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いじめ Side葵
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濡れた本を持ってた明石の事を心配したら、新が止めに入ってきて少しムッとなった。
でもそれに言い返そうとすると矢部が俺の手をくいくいって引っ張って、口パクで『落ち着け』って言われて我に返った。
明石が居ない。
もうどこかに行ったのかな。
廊下を探そうと思って出入口に行ったら、矢部に腕を掴まれて連れていかれた。
新も付いてきたがったけど斗真が強い口調で来るなって言ったら、少し拗ねたような顔をして教室に戻って行った。
連れていかれたのはトイレだったけど、時間が時間だからか誰も居なかった。
「斗真、どうしたんだよ」
「あー、悪い。手、痛かったか?」
「別に痛くは無かったけど、新にも来るなって言うし」
「まぁ落ち着け。順番に話すよ。ところでその前に一つ訊きたいんだけど、朝お前が頭抱えてた理由って明石か?」
気付かれてた・・・そういえば斗真にしては変な方向に話を持って行ってた気がする。
「まぁ、うん」
斗真が大きくため息をついたから、なんだかすごく悪い事をした気になった。
「藤宮。俺言ったよな?関わるなって」
「い、言われたけど。でも俺納得してないし」
「・・・あのな、その時も言った気がするけど俺別に明石が嫌いなんじゃない。お前が明石と仲良くするのが気に入らない訳でも無い」
「俺だって言ったじゃんか、何で駄目なんだよ」
この流れなら教えてくれるのかと思ったけど、斗真は口ごもってあからさまに話を切り上げた。
「まぁそれはそのうち話すよ。だけど今は、とにかく関わるな。話すなとか、あいさつするなとかそんなことは言わないし、そもそも関わるなって言う権利も無い事は分かってる。
だから友達としていうぞ。明石とは関わらない方が良い。今はな」
「・・・」
俺は何とも答えられなかった。
まだ知り合って少ししか経ってないけど、斗真は凄く頭が良いし、空気も読める。
俺が嫌がってるって事を分かった上で何回もこんな話をしてくるんだから、きっと何か事情が有って本当に心配してくれてるんだろうとは思う。
でもだからって、明石が何されても黙ってろって言われたらそれは嫌だ。
確かに明石は愛想が無いし、俺らの年代には、はっきり言って嫌われる性格をしてると思う。
でも、それだけじゃん。
今朝だって挨拶を返してくれたし、俺が空気を壊すまでは返事もしてくれてた。
誰にだって話したくない話題とか、流れとか、気分とかがある。
明石だって同じだ。
ただそれが人と少し違うから、俺らには分かんないから嫌な奴に見えるだけだと思う。
黙り込んだ俺を見て、斗真がまた溜息を吐いた。
「ま、無理にとは言わねーけど何かあったらすぐに言え。いいな?」
「ん、その、心配してくれてありがと」
「気にすんな、みーちゃん」
俺は斗真の背中を思い切り殴ってトイレから追い出した。
その後教室に戻ると同時に予鈴が鳴った。
昨日の感じで言えばあと少しだけゆっくりできるのかなと思ったら、担任の先生がすぐに入って来た。
でも斗真が「は?早くね?」とか言ってたので、いつもと少し違うらしい。
教室に入った先生は教壇に向かわずに一直線に壁際の席へと向かった。
事態が読めなくて斗真の肩を叩いたら「あれ、明石の席」と答えが返ってきて、それだけで何となく事態が飲み込めた。
「おい、何で机の中が水浸しになってんだ」
教室の方々で固まっていた皆がぴたりと話すのを止めて、他のクラスの騒ぐ声が聞こえる。
「誰がやった」
あくまで冷静な先生の声色に苛立ちが含まれる。
俺は斗真の斜め後ろで立ち尽くしていた。
ちっ
先生の舌打ちは凄く小さな音だったけど、教室の空気が一瞬で凍り付いたのが分かった。
そして近くの生徒に雑巾をもらった先生が、濡れた床に膝をついて机の中を拭き始める。
それを見て手伝おうと動いた俺を斗真が制した。
何するんだよって言おうとしたら、斗真はそのまま先生の方に歩み寄って行った。
声を掛けた斗真を振り返った先生が睨んだが、斗真が一言二言何かを話すと「保健室」とだけ言って斗真にも雑巾を持ってくるように指示した。
「保健室に明石が居る」
斗真は俺の横を通るときに早口でそう囁くと、そのまま掃除用具棚からバケツを取って先生の所に戻って行った。
見渡すと皆は当然のように斗真の動きを追っていて、その隙に俺は教室を出た。
保健室に向かって昨日通った廊下を記憶を探りながら歩いていると、向かいから先生の集団がやってきて呼び止められた。
「何をしてるんだね、もうすぐ朝礼じゃないか、予鈴もなっただろ?」
「あ、あの、えと、友達が、保健室で」
「友達?良いから教室に戻りなさい」
「ぇ、あ、でも、その」「担任の先生から言われて様子見に行ってるんです」
後ろから急に声が聞こえて肩が跳ねた。
「何だ、そうならそうと言いなさい。因みにクラスは?」
「三組です」
「あぁ、大林先生のクラスか。分かった行きなさい」
「はい、失礼します」
名前も分からないちょっとぽっちゃりした先生は鷹揚に頷いて歩いて行った。
「みーちゃん、どもりすぎでしょ。あれは俺でも止めるわ」
「あらた、ありがと」
「その新って言うの変えよーよ、あだ名っぽいのが良いな。そーだねー、あーちゃんとか?」
「それはまぁそっちが良いならそうするけど、でもどうしたの?」
「あーのーねー、さっきから斗真とみーちゃんと二人でこそこそやっちゃってさぁ、これ以上仲間外れはなーし」
「いや別に、仲間外れとかじゃなくって」
「俺はウサギなの、寂しいと死んじゃうの。だから一緒に行きまーす。さぁいこー」
ふざけたように新・・・あーちゃんは言ってたけど、トイレに行くときの寂しそうな顔を思い出してほんとに嫌だったんだなって思った。
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