れていってしまった。その場に残されたのは、俺と仙石。こちらは、凛月の余分な一言がこそばゆくて、何ともいたたまれない気持ちのままなのだけれど。
「…いさらどの…むにゃむにゃ」
「って!え!もう寝てんのかよ!」
しっかりと俺のブレザーの裾を握りしめて、肩に寄っ掛かって眠り始めていた。安心した顔で眠るこの後輩に、まだまだ振り回されるのだろうか。+ 手のかかる幼馴染みだ。
「相変わらず忙しいなぁ、俺」
【 仙石、確保したから練習には行くようにさせるから】
高峯に連絡を入れると、隣でうとうとしている仙石を起こさないように、小さく伸びをした。
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