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工具チョコレート
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二作
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工業高校と言うと、女子生徒が極端に少ないことで通っているが、伊達工業高校――通称伊達高も、その一端である。バレンタイン当日、そこそこハードでそこそこ鬼畜な練習メニューをこなした放課後。
この伊達高バレー部部室でも、飢えた男達がチョコという名の女子からの愛情を欲して今更ながら嘆いていた。
「いや、ほんと今さらじゃない?もうバレンタイン終わりだよ。ジ・エンドだよ」
「オメー茂庭、夢ねえなぁ。もしかしたら『鎌先君のこと、待ってたの…!良かったらこれ…食べて……?寒いなか、引き留めてゴメンねっ…!!!(裏声)』って言ってくれる子が帰りに現れるかもだろーが!」
熱弁する鎌先に、同調する者も多数。やはり、女子が少ないことは男子たちのイマジネーションを高めているようである。そうでないものもいるが。
「プッスーww裏声パネェwつーか鎌先センパァイ、ドリームはやめたらどうですー? そんなんイケメン()にしか許されないイベントっすから。鎌先センパイにそんなイベントとかもう、九官鳥がホムンクルス造るくらいの確率であり得ないっすよ(笑)」
「テメェ…腹筋カレールーにしてやろうか……おい笑うな!!笹やんも!!!」
「っっw蝋人形のパクりですかwwwサタン様チッスチーッスww」
この生意気な後輩、名を二口堅治という。
そして、
「二口先輩、もうやめましょうよ…」
こちらの真面目そうなセンター分けの少年が、作並浩輔。
作並の静止にぐるりと振り向いた二口は、彼のカバンを覗き込むと同時に口角をあげた。作並は即座にカバンを奪い返し、臨戦態勢に入っている。
「……なんですか、二口先輩」
「いやー? 作並も止めようとか言ってるわりにチョコもらっちゃってんじゃーん。先輩ビックリしたなぁ~」
「ホンとかよ作並」
「あの作並でさえ……っ。何が足りないんだ。可愛いさか?!」
とたんにざわざわと広がる動揺の波。これでは吊し上げも同義である。鎌先へのいつものからかいを邪魔されたあてつけか。ただの気まぐれか。作並は、どちらにせよ面倒なことこの上ない先輩を、ぱっちりとした目で睨んだ。
「…一個ですよ。それに義理です。」
「ふーん。これ、手作りみたいだけど??」
再び、ざわめき。男子校然とした伊達高男子には、手作りチョコは高嶺…アルプス並みの場所の花である。
「本命チョコ作りの実験台…というか練習用をお裾分けされたんですよ。タイミングがよかっただけです。」
「……言い訳はそれだけ?」
不意に、二口は声を低くし問いかける。ぴくりと反応を示した作並の頬は、僅かに強張っていた。しかし、二口の背中を叩いて訴えるものが一人。身勝手な相棒を持つ寡黙なバレーバカ、青根である。
「…………………」
「…何だよ青根…っておいやめろ、カバンひっくり返すな!やめっ…(ドサドサ バサバサッ
青根が無言で二口の鞄を掴み、底を持って振る。すると、鞄の底と同じサイズの厚紙と共に、キレイにラッピングされた箱が小山になるくらいは落ちてきた。
「へぇ…」
「…あーもう……鎌先パイセンが色々うるさ…五月蝿いから隠してあったのに台無しじゃねーか青根ぇ」
「あいつサイテーだな」
「茂庭がサイテー、とか…おい二口謝れ」
「さすがの笹やんもこれはフォローできねぇか」
飛び交うのは、冷静なツッコミやブーイングの嵐。それに参加するわけでもないが、作並も冷めた目でかれを見ていた。
ニヤニヤと、視線を受け流す二口に背後の三年生たちはあきれ果てた表情だ。
後輩に対してはあまり絡まない二口が、このごろ作並に対してだけ絡むようになったものだから少々心配していたのだが、虐め等と言うようなものではないと判断し、下手に突っ込むと蛇どころかヤマタノオロチがでると、あまりにも酷くなるまでは黙認することにしたらしい。
懸命な判断であろう。なにせこの二人、同じバレー部、先輩後輩男同士……で、性的な意味のお付き合いをしているのである。
「二口先輩のくそったれ」
ほぼ全ての部員が帰ったあと、鍵当番の二人が小さな空間にぽつり、ぽつりと座っていた。二つ並べられた長椅子に、微妙に離れて二つの影。一人はチョコレートの箱を弄り、もう一人は着替えなどを鞄に片付けている。
「くそったれはねえだろ…お前も貰ってるし。」
「………」
「本命だろ、しかも」
「っ…!? なんでっ………!!」
見てたよ、と言う。さらりと。
その然り気無い攻撃に、作並は唇を噛む。
自分の恋人が、『大切な人がいるから』と本命チョコを断っているのを、彼を想っている後輩女子づてに聞いた。それが自分のことだとわかって嬉しかったし、同時に、本命チョコに舞い上がってつい、受け取ってしまった自分が情けなかった。みっともない姿を見てほしくなかった。
「……ごめん、なさ」
「へぇ? 悪いとは思ってるんだな」
言いながら、誰かからもらった義理の思いを紐解く。
薄い板を口に放り込んで転がした。
パキリ。音が聞こえるように。
罪悪感と、羞恥心。それに頭を押さえつけられたように頭を垂れる作並の目の前に差し込まれた、可愛いげのない黒い箱。
「ほら。」
「…え?」
一緒に、二口の顔が覗き込む。いつの間に移動したのか、彼は作並の前にひざまずいていた。
「これ。」
箱を示す二口が、受けとれ、と口に出さずとも言っていて、咄嗟に作並は首を横に降った。どうして自分にこんなものを、と驚きながら。
「おまえなー…俺の厚意を二回も無駄にしたいの?」
「…だって」
「ハァ…」
呆れられた。きっと彼は今自分を蔑みの目で見ていると作並は身を縮めた。
カサリと音がするも、作並は顔をあげられない。
不意に、顎を掴まれ、持ち上げられる。
「……ばーか。」
「えっ…う…ぁ」
「ん、」
「ゃ…あ、んん…」
「……ぷはっ! な、なん…ですか!!」
「…お前は真面目すぎるし、変なとこで強情だろ。俺のからかいをいつまでも引き摺るから、毎回どーするか困ってんの。」
「……何を」
「俺が、からかったあとの事を考えるのも、なるだけ誠実でいたいって思うのも。お前だけなんだよ。……悔しいけど。」
作並が反射で閉じていた目を開く。チョコレート色の髪が瞼に掛かった。
「だからさ。」
覗く瞳には自分しか映らない。
「最後まで責任とれよ、浩輔。」
少しだけ重い気持ちの詰まった箱が、作並の鞄に入りきらないまま彼の指に当たって音をたてた。その音さえ、耳には届かない。
「お前が他のヤツになびこうが、ぜってー逃がさねぇから。
…………このまま、俺を作り替えてくれよ?」
二口が床に箱をおく。封を解かれた箱の中には、彼らの手に馴染む型の硬質なそれとよく似たカタチが、使われるのを待っていた。
鍵はまだ閉まらない。
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貴方になら改造されたって構わないわ。
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