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12 ディナー
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メールが来たのが木曜日、それから月曜日までの間、俺は決めたとおり良人さんの美容室へは行かなかった。
塾帰り、すっかり日課となっていたサロン見学に、俺の足は無意識に美容室へ向かうこともあったが、途中で引き返し家へ真っ直ぐ帰った。
そして今日、月曜日は良人さんとの約束の日、急いで帰ろうと思っていたのに塾の先生に呼び止められ雑用を手伝わされた。
ついてないなとウンザリしながら、良人さんに少し遅くなりそうな事をメールで伝え手早く作業を終えるべく集中する。
作業を終え、時刻は約束の6時を回っていた。
急いで待ち合わせ場所である良人さんの美容室へ向かう。
時折走りながら、やっとのことで待ち合わせ場所に着くと、既に良人さんは来ていて
「お疲れ様」
と、いつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
「遅くなってしまって、すみません」
はぁはぁと、急いで息を整えながら待たせてしまったことを謝る。
「いや、こちらこそ無理を言って呼び出したりしてごめんね?それに、そんなに急いで来てくれてありがとう。ところで、マサト君は門限は何時?」
「門限?」
「うん。門限、ないの?」
そう言えば、夜に友達と遊ぶなんてことをしない俺は、夕方にはいつも家に帰っている。
何か特別な用があって帰りが普段より遅くなるような時は前もって伝えているし、門限なんて考えたこともなかった。
必要がなかった。
親にも、門限について特別何か言われたことなどない。
そして今日のことは、親には言っていない。
しまった、と唇を噛む。
良人さんと会うってことに、自分は随分と浮かれていたらしい。
『夕飯はいらない』
としか伝えていないから、俺が塾の合間に何か食べて帰るのだとしか親は思っていないだろう。
じゃあ、俺が自由に行動を許されている時刻はいつまでだ?
難しい顔をして考え込んでしまった俺に、
「ふむ。まぁ、遅くとも9時までには家に帰れるように店を出よう。ちなみに、今のうちに親へ確認の電話を入れておきな?」
と、助け船を出してくれた。
素直にそれに従い、家へ電話をする。
出たのは母で、帰りが遅くなることを伝えると10時までには帰りなさいと言われた。
良人さんにそれを伝えると、じゃあやっぱり9時には帰れるようにしようと言われる。
「すみません。門限なんて考えたこともなくて・・・」
「夜遊びしない良い子な証拠だと思ったよ?マサト君、本当に真面目そうだもんね」
良人さんの言葉に、自分がどうしようもなく子供に見られていることを感じる。
けれど、実際に自分は子供なんだと、俺は
ショーウインドウの窓ガラスに写る学生服の自分をチラリと見て、
「ただ、つまらない人間だというだけです」
と、静かに言った。
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