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結局近くの定食屋に連れていかれて、仕方なくざるそば定食を注文した。
目の前に出てきても、だめ。全然食欲をそそられない。けど、結城の手前うんざりしながらもずるずるそばをすする。
「お前、兄弟と暮らしてるんだったよな?」
「うん、まぁね~」
「もしかして、世話とか忙しい?」
「いや~優秀な妹が面倒見てくれるからそうでもないよ?俺は、家では寝てるだけ~。」
「ほんとかよ…お前、鏡見てる?目の下真黒だぞ?」
事実だ。家では本当にずっと寝てる。そもそも家にいる時間自体かなり短いのだけれど。
こないだなんか、酔っていたわけでもないのに玄関で蹲って寝てしまった。
結城には夜もバイトしていることは話していない。
別に副業禁止とかの規則はないし、隠している訳でもないんだけど、そんなに騒がれたくもないし。
そうかなあ?とへらへら笑うおれに結城があきれたような顔をしている。
「な、今度さ、お前んちいっちゃだめか?」
「へ!?なんで?……ま、まさか結城まで俺をそういう目で見てたのか!?まじかよ…俺女の子にモテたいよ…。」
「なっ、はっ!?心の声ダダ漏れだぞお前!変な意味じゃねぇって!友達の家に行くくらい普通だろ!?ただ、お前がほんとにちゃんと休めてるか様子をだな…!」
あ、なんだ、そういうことか。
最近あまりにもそういう人に囲まれすぎているせいで、すぐに疑ってしまう。工場の結城まで同じ風に考えちゃまずいよな、うん。
「ありがと。でもおれは大丈夫だから。うち、散らかってるし騒がしいし、あんまり人は呼べないわ。」
お前の大丈夫は信用できないんだよなぁ、と結城がぼやく。おれは随分と信用されていないらしい。
余計なお世話だ。ちょっとむっとして、おれはくちを閉ざす。
少しの間、沈黙が続いた。
そばを三分の二ほど食べ終えていたおれは、ちょっと胃がむかむかするのを感じて箸を置いた。
これは、ちょっとやばい、いや、結構やばい。本気で気持ち悪い。
なんだか指先が冷たくなる感じ。すごく、嫌な感覚。
「……ごちそうさま。」
「もう食べないのか?」
「ん、お腹いっぱい。……ちょ、ごめ、トイレ行ってくるわ。」
結城の怪訝そうな視線を背中に感じながらも、トイレに早歩きで向かう。
自然と右手が胃の辺りをつかんでいた。
個室に飛び込むと、おれはすぐさま便器に顔を突っ込んで嘔吐した。
「ごほっ…ごほ、…うぇっ…げほげほっ…」
食べたばかりのものが、全部吐き出される。胃の中身がなくなっても、まだ吐き気が止まなくて、口の中が酸っぱくなって。
もどしたのなんて、いつぶりだろう。苦しい。すごく、苦しい。
でも、苦しみはそんなに長くは続かなかった。少しすると吐き気が収まり、おれは個室を出て、洗面台でうがいして顔を洗った。
そういえば、今日はいつもに増して体のだるさがひどかった。もしかすると、風邪でも引いたのかもしれない。
鏡に映った俺の顔は、紙みたいに真っ白で、なんだか、自分じゃないみたいだった。
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