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虎のようにお前の前に皮を残して、人のようにお前の中に名を残したい。
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「わ、私はっ!!!私は、お前の前に虎のような立派で値打ちのある皮を残してやる事は出来ない!だからといって、
お前の中に……その脳裏に名を刻んで行く事も出来ないっ!……私に、名など無いのだから……」
大きな声は次第に震えだし、途絶えがちになり、さらには嗚咽が混じりはじめた
悪魔祓いがその変化に驚いて精霊のその人らしからぬ顔を見ると、
それはぐちゃぐちゃに歪み、瞳からはボロボロと
大粒の涙を零していた。
しばらく息も絶え絶えになり、
ヒッ、ヒッ、と吸うばかりのそれになると、途端に過呼吸のようになった。驚いて手助けしようとするが、
精霊はすぐにそれを整えてみせた。
冷静だ、冷静であり、なんと感情的なのか。
「私は、居れば居ただけ、お前は病むしかない。
私がお前の笑顔を見たくとも、近寄ればお前は更に苦しむだけだ。
……あぁ、好きなのだ。私は、お前がこんなにも好きなのだっ……
側に居たくて、触れたくて、笑顔を見たいのだ。」
その顔はすでに、最愛の人物へ、微笑んでいるのか、泣きついているのかわからなくなっていた。
側に居たくて、触れたくて、笑顔にしたい。
けれど自分が与えられるモノは全てその逆。
悪魔祓いは、その姿を見て、滑稽だなどと、どうして一瞬でも思ったのかと
己の心の狭さを悔いて、悔いて、歯ぎしりをした。
この精霊は、自らが災いをもたらしていると知ってすぐに、迷う事すらなく、真っ直ぐに自ら悪魔祓いに狩られに行ったのだ。
自分の存在を無闇に悔やみ泣き崩れるのに時を費やす事もなく、
或いは、一か八か想いを言葉にして男に伝える事もせずに。
一刻でも早く、この男を病から遠ざけようと、自ら消されに来たのだ。
その声は、姿は、あまりにも痛々しく悲しい。
「ごめん、ごめん、愛しているのに苦しめてごめん。」
嗚咽にまみれた声は、そう言うと、再び泣き声へと変わっていった。
「……精霊よ、お前は、1度でも触れたいと願うか?」
悪魔祓いは、精霊にそう尋ねた
精霊は驚いて目を見開くと震える口を開いた。
獣の牙のようなモノが覗いた
それでも答えを口に出来ずにいる精霊に、悪魔祓いは告げた
「姿を見せ、触れて、何よりお前のその美しい涙を男の中へ残さないか?」
自分らしからぬ提案だと悪魔祓いは自分で自分に驚いた。
────仕方がないさ、こんなにも悲しく美しい心には始めて触れたのだから。
「精霊よ、時に涙は、名よりも強く心に残るのだぞ。」
心こそ、その人物の中の中だ。
その提案に、精霊は声も出さず幾度も幾度も頷いた。
悪魔祓いは、精霊の角を押し上げるようにしてその顔を向かせると、耳元で呟いた
「次に男が目を覚ますまで、お前を夢へと誘おう。」
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