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考え事は歌声へと
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小さい頃は、よくスカートを穿かされた。
政治家で家に帰ってくることの少なかった父と、役者をしていて常に忙しかった母。
家に誰かが居ることは少なかった。
その為、家にいる時にふと母が「娘役にピッタリね!お母さんの練習に付き合ってくれるかしら?」と言いながら楽しそうにワンピースやスカートを着せてくれた時は、自分を見てくれていると感じて嬉しくなった。
ふと目に入った母さんの顔は嬉しそうで、そんな母さんの姿を見ているとつられて俺も笑顔になった。
それからはよく母さんの劇団へ連れて行って貰ったり、読み合わせの練習をさせて貰った。
母さんのおかげで沢山演劇に触れる内に、俺自身もどんどんハマっていった。
だが、俺には他の子と少し違う部分があった。
どうしても、男の役にハマり切れない。
男の登場人物の気持ちを考えてもどうしても自分の気持ちが勝ってしまうのだ。
このシーンでどうしてヒロインを抱き締めるんだ。
どうしてここまで裏切られて、この友人を許せるのか。
そんな気持ちが払い切れず、男役の演技は下手だと自他共に認める程、俺の演技は酷いものだった。
だが、そんな気持ちとは逆に、女役にはピタリと役に入り込む事ができた。
俺にとって女性は未知のもの。
1人の女性を俺の手で完成させ、劇団の皆と作品を創り上げる事に夢中になった。
決して心が女性という事は無いのだが、演技を見ている者からは俺の姿が「女」に見えたのだろう。
母さんが気を遣い劇団のパンフレットに個人情報を一切書かなかった。逆にそれがミステリアスだと評判になり、俺はいつしかその時の役名「マリア」と呼ばれるようになった。
それから…………
「……歌声に迷いが出てるな。君は良い声をしているのに勿体無い。」
誰も居ない筈の校舎に、凛とした声が響き渡る。
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