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コーヒーはにがい
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優斗(ゆうと)が窓を開けると、秋の匂いのする風が頬を撫でた。目を閉じて深く空気を吸い込むと、身体がひんやりと涼しくなって、夏が終わってしまった事を思い出す。
「おーい、ゆう兄いるだろ、あけて!」
少しだけ感傷に浸っていると、ドアを乱暴に叩く音と光輝(こうき)の元気な声が聞えてきた。
「そんなに大きい声を出さなくても聞こえるって。こうちゃん、学校は?」
「もう終わった!遊ぼうよ、どうせ暇でしょ」
そう言うと光輝は優斗を押しのけて家に上がり込み、ソファに寝転がった。
「ちょっと、ソファ占領しないでよ、僕も座らせてって」
「んー、ゆう兄は一日ぐうたらしてただろ。俺をいたわってよ」
労わるなんて言葉、自分が小学生の時は使わなかった。最近の小学生はなんて大人っぽいのだろう。
優斗は今年から中学に上がり、もう半年が過ぎた。6時間もある授業にも慣れて、やっと中学生らしくなってきた頃だ。
しかし、身長はあまり伸びずまだ150㎝に届かない。色も白く、体格も華奢なため、見た目は中学生どころか小学生の光輝よりも年下に見える。
「ぐうたらって、今日少し熱があったから学校休んだの。怠けてたみたいに言わないでよ」
「まじかよ。熱なんて、俺は4年生の時からでてないよ。ゆう兄って弱っちいよなあ」
しかたなくソファに背を預け床に座っている優斗の
頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる光輝は、もうすぐ160㎝に届くと自慢していた。
夏休みでこんがりと日焼けした光輝と並ぶと、自分が凄く小さく見えてしまって、優斗はすこし悲しい気持ちになった。
「あ、ゆう兄怒った?」
自分も光輝のように大きくなれたら。そんなことを考えていたら、光輝が心配そうにのぞき込んできた。
「ごめん、ぼうっとしちゃった。怒ってないよ」
しょんぼりとしてしまった光輝が可哀想になって、相変わらず自分の頭を撫で続けている光輝の手を握ってやる。
見た目は真っ黒で暖かそうなのに、掴んだ手は少し冷たかった。
「ん、ゆう兄の手あったかい。まだ熱あるんじゃない?」
「え、そうかな?こうちゃんにうつしたら悪いな。今日はもう帰りなよ」
「やだ。俺強いから平気だもん」
優斗が帰るように促すと、光輝は慌てたようにソファから起き上がり、早口で言った。
「でも、もし熱が出ちゃったら、こうちゃん嫌でしょ?学校も行けなくなっちゃうよ」
自分のせいで光輝が辛い思いをしてしまうのは嫌だった。
家が隣同士で両家とも親が共働きで、二人はよく一緒に留守番をしていた。
そのせいか、優斗にとって光輝は弟のようなものだ。
最近は生意気だが、少し前まで自分にくっついて甘えてきた可愛い弟のことを、心配せずにはいられない。
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