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噂と迷惑
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その日の放課後。
部活のある仁と三月と別れて俺は玄関の下駄箱の前で靴を履き替えていたとき。
「和正くん、最近氷室瞬って人と仲いいよね」
「!」
そんな女子の声が聞こえて、思わず息を潜めた。
下駄箱の向こう側から声が聞こえる。
多分数人の女子が群がって話してるのだろう。
周りには、時間が少し遅いせいかほとんど人の姿はない。
「なんで急に仲良くなったのかな」
「それが、和正くんが氷室瞬に結構絡んでるみたいよ」
「えー、私は氷室瞬がかずくんに言い寄ってるって聞いたけど」
言い寄ってるって…。
いつの間にか、いろんなところで噂されてるみたいだ。
ただあまり、いい気分ではない。
「つーか、なんで氷室瞬?」
「思った。だってあの人暗いじゃん」
「何となくかずくんのイメージダウンするからまとわりつかないでほしい」
「!!」
それからの会話は、耳に入ってこなかった。
俺が近くにいたら、大泉くんに迷惑がかかる…。
やっぱり、俺はあの人と一緒にいてはダメなんだ。
女子たちは玄関を出て帰って行った。
「……いっ………」
急に腹痛がおこる。
あまりの痛さに、俺はその場に座り込んでしまった。
……情けない。
大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
だが、腹の痛みは治まらない。
「おい、氷室?だっけ。大丈夫か?」
頭上から名前を呼ばれ顔を上げると、そこには心配そうに俺を見つめる九城くんが立っていた。
「あ、九城、くん……。大丈夫、だよ、気にしないで」
笑顔を作って、立ち上がろうとしたが思ったよりも辛くて立ち上がれない。
「うぅ…」
「…腹痛いのか?」
腹をおさえてうずくまる俺の側にしゃがんで、九城くんは背中を擦ってくれた。
今日初めて言葉を交わしたのにどうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。
背中から伝わってくる体温があたたかすぎて、涙が出そうになった。
「大丈夫か?」
「うん……だいぶ楽になった、ありがとう…」
「保健室行くか?」
「ううん、大丈夫」
九城くんに微笑み、治まってきた痛みに安堵する。
もしかしたら、今はただ人が恋しかっただけかも知れない。
「ありがとう、九城くん、もう…………」
「……氷室?」
声が聞こえて、九城くんの後ろに目をやる。
九城くんも振り向いた。
「……大泉、くん」
「どうしたんだ?」
大泉くんが俺たちの方に駆け寄ってくる。
や、やばい、今大泉くんと話したら、きっと……。
「や、だいじょうぶ、だから……」
顔が見られない。
ダメなんだ。
来ないでくれ。
もう君に、迷惑かけたくないんだ。
大泉くんの手が、俺の肩に触れそうになったとき、俺は咄嗟に彼の手を振り払った。
「………氷室?」
驚いた表情をしている大泉くんが俺を見つめている。
俺、最低だ。
大泉くんは俺を心配してくれたのに、俺は拒否して…。
その場に居づらくなって、立ち上がった。
「九城くん、ありがとう、もう大丈夫。………じゃあ」
「あ、あぁ」
急いで靴を履き替えて、俺は外に飛び出した。
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