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虎のようにお前の前に皮を残して、人のようにお前の中に名を残したい。最終話
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「…消えたくない、けれど消えてあげたい。」
少し俯いて歯をいしばる精霊の顔を自分の方へと向けると、
男は自分の顔を近づけ、言った
「ごめんね、何か解らないけれど、君は僕を守ってくれるのだね。」
ごめんね、ありがとう。ごめんね、
繰り返し言いながら男は精霊の顔をこちらに向けて涙を零し続けた
そして、その口元に触れると言った
「ねえ、口を開いて?キスをしてもいい?」
その問いかけに、
零れる涙をそのままにそっと口を開いた精霊のそれを男の唇が塞いだ。
「……んっ!」
そのまま精霊側に男の舌が入り
その獣のような牙の裏をそっと辿る
「……ふっ」
思わず漏れる声は、小さく艶っぽく
なんて幸福に彩られていただろうか。
そのまま2人は舌を絡ませ、
その舌に乗り、男の唾液が共に入ってくる感覚が、共になれた幸せを実感させた。
どちらともなく、舌を甘く噛みあうのを少し続け
口内にたまった唾液を男が吸う
「…んっ、はっ、あ……」
漏れる声を合図にするかのように、
躊躇いながら、唇は離れ離れになろうとした
離れるそれを追うようにして
精霊は男の唇へ軽いキスをすると
少しだけ見つめ合いまた2人ボロボロと涙を零し
強、強く抱き合った
「……覚えておくから、覚えておくから……」
そう呟く男の顔は泣き笑いで、
精霊はそれに頷き、漏れる息ほどの笑い声。
そして先の言葉を飲み込んだ
ありがとう、ありがとう。
ありがとう、愛しています。
繰り返す言葉は呪文のようで
ありがとう、ありがとう
哀しい涙は、喜びの涙へ。
喜びの涙は、慈しみの涙へ。
愛おしく、愛おしく。ただひたすらに愛おしく
虎のように立派な財産は残せずとも
人のように残せる名などなくとも
虎にも勝る大きな勇気で自ら去り
人の名ではなく、優しい涙をその心へと落として行った。
ありがとう
言葉と共に男は目を覚ました。
何かが無くなった気もするような自分の部屋をしばし眺めると、
そっと自分の頬に触れ、その手を見つめて呟いた
「……僕の中に残っているよ、キミの涙」
男の顔は泣き笑いで、
耳の奥で、漏れる息ほどの笑い声
ありがとう。と言うかのように。
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